映画タワー脇のネバーランド


自由ってなんだろう?


わからない、でもこれだけは知ってる


世の中は「大人」に合わせて自由なの


子供が自由を求めて生意気言って渡れる程社会は甘くない


それでも空も飛べると信じて未熟な子供がネバーランドに集まるんだ


でもね?この街のネバーランドは自由がないの


だってそこは怖い怖い海賊が見張る所なんだから






「大人の言うことは聞くもんやで!」

珍しく善波が舞を叱りつけていた

舞は喋れないので必死にスマホに文字を打つが善波は全く取り合わない

「来年受験やろ?!今からでも遅ないから塾行き!舞は頭ええんやから!私立のゴッツイ所行きや!」

「なに?「別に私立行きたいとかない、身の丈にあった勉強が出来たらそれでいい」アホな事言うなや!優秀な人間は優秀な所に行くべきなんや!やのにお前、学校のセンセに勝手に進路決めよって…三者面談も隠しよって…ホンマに!誰に似たんや!」

「「コーシローじゃないことは確かだよ」分かっとるわい!でもワシはお前の保護者や!お前の進路を考える義務あんねん!あ!どこ行くん!話終わってへんぞ!舞!」

善波の話を途中で舞は財布とスマホだけを持ち3階を飛び出した

絶対に善波が追いかけて来ると分かっていたので舞はドアを閉めた後、善波がドアを開けた時に階段横に置いてある荷物が少し倒れるように細工をして急いで下に降りると3階ドアから


「イタタ!なんやこれ!」


善波が痛がる声が聞こえたので申し訳ないと思いつつも舞は夜の神座町へ

眠らない街は夜でも明るかった

でも近所なので

「あれ?舞ちゃん?こんな時間にどこ行くの?」

「ゼンちゃんはどうした?」

「ゼンちゃんが心配するから早く帰れ」

等の言葉が今は鬱陶しい

ホストや店のキャッチ達も善波の事を知っているので舞の事を同様に知っている

とにかく今は話しかけて欲しくなかった

下を向いて歩いていると気がつけば神座町のメイン、映画タワーまでやって来ていた

映画タワーを見上げるとビルの上から怪獣が出ている

怪獣は吠えているように見えるので舞は善波を重ねて見ていた


ーコーシローは私の為に怒ってくれてる…でも私は普通でいいー


本当の親子なら伝えられただろうか

声を出せたら思いは伝えられたのか

感謝をちゃんと伝えられない自分がもどかしくもあり腹ただしい

舞は人目を気にせずタワーから飛び出た怪獣のように口を開け声を出そうとした


ーコーシローのバーカ!ー


自分では叫んだ気でいたが声は出なかった

繁華街なので誰も自分に興味も無いことに少し胸をおろし行く宛もなく神座町を歩いていると


「舞?舞じゃんか!」

声のした方を見ると映画タワー脇の広場に若者達がたむろして座っているなかの1人の少女が舞を呼んだ

「久しぶりー!元気〜?相変わらず喋れないの?」

声をかけたのは「百瀬 愛弓」

舞の通っている中学校の2つ先輩で舞が中学1年の頃、部活の見学に行った先の先輩で入部はしなかったが何かと舞を気にかけてくれて家にも何度か遊びに来ていた仲だ

舞がスマホで文字を打つ

「「愛弓さん、お久しぶりです」そんな畏まらないでいいよ!アユミでいいから!」

そう言うアユミは髪は金髪混じりで着崩した制服、手にはタバコを持っていた

「こんな所で何してんの?舞?」

「「ちょっと散歩」散歩でここに来るかな?普通」

舞がアユミの持っていたタバコに少し驚き困惑すると

「ん?あぁこれ?マズイもん見られちゃったなぁ…まぁでもみんな吸ってるよ、アンタも吸ってみる?」

舞は目を瞑り首を横に大きく振った

「アンタ相変わらず真面目だねぇ〜」

「アユー?そいつ何?」

アユミの横にいた男は大人ぶっているが歳の頃は二十歳くらい、大きく縫い目のデザインのTシャツに太めのパンツでキャップを被り耳には大きなピアスがいくつか空いている男が話しかけてきた

「この子はアタシの知り合いのマイだよ、アキラ」

「ふーん、アユの知り合いかー?てかお前の知り合いとか初めて見たわ」

「逆な?この子がここに来るのが珍しいんよ、この子真面目だからね、アタシと違って」

アユミはタバコを吸いながら答える

舞は手と首を横に大きく振り否定のポーズ

「ん?なんか喋れよ、やりずら…」


パチン!


