32話 俺、変態野郎かもしれない

 「それにしても、結構涙もろいんだな」

 「そりゃ、こんな話を聞かされたら誰でも泣きますよ」


 涙の跡を拭きながら答える。

 ……鎧を着ているので固い感触しか伝わって来なかったが、自分の胸の位置に向こうの胸が密着していた事もあり、動揺を覚えずにはいられなかった。

 もしも鎧を脱いでいる状態であれをやっていたと想像すると、顔に熱が集まって来る。


 (当たってたのか……)


 水浴びの件もそうだが、俺は最低最悪の変態野郎かもしれない。


 「顔がおかしいですが、どうかしましたか?」

 「ニェット! 問題ありません! さ、さあ、疲れてるしもう寝ようかな!」


 気持ちを知られたくないため、彼女に背を向けて布団へ潜る。


 「寝るならせめて、兜を外しましょう」


 首元の紐を白くて細い指で解かれ、ヘルメットを脱がされる。


 「い、いきなり何だよ」


 枕に顔を埋没させながら言う。


 「そんなものを被っていては寝づらいと思ったので」

 「だからってそんな無理やりに……」


 本人は善意でやってくれたのだろうが、心のどこかで拒んでしまう。

 鉄のカチャカチャとした高い音が耳へ流れて来る。

 何だろうと思って一度顔を上げてみると、鎧を脱いだレベッカがベッドに歩み寄っていた。そしてその勢いで入って来た。


 「実は、こちらも少し眠くて」

 「ゆ、床で寝るよっ」


 ベッドで寝た方が明らかに疲れは取れるだろうが、これはあまりにも不純だ。

 急いで出ようとしたが、


 「下で寝たら風邪を引いてしまいます」


 腕をぐいっと掴まれ、それは不可能になった。

 渋々ベッドへ潜り、顔を背けて瞼を下ろす。


 「狭いですね――――」

 「そうだな、やっぱり出る……うわぁっ!?」


 背中に手でも顔でもない柔らかい2つの塊が当たり、情けない声が溢れた。

 これは確実に、アレだ。頭に浮かべるだけでも恥ずかしい。


 「は、離れろ。こんなに狭くないだろ」

 「お気持ちは分かりますが、端に寄りすぎてしまうと落下する恐れがあります」


 別に落ちたっていい。というか落ちて床で寝たい。

 当たっているのを言うか言わないかで葛藤するが、答えは後者に決まってしまう。


 「いきなりどうしたんだ……」


 もう観念だ。


 「真似事ですよ」

 「何の?」

 「姉です」

 「はあ?」

 「さっき言っていたではありませんか、姉が居たと」

 「まあそうだけど……こんなガキのおままごとみたいな事やるかよ普通」


 尖った言い方をするが、本当は懐かしいと嬉しいという情緒が混在している。


 「喜んでいるのが丸分かりですよ」

 「へぇっ!?」


 間抜けで誰もが嘲笑しそうな声を上げる。

 顔は見せていないのに、何で俺の気持ちがバレたんだ。


 「あなたの感情、背中に出ています」

 「そうかいそうかい、もう好きにしろ!」


 ここまで発展するともはやどうでもよくなってしまい、意味もなく大声を響かせた。


 「やっぱり喜んでいますね」


 これ、何かからかわれているような気がするな……。

 ただ、この体勢は恥ずかしいが癖になるものだ。あともう少し、ほんのちょっとだけ、味わいたい。

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