序章8 『根源』
目の前の少女がはにかんだ笑顔でお礼をする。
「ラースさんは誰にも悪いことなんてしてない。さっきも、今も、それに昨日だっててわたしたちのことを助けてくれた。本当にありがとう。」
先ほど、己への罰を望んだ時に耳に入ってきた内容が、聞き間違いだったのではないかと思えるほどの裏表のない綺麗な双眸でこちらを見る。
聞き間違い。
そうだ、そうに違いない。
心の痛みに耐えかねて耳がおかしくなったのだと確認のためもう一度彼女に聞き返した。
「あ、あの、聞き間違いだったらごめんなさい。さっき、なんて言いました?」
――そうだ聞き間違いだ!だから頼む、、。
「え?ああ!だからね。屋根が飛んできた時にね、この子とタクトが怪我をしたの。この子は額に傷を、タクトは左足が無くなっちゃたの。」
――、、たのむ・・・・。
少女は淡々と続ける。
ラースの勘違いを早く解いてやりたいといった風に。
「どっちもいっぱい血が出ててね。とっても迷ったの。でも、タクトの足じゃ歩くのもできないから、、、。だから、しょーがないからおいて来ちゃった。」
必然的にそうなった、こうなる運命だったと納得しているといった態度の少女の告白を聞いて、やはり聞き間違いなんかではなかったと衝撃の事実に脳を揺らした。
――、、、、。なんで、、、なぜなんだ?
先ほどとは違う、確定した意味不明な彼女の不可解な言動に疑問の言葉が次々と胸の内に芽生え始める。
それは徐々に、己の中に渦巻いていた自責の言葉まで変質させて身体を埋め尽くす。
――なんでなんでなんで、なんでだ?
疑問の言葉は、不可解への不満は、心の内側を痛めることはしない。
果てしなく止まることのないそれはただ出てくるだけだ、次から次へと。
――なぜだなんでだ、どういうことだ、こいつは何を言っている、意味がわからない、違う言葉をしゃべってるのか、僕の頭が足りてないのか?なんでなんでなんでなんでナンデナンデナンデナンデナンデナンデ・・・・・。シリタイ。
ラースの中で少女の言動と内容の出来事がかみ合わないこと。
それが火種だった。
――知りたい。なぜだ、なぜそんなことを、、。
絶え間ないその問いへの渇望は自身を苦しめる。
痛みはないのに傷をつけ、心の血管からから赤いモノが吹き出る。
疑問は知識欲へと昇華し、心の手当てをしようとする。
「なぜ、、、、だ?」
胸の内に留まらず、ポロンと一つ、ソレは口から出てきた。
少女には先ほどの全てでは言葉が足りなかったのかと、困惑しながら言葉を選んで答えた。
「えっとね、説明下手だったかな、、、。えっと、だから、タクトを置いてきたのは私で、、ラースさんのせいじゃなくて、、、そう、そうだよ!黒蛇がいけなi、、、」
「違う!!そうじゃない!!!!」
突然、彼の口から状況を鑑みぬ大声が漏れて少女の身体はびくついた。
構うもんかと、言葉を続ける。
「なんで!!!!!弟じゃ無くて、この子を助けたんだ!!!まだ、、、、、、、、、まだ死んでなかったんだ?!キミの家族だろ?!」
家族、そう家族だ。
他人とは違う繋がりがある特別な存在。
そこには、有象無象とは隔絶とした重さがあるはずなのだ。
もう自分の手にはないもの。
今後一切蘇ることはない唯一の関係。
だから、彼女の言葉には、選んだ選択にはそれ相応の理由があると信じて、自分の認識の食い違いだと信じたくて。
だから同じことを聞き返してしまった。
その答えが自分の首を絞めるなんて知らずに。
「・・・・?、、、わかんないよ、ただ私には足が無くなっちゃったタクトより、この子の方が、遠くまで逃げれると思って、、、。だってその方が、、、。いっぱい生きれた方が良いに決まってるって、、、。それだけなのに、、、、。ぐすっ、、ラースさんの言ってることよくわかんないよ、、、。」
無理解を詫びるように泣き出す少女。
目には大粒の涙がたまり、頬を流れて地面にしみをつくる。
だが、ラースは気づいてしまった。
いや、正確には思い出してしまったというべきか。
彼女の目の奥に宿る、冷たい光。