アユミがアキラと呼ばれた男の頭叩いた

「この子は喋れないの!やりずらいとか言うなし」

「?まじかー、初めて見たわ、知らねぇとは言えごめんな」

舞がスマホのメモで文字を打つとアユミがそれを止める

「気にすんなって言いたいんでしょ?分かるよ、舞が言うことくらい」

「お前も暇だろ?ちょっとこっち来いよ」

アキラが手招きして映画タワー脇の奥に舞を連れていくとそこには十代前半〜二十前くらいと思わしき男女がたむろしていた

「こいつアユの知り合い、仲良くしてやってよ、名前なんだっけ…?まぁいいや」

「ウィッスー」

「よろしく〜」

「どもー」

各々が舞に頭を軽く下げるとアユミが話しかけてきた

「急にどうしたの?こんな所に」

「「コーシローと喧嘩して家出てきた」なに?アンタもケンカなんてするんだぁ?意外だよ、でも久しぶりに思い出すなーコーシローさん、昔は舞の家でたこ焼きやったりしてくれたね」

舞もウンウンと頷いた

「アンタやアタシの誕生日とかもやったよねー!懐かしいなぁ〜相変わらな感じ?コーシローさんは?」

舞はむくれてそっぽを向く

「アハハ、知らないってか、アンタ相変わらずわかりやすいねー」

アユミは言い終わると何故か途端に物憂げな顔に

「…舞はいいな…コーシローさんがいて」

以外な言葉に舞は驚き目を丸くさせてスマホを打つ


ーどうして?ー


「うーん…全力で舞の事を見てるからだよ、コーシローさんは舞のこと大好きだから」


ーうざったいよ?ー


「うざいかー…アタシには羨ましいけどな…居場所があるって…」


ー居場所?ー


「うん、アタシには居場所がなかった、だから早く自由になりたくてここに来たんだ」


話の途中てアキラがアユミを呼んだ

「アユミー電話来たぞー」

「…今度はどこー?」

「ホテルASIAの306。2のロングだと」

「ASIAか…相手は?初?それとも常連?」

「この前の早漏君」

「えー!あのオラついた奴か…嫌なんだよなぁ…アイツ」

「我慢しろって、金払いはいいんだから」

「アイツシャワーも浴びないんだよ…くっさいし…はぁーマジキモイ…悪いね、舞、アタシちょっとバイト」

そう言うと舞の手を払い

「アキラー!その子に……」

「わぁーてんよ、言わねーし。ロングだから25kなー」

「はぁーい、行ってくるわー」

アユミは偽ブランドのバックを脇に抱え舞の頭を撫でた

「……いい?もうここに来ちゃだめ…わかった?コーシローさん心配してっから帰りな。…アンタに会いたかったけど会いたくなかった…じゃあね」

それだけ言い残しアユミは映画タワー脇広場を後にすると

「愛弓ー!あんた病院来いったろ?なんで一昨日来ないの?」

知ってる声だった

声の主は御園クリニックの御厨 彩音

「センセーごめんごめん!起きれなくてさ?それに具合といいしもういいかなーって…」

「もぅ…!薬は飲んでんの?!」

「あ……うん、飲んでるよ」

「嘘つけ!絶対飲んでないじゃん!…アンタねぇ!!キチンとクスリ飲めって言ったろ!症状が治まっても……アンタまさかまた売りなんてやってないだろうね!」

「やってねぇし!ちょっと人待たせてるから!今度病院行くよ!じゃあね!」

アユミは言い終わる前に御厨の前から走り去った

「ったく!もう!あ!舞ちゃーーん!」

御厨が舞を見つけると飛んできた

「あぁもう!舞ちゃん可愛い!可愛い!こんな小汚いところまで往診にきた御厨センセーを癒しに来てくれたの?!でも珍しいねぇ…時間もだけど…」

御厨は周りとアキラと一緒にいる子供達を見ると何かを思い立ったのか

「舞ちゃーん、先生のお使い手伝って!はい決定!」

御厨が舞の手を引っ張るとアキラが制止した

「勝手に連れてくなよ!オバサン!」

「オバ!……このクソガキ!アタシはこの子の知り合いなの!それに言っとくよ?この子あの「善波 幸志郎」の身内だからね?この子になんかしたらティラノサウルスみたいなのがあんたらを踏みつけにくるよ!はい!舞ちゃん行こー」

