奮起と約束の球技大会編
第42話 悲報、主人公。敵になる。
「──悪い、俺。中学までで、サッカー辞めるわ」
あいつは、笑ってそう言った。
小学校低学年から、ずっと一緒にやって来た戦友だった。
何でもそつなくこなしてしまう凄い奴で、どんな些細な手抜きも許さない自他共に厳しい奴だった。
周囲は、そいつを「天才だ」なんて言って褒めていたが、俺は知っていた。
朝、一番早く練習にやって来て、誰よりも長く、速く走り、夜遅くまで集中の糸を一切緩めない。
そんな奴を、天才だと? 普通だろ、こんなに努力して、誰よりも真剣なんだから。
確かに才能というものはある。同じ量の努力をしても
けれど、少なくとも俺がずっと見てきたそいつは、そんな言葉で片付けられるような選手ではなかった。
あいつには、執念があった。コートこそ自分の唯一の居場所とでも言いたげだったから。
だから、俺は納得出来なかった。
「……なんで、辞めるんだよ。高校は全国って、言ってただろ」
「うーん、何というかサッカーが嫌いになったわけじゃないけど、他にやりたいことが出来たんだ」
何の未練も、何の悔いも残っていない。そんなすっきりとした面持ちに、俺は自然と悔しくなった。
「いいのかよ、そんな簡単に辞めて。全部が、無駄になるんだぞっ!」
サッカー絡みで、初めて俺は奴に怒りをぶつけた。
これまでは怒られることはあっても、俺から怒ることなんて……いや、あいつを怒ることなんてあり得なかったのだ。
しかし、次の瞬間には、その燃え上がった感情が俺のエゴだということに、気付かされた。
「──蒼太。お前は、俺みたいになるなよ。お前なら絶対にプロになれる」
らしくなく、からりと笑ったその目は、瞳は深く暗く淀んでいた。
「待てよ──連っ! 俺はっ!」
そう、「全部が無駄になる」なんて口走って止めようとしたくせに、俺はただ、そいつと。
──早見 連とサッカーがやりたいだけだったのだと。
***
うちの球技大会は、少し特殊だ。
通常、クラスごとに各球技のチームを作って競うが、うちの学校ではクラスを四つの色の組に振り分け、さらに学年ごとにチームを作る。
要は一年生の紅組、二年生の白組、三年青組……みたいな形で各競技、12チームにてトーナメントが行われるわけだ。
まあ、つまり何が言いたいのかというと。
──面倒臭い行事。それに尽きる。
「一年紅組ー。こっちに集まれー」
「三年白組はこっちだ」
体育委員と生徒会主導で全校集会の後、グラウンドにて、事前に発表されていた通り、それぞれの学年ごと、色の組に集められた。
「お、早見。お前も二年の緑か」
「おお、板倉。お前がいるとは、頼もしい」
俺が指定された場所に行くと、そこで腕を組み、謎の強者感を醸し出していた板倉と目が合う。
「……去年も思ったけど、なんで緑と黄があるんだろうな」
「それは、誰にも分からん。それより、早見。お前、競技いくつ出る?」
「え、えーと、そうだなぁ……」
競技は四つ。野球、バスケ、バレー。そして、サッカーだ。
「バレーとバスケとかなら多少は出来る、と思う」
無論、体育の授業以外でやったことはないが。それでも、所詮は遊び程度なのだからちょうどいい。
「早見……何言ってんだお前」
「へ?」
「さてはお前、球技大会は所詮、お祭りのようなもの。勝ち負けなんてどうだっていい、そんな風に思ってんだろ?」
な、何故バレたし……。てか、別に勝とうが負けようが、なんの問題もないはずなのだが?
「悪いが、早見。俺は全部勝つ気だぜ? 何せ、負けるのが大嫌いだからなっ!」
……うん、こいつやっぱめんどくさいわ。みんなで砂遊びしてる横で、砂の城とか建ててそうな。
「──賛成。かの偉人は失敗は成功のもとと言った。しかし、それはあくまでも結果的に成功を果たせた者の論理だ」
「くっ……この声は……」
あー、めんどくさいのがもう一人来ちゃったよ。
「最も優れていると言えるのは、一度の失敗もせず、無数の成功を積み重ねることだ。私はそう思う、君はどうかな? 早見君」
いつの間にやら、俺の後ろにいたのは、同じく緑組に振り分けられた三年生。
生徒会長 真田 椿希だった。
「ふっ!!!!」
例の如く、板倉はフリーズする。こいつって、試合中にチアリーダーとかと目があったらどうなるんだろう?
「学年ごとにチームは違えど、点数は色ごとに共有される。つまり、二年生の緑組である君たちが勝たなければ、緑は勝てないかもしれない」
「は、はあ。そうかもですけど……」
だからと言えど、こんな遊びのような行事で本気で勝ちに行く奴らなんて……。
「「勝つぞぉぉぉ!!! 紅組っ!!!」」
おう……おるわ。
「「いやっ! 優勝するのは俺たち白組だぁぁぁ!!!」
まじかよ。
どんだけ暑苦しいんだこの学校……。
「盛り上がっているね」
「みたい、ですね……」
そもそも蒼太と違う組の時点で友人Aとしての任務は引き立て役だろう。いい感じに戦って、いい感じに負ける。
それが理想だ。
「早見君。君はどうやら勘違いをしているらしい」
「はい?」
会長の一言に俺は首を傾げた。
「君は勝つ気がないのではない。勝てないからそもそも挑もうとしていないように見える」
「……っ。だったら? なんの問題が?」
出来ないことをやろうとするのは、傲慢だ。会長もむしろそう思うタイプだと思っていた。
「確かに、二年生で最も運動能力に長けているのは紅組に振り分けられた羽瀬川君だ。しかも、同じ紅組の一年生には二人の強者もいる」
「ほ、ほう?」
「一人は、サッカー部の雨神君。彼、随分とスポーツが得意なようだね」
「……あー、確かに出来そうですね」
なんとなく、そう思った。てか、なんか会長の口振り、データキャラみたいだな……。
「実際、紅組の一年生チームと二年生チームはその二人が核になりうるだろう」
「ええ、盤石でしょうね」
仮にサッカーにおいて、全四色、各学年のチームが組まれるから、12チーム。
それでもし、一年生紅組が優勝しようと、二年生の紅組が優勝しようと紅組が獲得できる点数は変わらない。
つまり、逆に言えば優勝するならそのどちらも倒さなければいけないのだ。
「ま、そこは分かりますけど、会長の言うもう一人ってのは誰ですか?」
「ふっ、惚けているのかな? いつも君と一緒にいるじゃないか」
「……まさか」
「ああ。そのまさかさ。──白峰 翡翠。彼女もああ見えてかなりスポーツが出来る」
……うわぁ、まじか。
「だから、緑組の目標は簡単だと言える。男子は、羽瀬川君と雨神君を倒し、女子は白峰さんを倒す。それが至上の命題だ」
それ、なんて言うムリゲーだよ……。
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