それは、彼の過去のとある記憶を想起させた。
ドクンっ
鼓動が脈打つとともに、記憶の中から一つの情景が浮んでくる。
それは、あの時がきっかけだった。
――――
黒雨に見舞われ、大事な妹を失った日。
その後、彼には二年の保護観察の処分が下された。
両親からは離れた場所で過ごすこととなり、優秀だという観察士がラースの担当となった。
「やぁやぁやぁやぁ!災難だったようだよね~。本当につらい思いをしたはずだ、ボクが責任を持って見守るから安心してね~。よろしくよろしく~。」
自分についた観察士はどこか胡散臭く、言葉の重みがない人物だった。
「、、、よろしくおねがいします、、、。」
妹を失ったばかりで虚ろであった彼の心の状態など気にした風も無く、気軽な態度の彼は鼻についた。
だが保護観察対象である自分がなにか問題を起こせば即刻魔物墜ちとして扱われることは薄々気づいていた。
思えばこの頃からだろう。
他者を欺く基盤ができ始めたのは。
観察対象と言っても、不便な思いなどすること無いと、国の偉そうな人からは聞いていたはずだった。
だが、どうにも観察士との生活は苦労することがままあった。
まずひとつに、
「ラースくーん!!ボク料理も家事も洗濯もできないよぉ~。やり方教えておくれ~。」
圧倒的生活力の欠如。
家事全般あらゆることに無頓着に生きてきたのだろう彼は、家事そのものをしたことがないラースよりもひどいありさまだった。
「あの、、、。本当に優秀な観察士なんですか?」
どうみてもそうは見えないと言った態度のラース。
この頃のラースは表情作りも、心を押しつぶすのもまだまだ未熟だった。
急いで取り消そうと、言葉を出そうとしたら、、。
「あぁ~それね~。勘違いされやすいんだよね~。ラースくんみたいな子どもにあたる観察士は同時に魔法士としての腕の高く無ければいけない。どっちかっていうと~。ボクは優秀な魔法士だから配属された~ってことだよね~。」
合点がいった。
通りでどこか抜けているわけだ。
魔法士としての腕が確かでも、人間としての基礎は磨いてこなかったようだ。
それにもう一つ、彼には少し変わったところがあった。
「ねぇ~ねぇ~。また妹くん、リィナくんとの思い出話、聞かせておくれよぉ~。」
この国では珍しい、不躾な質問を何度も尋ねてくる異常者だった。
まだ、妹を亡くしてからそれほど経って無いときからこの質問をされ、心底腸が煮えくり返ったことを記憶している。
だが彼は答えた、それは処罰を受ける危険性が高まるからではない。
なぜなら、
「いつもみたいに魔法見て、一個だけ質問に答えてあげるからさ~。」
交換条件を持ちかけてきたのは彼からだった。
なんの目的があるかはわからないが、この契約のような関係は後の、ラースの自身でも不得意だった術式魔法の操作と、この国の一般常識から、立場の高い人間しか知らないような危ない情報まで、幅広い知識を得るのに役立った。
だからだろうか。
薄っぺらい態度にも慣れて、妹との懐かしい記憶に耳を傾けてくれる彼に対し、ラースは徐々に心を開いていくことになった。
それから時が経ち、観察処分が解ける前日。
「あの、今日で最後だから聞くんですけど、なんで今まで妹の話なんて聞きたがってたんですか?」
ずっと聞いてこなかったことを、明日が最後だからと意を決して彼に聞いた。
すると、彼には珍しく言葉を選んでいるかのような表情で呟く。
「う~ん。なんて言うのかな~。ラースくんみたいな術式持ってる珍しい子はね~。この国からするとちょっとズレてる子が多いからねぇ~。ん~~~、、、、、、難しい質問だな~~~、、、。」
言いづらそうに頭をポリポリとかく。
この2年間で彼がラースの質問に間を空けたことなど一度も無いほど、饒舌に語ってくれていた。
その彼の見たことない姿に驚きつつも、しびれを切らして急かす。
「なんです?難しくもなんともないでしょう!早く答えてください!」
「う~~ん怖い怖い〜〜。ん~~強いて言うならば~、キミのため、、、?