御厨は舞の手を強く握り半ば強引に連れ出すと

「善波なんて怖くねぇし!この前もギャースカ説教してきてマジでうぜェ、てかよ?そいつもう俺らの仲間だからよ、マジで連れてくな、オバサン」

アキラが御厨の前に立ち塞がる、しゃがんでいると分からなかったが立ち上がると180cm程の体格は大きく見えた

「何が仲間よ、ガキがただ集まってくっちゃべってるだけじゃないか。それに…」

御厨はアキラの胸ぐらを掴み引き寄せる

「お前、アユミに…いや、女の子に何させてる?まさかとは思うけどエンコーやウリやらせてないだろうね!」

アキラも声を荒らげて反論

「うるせぇババァだな!だったらなんだよ!あぁん?金がある奴が欲しがる、それを供給してんだ!女どもに何かあったらスグ連絡しろと言ってある!なんかあったら俺らがぶち殺してやんよ!俺らだけで楽しくやってんだ!だからババァに説教される筋合いねぇぞ?!ゴルァ!!」

「フン、一丁前に言いやがって、そうやって大人舐めてんなよ、この辺りは高山組の奴が仕切ってんだ、どういう意味かわかるかい?」

御厨は全然負けていない、むしろアキラを食っている

「ヤクザがなんだよ?!別に怖かねぇ!奴らは俺ら一般人に手ぇ出した時点で暴対法で捕まる、それに使用者責任?で親分まで持ってかれるんだ、ポリにビビって何もできねぇ連中だよ!ヤー公なんてよ!口ばっかりじゃねぇか!」

2人は顔を見合わせ睨み合う

するとアキラの取り巻き達が御厨と舞を囲んだ

「そんなんでビビる御園診療所の御厨センセーじゃないよ?どいつもこいつも一丁前にデカくなった気になって、あんただって昔ウチに来てた顔じゃないの。1個いい事教えてあげる、ヤクザメンツを潰されるのが1番頭にくるんだ、そ…」

「うるせぇ!ここは俺らのエリアだ!関係ねぇ奴は引っ込んでろ!」

アキラの怒号に取り巻きがナイフらしき物をポケットから取り出した

流石に分が悪いと感じ御厨は舞の手を引きその場を後にする

「忠告はしたよ?お前らの相手はもう散々!たがらオバサンは退さーん!Yo!」

何故かラップ口調で返答

舞は御厨の袖を引き文字を打つ


ーどういう事?愛弓ちゃんはバイトだって…ー


御厨は大きくため息をつき答える

「バイトなもんか、あの場では引いたけど何人かはウチの病院でみたよ…あの子達は体を売ってる」


ーえ?…そのパパ活ってやつ?ー


「そんな言葉使っちゃダメ!やってる事は売春だ、大人の真似事だよ!いいかい?愛弓はもう向こう側だ、舞ちゃんは絶対あの広場に行くんじゃないよ!」


ーどうして?ー


「愛弓が心配?」


ーうんー


「そっか…舞ちゃんは愛弓と仲良かったもんね、でももう忘れな」


ー嫌だ!なんで?ー


「じゃあ聞くけど舞ちゃんは今の今まで愛弓をなんで思い出さなかった?」


ーだって愛弓ちゃん高校行ったら全然連絡くれなくて、電話番号も変わっちゃったからー


「そんなもん言い訳だよ、愛弓に本当に会いたかったら愛弓の家に行くなりするだろ?場所が分からなかったらコーシローに頼めばすぐに見つけてくる…舞ちゃんは今気になっただけ、それは心配じゃない同情だよ?優しさじゃない、今の愛弓にとってはそれは残酷だよ」


御厨は厳しい顔つきで舞を叱る

ー御厨先生は愛弓ちゃん知ってたの?ー


「…守秘義務」


ーずるいよ!ー


「大人はずるいん…」


御厨が言いかけた時向かいから大きな声が聞こえた

「舞ー!舞ー!どこやー!ワシが悪かったから!落ち着いて話そ!なぁ?」

善波が走りながら舞を呼んでいた

「こら!恐竜!街ででかい声出すな!」

「おぉ、彩ちゃん!舞!心配したんやで、どこ行っ…」

バァン!

