第4話黄レンジャイの挑戦
この日、黄レンジャイの乾慎太郎76歳は店に出ていた。
そう、床屋さんなのだ。
男子高校生が客として入ってきた。
久しぶり、若いヤツの髪の毛を切ることになった。
乾は盆栽が趣味だ。
髪の毛も松の葉を切るのと変わりない。
「お兄ちゃん、今日はどんな感じで?」
「整える程度で。この後、デートなんだ」
「おぉ〜そうかいそうかい。じゃかっこよくならきゃな?で、もみ上げはどうする?」
「もみ上げは切らなくて良いよ。おじさん、ホントに大丈夫?」
「なぁに、心配いらねぇよ!おじさんは盆栽が趣味だから、その感覚でカットするよ。それにカットチャンピオンだし」
「カットチャンピオン?凄いじゃん」
「まぁね」
乾はメガネを掛けて、カットし始めた。
途中、霧吹きで髪を濡らす。
「おじさん、何で床屋さんは、カット中霧吹きで水掛けるの?」
「水?掛けてないよ」
「今の霧吹き水じゃないの?」
「違うよ、焼酎だよ」
「オレは焼き鳥じゃねぇよ!わっ、くっせえな。焼酎って、焼き鳥を美味しく焼くときに掛けるヤツだろ?友達のお父さんがやってるって」
「大丈夫。シャンプーするから。やっぱり、松の葉より、髪の毛の方が簡単だな」
カットチャンピオンの黄レンジャイはカットを終えた。
「さ、続いてはシャンプーだ。押し倒します」
「押し倒しますって、辞めてくれよ」
「すまん、すまん。ギャグ」
「面白くねぇよ」
「お兄ちゃん、かゆいところはありませんか?」
「つむじがかゆいかな」
乾は無視した。
「おじさん、ただ聞いただけ?」
「……」
黄レンジャイの乾は、シャンプーのあと、リンスをした。
その後、お兄ちゃんの髪の毛をドライヤーで乾かして、
「髪の毛、何か付ける?ツバキ油とか」
「ツバキ油?絶対辞めて!ワックスあれば、貸して、自分でセットするから」
乾はワックスをお兄ちゃんに渡した。
「おじさん、これ、車のワックスじゃん」
「だって、お兄ちゃんがワックスって言ったから」
「じゃスプレーでいいや」
お兄ちゃんは鏡で髪の毛をチェックした。
なかなか、上手い。と、思った。さすが。カットチャンピオン。
「こ、コレでいいかのぅ?」
「おじさん、スプレーって、これキンチョールじゃねぇか?」
「だって、お兄ちゃんがスプレーって言うから」
「じゃ、しょうがない。ジェルで」
「じぇる?」
「グリスだよ。あ、機械のグリスじゃないからね。チューブのヤツだよ」
「あ、あぁ。あれをジェルと言うのか……待ってな、兄ちゃん」
乾黄レンジャイは、ジェルを持ってきた。
「はい。ジェル」
「何コレ?」
「ジェルじゃよ」
「木工用ボンドじゃねぇか!」
「だって、他にボケるのなかったし」
「もう良いよ。何もつけない。何、この床屋。モノボケ床屋さん?」
「待ってな兄ちゃん、そこのコンビニでワックス買ってくるから」
黄レンジャイはコンビニへダッシュした。
その時だ!大型トラックが乾を吹っ飛ばした。
「ウギャッ!」
吹っ飛ばされた乾は高圧電線に引っ掛かり、感電した。
「しぎゃー」
落ちた、乾は道路工事のローラーで乗り潰された。
「ぎゃー、死ぬぅ〜」
黄レンジャイは天馬博士の肉体改造剤を処方されているので、普通の人間なら即死なのだが、生き延びた。
しかし、虫の息で店に戻ると高校生の客はいなかった。だが、カット代の3000円は置いていてくれた。
黄レンジャイの乾は3000円を財布に入れて、焼き鳥屋へ行った。
焼き場の大将が、霧吹きを焼き鳥に掛けていた。
「大将、霧吹きの中身は何?」
「霧吹き?あぁ、これね。日本酒」
黄レンジャイは、次から髪の毛には日本酒と決めた。
カットチャンピオンの床屋は高校生の人気店となった。
高校生の間では、モノボケ焼き鳥カットの店と呼ばれている。
頑張れ!黄レンジャイ!
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