うん、そうだね~。キミのためだね~~。」
自身のためとはいったいどういうことだろうかと、二の句を告げようとすると、
「今のうちにさ~、いっぱい話して、吐き出したほうが~いいなぁって、キミみたいな子はこの国だと生きづらいだろうからね~。」
最後の言葉は、やはりラースには理解できなかった。
「ありがとうございました。お世話になりました、、、。」
長い観察期間もおわり、待ちに待った家に帰れる日。
だが、ラースの顔は暗くどこか怯えるような表情をしている。
――どんな顔して会えば良いんだろう。
自身が兄としての役目を果たせず、もういなくなってしまった妹を想う。
これから一生、この胸のもやが晴れることはない。
両親にもどんな顔して会えばいいのか、どんな言葉をこの身にぶつけてくるのか、彼は多少なりとも不安だった。
そんなラースに見かねたのか、観察士としての仕事を全うした男は声をかけた。
「安心、、、はできないねぇ~。なんとも言えないところだ~~。だが、そんなラースくんに朗報だよね~~。」
多少なりとも気遣ってか、場に似合わない、いつもの調子でしゃべり出す。
「実はね~~~。この仕事が終わったあと~~~、とある学院の教授になることが決まってね~~~。わ~~~い。」
いや、気遣ってなどいない。
本気で嬉しそうだ。
「そ、そうなんですか、、。おめでとうございます。」
半ば呆れた様子で祝いの言葉を告げる。
気にした様子も無い、気色悪い笑みで彼はさらに言葉を重ねた。
「うんうん!!そこに集まってくる子はね~なんと、なんとだよ!!術式を持つ子たちしかいない特別なクラスなんだよね~~~。ん~~最高だね~~!!」
優秀な魔法士として扱われるだけあってこの二年間、彼の変態的な魔法に対する執着を目の当たりにしてきた。
それでも、これほどとは思わず
「き、きもちわる、、。」
心の声が漏れるのも、やはりこの男は気にした様子も無く、子どものようにはしゃぐのをやめない。
だんだん不快になってきたラースは無視して帰ろうかと思い、お辞儀をして背を向けようとすると、
ポンっ
と、やさしく頭に手を置いた。
なにか宝物を撫でるよな手つきで数秒。
「だからね~、困ったときはボクのところにおいでね。待ってるから。」
目線を合わしてしゃがみ、今まで見たこともない顔で、表情で、空気感でラースの目を見て発した男の声は、涙が出るくらい優しかった。
その後、男に見送られて戻ってきた二年ぶりとなる我が家。
扉の雰囲気は重々しく、それはきっと己の内面の表れなのだろう。
勇気が出なかった。
なんて言われるのか、まだ、覚悟はできていなかった。
それでも、自分の罪から目を背けて逃げ出すことは他の誰でもない己自身が許さなかった。
妹の形見である髪留めに勇気をもらうように握り絞め、意を決して扉を開いた。
キィィィ
重たい扉と床が擦れる音が響き、一歩、また一歩と扉の中へ進んでいく。
緊張した様子で心臓はバクバクと鼓動する。
それでも後ずさることなど決してせず、広間まで向かう。
――あと、すこし、、あとすこし。
自分の家はこんなに広かったかと錯覚するほど彼には広間までの廊下が長く見えたが、それでもやっと、
「た、ただいま、、、。」
帰りの言葉を口にした。
殴られるだろうか、貶されるだろうか、なんでリィナをあんな目にあわせたのかと恨みの言葉を吐かれるだろうか。
それでも、全部受け入れるつもりだった。
だから、、、
ドタドタ、、、
「「おかえりなさい!!!」」
駆け込んで涙を流しながら抱きしめてくる両親が不思議だった。
――、、、、え?