舞はその場で地面を強く蹴り文字を打つ

ー心配してくれなんで頼んでない!ー

「な、なんなん?急に?」


ー勝手に説教して!勝手に怒って!勝手に心配して!いちいちウザいしずるいよ!コーシローも御厨先生も!ー


「どうしたん?何があったんや…気に触ったら謝る、堪忍や」

「ごめん、舞ちゃん、私も言いすぎた」

ー悪いと思ってないクセに謝らないでよ!子供だと思ってみんなしてバカにして!本当の親でも無いくせに!放っておいてよ!ー


「…せやな…ごめんな舞…」

善波は分かりやすく肩から力が抜けた

舞もマズイと思ったのかその場から逃げようと思ったのか振り返った時、御厨に腕を掴まれた

「ちょっとおいで!」

舞は首を横に振りながら御厨の腕を掴むが御厨の力が意外と強かった

「いいからおいで!お前もいちいち腐るな!酒でも飲んで待っとけ!ほら行くよ!」

そういい舞を連れて天下一通りを進み牛丼チェーンの角を曲がり進むと「御園診療所」の看板があった

ドアのカギを開け舞を待合室に座らせると

「そこで待ってな!」

そう言い残し御厨は診察室へ

すると書類らしきもの舞に見せた

「いい?!これは舞ちゃんがコーシローの所に来てからのカルテよ、ここ見て!舞ちゃんが10歳の時に夜中高熱が出た時、…コーシローはね?意識を飛ばすギリギリの舞ちゃんからの連絡を受けて仕事を抜けて舞ちゃんをここまで運んできたんだ!大雨の中で赤の他人が!わかる?他のカルテも見てみな!ほら!こっちもコーシローが運んできてるんだ!これでも本当の親じゃないとか言う気?!」

舞はカルテに目を通すが英語混じりなので分からなかったがカルテの字が涙で滲む

あの一言は舞も後悔していたようだ

「確かにコーシローは他人だよ?でもね?その他人は何よりも舞ちゃんが1番大切なんだ、だからちゃんと謝りな、コーシローに」

涙ながらに舞は首を縦に振り御厨が背中を摩る

すると入口から大きな声が聞こえた

「なぁ!誰かいるか!」

御厨が待合室に行くとそこには先程、アキラの取り巻きの男2人ほど息を切らせていた

「なに?仕返し?」

「ちげぇよ!アキラとアユミが……ハァ…ハァ…」

「アキラもアユミも連絡がつかねぇ!」

「ちょっと落ち着きな!何があった!」

御厨が男二人の肩を叩くと1人が口を開いた

「あの後アユミから電話があったんだ…トラブルっぽいって…したらアキラがタケやシゲ、ノボルの4人でダッシュで向かった後にこんな伝言が!」

1人がスマホを操作すると音声が流れた


「…ガキ共5人を預かってる、お前ら鷲崎組のシマで女を売るとはいい根性してんな、こいつら返して欲しけりゃアガリ持ってこい、ASIA306号室だ」


「これ…どうしたら……」

御厨が音声を聞き終わると

「大人を舐めるとこうなるの!とにかく…」


ガタン!


診察室奥から音がしたので御厨が戻ると裏口のドアが開いていた


「しまった!舞!待って!」

すぐに追いかけたが舞は神座町の雑踏に消えていたのだった





あの音声を聞いた時、体が先に動いてしまった


走りながら舞は考えた


御厨先生の言う通りだった

愛弓さんに会うまで何も気にしてなかった

私は勝手だ

都合のいい奴だ

でもいい

なんと言われてもいい

ここで放っておいたらコーシローに合わせる顔がない


神座町を走りラブホ街へ、ASIAを探すと思いのほか早く見つけた

入口を入るとフロントの小窓から何か言われたがちょうどエレベーターが開いていたので滑り込むように乗り込み3階のボタンを連打する


1.......2......3.


3階が表示され扉が開くとそこには男達がいた、狭い廊下に2人も、どうやら見張りらしい


「なんだ?このガキ」

「さぁ…今ここは貸切だ、嬢ちゃん、よそ行け、よそ」

2人を力いっぱい押しのけ306のドアを見つけて入るとそこは舞の想像を遥かに凌駕していた光景だった


先程喋ったアキラと仲間と思われる男達は顔から血を流し倒れていてベッドではアユミは両手を抑えられ口にタオルを巻かれた状態で泣きながら犯されていた


部屋の中央で仕切っていると思われる男が口を開く

「なんだ、嬢ちゃん?このガキどもの仲間か?」


舞は恐怖で震えが止まらなかったがアユミを犯している男を引き剥がしにかかるがビクともせず背後から別の男に顔を叩かれ押さえつけられた


「なんだぁ、金持ってきたわけじゃねぇな…仲間にしちゃ毛色が良すぎるな…まぁいい、で何しに…イッ!!」

舞は男の右手に思いっきり噛みつくとまた顔を叩かれ、その拍子で体が吹っ飛び床に倒れた

「威勢がいいな、小娘のクセに…何しに来たか知らねぇが…金も持たず話もできねぇなら、話が分かるやつが来るまで楽しむだけだ、おい!こいつも好きにし……」


「なんだてめぇ!………ギャ!」

「てめぇ!何も………クギャ!」


外から怒鳴り声がした瞬間、すぐに悲鳴のような声が聞こえるとドアが勢いよく開いた


「何しとんねん、オドレら」


善波だった

しかし舞はその善波が自分の知らない人間に見えてしまった

座った目

小さい声だがよく通る声

左手を真っ赤になる程強く握りしめている


「あ!こいつあの善波ですよ!金貸しのパシリしてる!」

アユミを犯していた男達は標的を善波に変えた


「誰がパシリや!業務委託や!なんやお前ら、ガキ相手にこないなことして恥ずかしゅうないんか?なぁ?」

「なんだぁ?お前?お前がこのガキどものケツ持ってんのか?」

リーダーと思われる男は立ち上がり善波の前に立つが善波は相手もせずにベッドに向かう、そこでも男が善波に暴言を浴びせるが相手にせず床に落ちていた毛布を広い愛弓に羽織らせた

「久しぶりやなぁ〜愛弓」

愛弓は善波を見て安心したのか声を出して泣きながら善波に抱きついた

「もう大丈夫や、安心しぃ」

舞も男の手を振り払い善波に抱きつく

「あんな?舞?人助けはええこっちゃ、でもやり方考えや。こんな所に舞1人できたら鴨が葱を背負って来ただけ……」

「おい、オッサン何勝手にしゃべってんだよ!」


バキッ!


愛弓を犯していた男が後ろから善波の後頭部を殴りつけた…が善波は何もリアクションせず振り返り

「なんや今の、鼻血も出ぇへんで?それにワシはまだ30じゃ!誰がオッサンやねん!それにいまこの子らと話とんねん、相手したるさかいちょっと待っとってや、…でどこまで話したんやっ…あ!人助けや!しかもここは鷲崎組が経営してる怪しいホテルなんやで、外から誰かが助けてくれることなんてあらへん、わかったか?舞?」

舞は強く首を縦に振った

「そかそか、ほな帰…」

顔面血まみれで倒れてたアキラが善波の足を掴む

「善波…さん…助けて……」

善波はしゃがみこみアキラの髪を鷲掴みし顔をじっと見て口を開いた

「何調子いいこと言うとんねん、ワシ前に言うたよな?あの広場でアコギな事すんなと、なのにお前はガキ集め大人の真似事を…人の忠告無視するガキなんぞどうなってもええ」

「…俺を頼りにしてきた奴らを…放っておけなかった…生きるには金がいる…これしか……」


パチン!