理解不能だった。
あまりに予想していたものと違ったから。
両親はこの二年間の寂しさを埋めるように、きつく、そして優しく彼を抱きしめた。
「な、、なんで?」
両親はやっと会えた息子に、まるで何かに感謝するように零れた涙がラースの首元に伝った。
わからない、本当にわからなかった。
どんな言葉でも受け入れるつもりだった。
それが、ラースにとって最初の罰だと思ったから。
だから、彼らに問う。
「なんで、、、なんで、そんな顔しているの?」
ポツリと両親の態度の理由を聞いた。
すると、母親は
「やっと会えた自分の子どもなのよ、、。嬉しくないはずないでしょう、、。うぅ、、ぐすっ、、変な子ね、、ふふっ。」
そう言って再びラースに抱きついた母親は彼の温もりを感じた。
もう離さない、ずっと傍にいたい。
音ではなく、気持ちで伝わったソレはラースのことを本気で愛しているのがわかった。
親というのは、こういうものなのだろうか。
自分にはわからない。
それでも、頬からは涙が零れていた。
ひとしきり再会の抱擁を済ませ、この二年の生活を両親に言って聞かせた。
自分が魔物墜ちになることも無く無事に過ごしていたこと、少し変わっていたが自分の面倒を見てくれた男のこと、彼にはできない家事全般をいつのまにかラースができるようになったこと。
今までの寂しさを補うようにたくさんの話を両親に聞かせた。
両親はその話を微笑ましく聞いている。
時には相槌をうち、耳を傾け、質問をした。
どれくらい話しても、まだまだ会話のタネは尽きなかった。
「それでね。その人、魔法を教える、、代わりに、、、、、、、、、」
その話題を口に出そうとしたとき、妹の姿が頭をよぎった。
自身も両親との再会が嬉しかったのか、一番重要なことを言うのを失念していた。
こんなにいっぱい話したのは久しぶりで、もしかしたら自身の罪悪感を紛らわすために無意識に遠回りをしてしまったのかもしれない。
これから伝えることは、一生ものの罪だ。
それは彼自身の今後の人生に多大な影響を与えてくる。
それでも、背負っていくと、目を背けないと決めたのだ。
だから、意を決して両親に告げる。
「あのね、、、、、とーさん、かーさん。僕が悪いんだ、、、、。リィナを守れなかった僕が全部、、、。だからね、、、本当にごめんなさい、、。」
深々と頭を下げた。
両親はこれまでの会話で妹の名前を出さなかった。
ラースのことを気遣ってか、はたまた胸に悲しみを抱くことを無理して隠しているのか。
それでも、、、それでも、、、自分の傷を抉っても、両親に悲しい思いをさせてでも、、一言でいいから叱ってほしかった。
だが、、、
「、、、、、、、。リィナ、、?、、、、、、、。リィナ、、、、あ!リィナのことね。いいのよ、あなたが帰ってきてそれだけだ十分だもの。何も怒ってないわ。」
頭が真っ白になった。
なんだこれは、、、なぜ、、妹の名前を今思い出したという態度を彼女らは取っているのか。
なにかの演技なのか、それにしたって悪趣味だ。
ラースは両親のあんまりな態度に腹が立ち、声を荒げた。
「ちょっとまってよ!」
「ん?どうしたのラース?」
急に大声を出した不機嫌そうな息子を見てどうかしたのかと問うてくる。
「なんでそんな顔するの?なんで怒らないの?おかしいよ、、。二人はリィナが悲しむって思わないの?!!」
糾弾するように母親の態度を責めた。
もちろん、自分が悪いことは知っている。
それでも、この反応は許容の範囲外だ。
困ったように眉をひそめ、彼女はラースの言葉を受け止め返事をする。
「もう大声を出さないの、、。そっちの方が私たちにとっては怒るところよ。ふふっ、どうしちゃったの?今日はやっぱり変ね?」
まるで子どもの癇癪を宥めるようにラースの言葉を流す両親の態度に、だんだんと身体が熱くなる。
「話を逸らさないでよ、、!!ちゃんと答えて!!!!」
腹から出たその声は、先ほどよりも大きく怒りが乗っていた。
「いいかげんにしなさい。リィナのことは本当に気にしてないの。」
二回目ともなると、さすがに叱るしかないと判断したのか母親も声も硬いモノへとなる。
だがそれでも、ラースは止まらない。
彼女を責めるように、言葉を、態度を改めさせようと食い下がる。
「なんで!!」
だから、そんなこと言われるなんて思いもよらなかった。
「あなたこそ、、なんでそんなこと聞くの?!もういない人間のことを考えるなんて無駄なことはやめなさい!」
――、、、、、、は?