善波がアキラの顔を叩く


「何言うとんねん、楽して稼ぎたいだけやろ?その年ならワシに言えば住み込みのバイトくらい紹介したるわ、お前らは大人を舐めて生意気にイキがっただけやろ」

「…そうかもしれ…ねぇ…でも俺はいいから…タケ、シゲ、ノボル、愛弓は…みんなは助けてやってくれよ……」

アキラは目に涙を溜めながら善波に懇願する

「俺の…甘さで…みんなを愛弓を巻き込んだ…もともとは愛弓達を…」


パチン!

また善波がアキラを叩く

「お前、愛弓に惚れてんのやろ!ならなんでこないな事させてんや!チンポついてんのやろ?!男なら女に食わせて貰うような真似してんちゃうぞ!」

「んな事わかってんよ!でも…でも!あの時はこれしか…」

善波はアキラの髪を離し立ち上がる

「ただ、自分より下の人間の為に頭を下げたのは買ってやる。条件や、今日からワレはワシの奴隷や、毎日ワシの家掃除しにこい、買い物、洗濯、全部やれ。んでワシが電話したら5秒で来い、それができるんやったら助けたる」

「なんでもいい…こいつら助けてくれんなら…頼むよ、善波さん…」

それだけ言うとアキラは気を失った

すると仕切っていた男が

「話ついたんだな?善波さんよ?」

「あぁ、今からこいつのケツ持ちはワシや」

「なら話は早いわな、俺は鷲崎ぐ…」

「お前、素人相手に代紋出す意味分かってんか?それ口にしたら一線超えるぞ?ええんか?」

「てめぇどう見ても堅気じゃねぇだろうが!!そもそもこいつらがウチのシマで勝手に商売してたんだぞ!」

「はぁ…あんな?映画タワー脇は高川組でも御園開発のシマじゃボケカス、そないな事わからんとは…」

「…え?」

先程善波を殴った男がたじろぐと慌てた口調でリーダー格を問いつめる

「山川さん!話が全然違うじゃないすか!鷲崎組のシマ荒らしを潰すって言うから!」

「うるせぇ!てめぇも乗る気だっだろ?女犯して今更イモ引けると思うなよ!」

そう言い終わると同時に山川が善波に殴りかかり善波の顔左側面を振り抜く


バキッ


「はぁ…だから言うたやろ?鼻血も出ぇへんて」

「おら!辻!ぼさっとしてねぇでてめぇもやれ!」

辻と呼ばれた男はベット脇にあるスタンドを振り上げ善波の背中に振り下ろす


ガシャン!


スタンドの電球が割れた音が響く


「おーい…今のは少し痛かっぞー…終わりか?ほなわしの番やな、これだけハンデやったんや、死んでも文句いうなや!」

善波は後ろの相手を標的にし大きな右手を広げ振りかざす


バッチィィィィン!


「ウンギャ!」


あまりの威力に辻は体を捻らせながら床に沈むと口から泡を吹いた

「なんやお前はカニやったんか、ほな次はお前やな」

「なんだてめぇ…なんだよ!鷲崎組相手にこんな事してタダで…」

「知らんわい!ウチの娘に手ぇあげてる時点でなぁ!!ヤクザだろうがアメリカ大統領だろうが何も関係ないんじゃ!ボケカス!!」

今度は山川の顔正面目掛けて右手を振り抜く


バッチィィィィン!