絶句した。
今、目の前のこの女は何を言った?
無駄と言ったのか?
聞き間違いではない、はっきりとそう聞こえた。
何を言っているのか何を言いたいのか理解したくない。
それでも、告げられた言葉は自分の脳みその中に浸透してくる。
この国では亡くなった人の話をしない。
人は死んだら魔物と違って、身体が残らないので、徐々に身体の魔力抵抗がなくなって魔力に変化される。
だから、人が死んでもその痕跡は大気中に消えて亡くなってしまった人とは二度と会うことができない。
王族の人たちもソレも同様で、精々、歴代の王が残した功績と名前を記録として残すのみだ。
今まではそれが当たり前のことだから気づかなかった。
ラースの意図とは別の意味で叱ってくる母親の目線をみて、嫌な予感がしながらも、世界の秘密を探るようにその言葉は滴のようにポツリと落ちた。
「、、、、、、、、、。ねぇ、かーさん。それってさ、、、、僕が魔物になって死んで、、、リィナが同じことを言っても、、同じことを言ったの、、、。魔物堕ちしたリィナのことなんて忘れたいからそんなこと言うの?!」
目の前の女はやや首を傾げて言った。
「、、、、?本当にどうしちゃったの?魔物堕ち以前の話なのよ?確かにリィナは魔物になって死んでしまったことは悲しかったわ。それでも人であったことに変わらない。だからね、あなたが、いえ私も含めて誰が死んでもそう言うわ。だってこの国の人はみんな平等なんだから。死んじゃった人より生きてる人との時間を大事にしなきゃね。」
目の前の女が宣った言葉は諭すように、小さな子どもに優しく教えるように柔らかかった。
けど、その目には、、冷たい光が奥に見えた。
――そういうことか、、、。
勘違いしていた。
魔物堕ちはヒトではなくなった元人間で、忌み嫌われる存在だ。
だから、この女はリィナのことなどなかったことにしようとしていると思った。
違った、そうではなかった。
やっとわかった。
今まで気にならなかったことがなぜ今の状況で気がかりとなったのか。
合点がいった。
目の前の両親、今では別の存在に見える存在がなぜ不可解な態度をしているのか。
理解できた。
彼女ら、いやこの国に住む人間にとって、命の重みなんてなく、だからこそ平等なんて言葉を容易く使えるのだろうと。
点と点が結ばれて頭の中が急速に働き出す。
この女の吐いた言葉がパズルの最後のピースのようにはまり、世界への認識を新たな色で塗りつぶす。
この国の人間は死んだ人の命に重さを感じない。
生きている人の命に対しても同じ重さしか測れない。
だから、、、、、
――この人たちの中に、もうリィナはいないんだ。
それが、後に続く彼の、ラースの、この国の人間に対する堪えようのない憎しみの根源だった。
――――
「・・・・?、、、わかんないよ、ただ私には足が無くなっちゃったタクトより、この子の方が、遠くまで逃げれると思って、、、。だってその方が、、、。いっぱい生きれた方が良いに決まってるって、、、。それだけなのに、、、、。ぐすっ、、ラースさんの言ってることよくわかんないよ、、、。」
頭に流れた追憶から戻り、彼は理解した。
――再認識したよ、僕が間違ってた。期待なんかしちゃいけなかった、、、。
憎しみの始まり。
平等という言葉を傘に着て、のうのうと生きているこの国の人間たち。
彼らの言葉には、確かに感情が乗っているのだろう。
裏表などこれっぽちも存在せず、他人を気遣えるし、存在を認め尊重をし合う理想的なものだ。
だが、そこには命の重さを度外視した歪な関係が築かれている。
良かった。
ぼやけていたものがくっきりと見えるように、以前より熱く、痛く、黒く、凶悪に、違和感は嫌悪へ、嫌悪から軽蔑へ、軽蔑からは怒りへ、怒りからはさらに憤怒へ、感情を昇華させた。
だから、もう迷わない。
もうブレない。
やはり、自分を形造るのは一つだけだ。
妹の形見の感触を肌で感じ、目の前の少女に告げる。
「大嫌いだ、化け物ども、、、。」
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