「ギャン!」


声にならない悲鳴をあげ山川も床に沈んだ


「なんや立たんかい!オドレはこんなもんで済む思たらあかんど!」

鼻が折れたのか山川の鼻は潰れてしまい戦意喪失したのかズボンを濡らし口をパクパク開けていた

「口パクパクして、腹減ったんか?お、ここにキラキラした飴細工あるで?食うか?」

前場は散らばったスタンド破片を集めて山川の口に入れようとしたした時は部屋のドアが開く


「善波さんその辺で」

声のした方には男が3人

2人は一目見てすぐに本職だと分かる背格好

先頭に居た男は細身の高級オーダーメイドスーツにブランド物の時計に靴、髪の毛の綺麗整え、縁なしメガネを掛けおおよそ暴力団には見えない立ち振る舞いだっ

「お、氷山はん、遅いで」

「ったく…こんなんでもウチの若衆ですよ?灸を添えるにしたってやり過ぎです」

「やり過ぎも何も外の連中も1発しかやっとらんで、そもそもアンタが遅いからこうなんねん、わざわざ知らせたっちゅうのに」

「私も暇じゃないんでね、おい!廊下の二人を車に詰めろ!」

氷山と呼ばれた男の命令に二人の男は黙って頷き廊下へ出ていった

「しかし…まぁ…今回は助かりました、御園開発のシマをウチのが詰めた…なんてバレたら」

氷山はメガネをかけ直し山川の元に行き足で顔を蹴る

「おら、起きろ、いつまで寝てんだ?」

「…?!カシラ?!カシラがなんで…」

カシラと呼ばれた男の名は「氷山 恭兵」 異例の若さで鷲崎組若頭まで上り詰めた男

頭の回転がずば抜けて早く、冷静沈着、金稼ぎも上手い。実際鷲崎組は氷山が頭角を出す前は末端組織だったが氷山が稼いだ金を大量に上納し直系に昇格。よく言うインテリヤクザと思われがちだが格闘技も一通りやっていて腕っ節も強く容赦がない、出世に関しては本家高山組若頭補佐から口利きがあったほどで氷山を知ってる高山組幹部は口々に「5億か氷山なら間違いなく氷山を取る」とまで言わせる男だ

「君らが面倒起こしてるって善波さんから電話が来たんですよ、来てみたらウチのホテルでガキ痛めつけてマワしなんて…これだからバカは嫌いなんです」

「氷山はんの教育が足らんとちゃいますか?いつも言うてますやん、若いのはバカだから程度金握らせておけって」

「ですね、まぁヤクザが給与制なんてのも締まらない話ですが…こういったトラブルを防げるなら考え物ですね」

部屋のドアが開き先程の男3人が戻ってきて山川と辻を抱えた時、山川は半泣きで許しを乞う

「すんませんカシラ!知らなかったんです!あの場所が御園開発だと…」

「もういいです、独断ですがこの件関わった4人はもう絶縁ですから。今頃昨日の日付で本家や分家、下の団体にも状を流してます、あ、これはこの子供達が警察に垂れ込んだ時にウチは無関係だとする為なんでね。こんな事でオヤジのガラが持ってかれるのは不本意ですから」

山川は足に力が入らない、今後自身に降りかかる恐怖が想像できないからだ

「ケジメ…ケジメつけますんで…」

「君たちのケジメはいくらになるんです?まさか指どうこうなんて言わないでしょうね?そんなもん価値ありませんから。金を用意できます?できませんよね?でも安心してください、貴方達でも即金で換金する方法はありますんで。おい、例のタコ部屋に連れて…」

「氷山はん、子供の前や、やめたってくれ、頼むわ」

善波が氷山を窘めると

「これはすみません、配慮が足りませんでした、今回の件、礼は弾みます。後程ご自宅に届けさせますよ、善波さん」

「いらんわい、ヤクザの金なんか」

「まぁそう言わずに、今回の不始末、誠に申し訳ございませんでした」

善波に頭を下げると今度は愛弓にも頭を下げた

「お嬢さん、それにお仲間さん達、私の監督不行でこのような事に巻き込んでしまい大変申し訳ない、皆さんの治療費は全てウチが持ちます、それに慰謝料もお支払い致します」

「やめろや、ヤクザの金なんかこの子供達にも必要ない」

メガネをかけ直しながら口元を緩ませ氷山が答える

「聡明な善波さんだ、その「金」の意味わかっておられるでしょう?嫌でも受け取ってもらいますから。ヤクザはねぇ…メンツなんですよ、「鷲崎組は他のシマの事に首突っ込んで素人のガキを脅してシノギにしようとした」なんて周りに知られたら大変だ。…お嬢さん?」

「…は、はい」

「例のバイトの件、今回はこれで不問にします、しかし…次やったら…お分かりですね?お友達にもお伝えください、自由というものはルールの中でのみ権利があります、これに懲りずこの街のルールに反した自由を行使するのであれば…まぁよくお考えを。それでは、ごきげんよう」

それだけ言うと氷山達は部屋を後にした

「さて…このノビてるのどないしよ…せや!」

そう言うと善波は伸びてる男を全員並べ風呂場から水を溜めた洗面器を持ってきて全員に水をかけた

すると

「ぶはぁ!」

と声を上げ全員意識を取り戻す

「目ェ覚めたか?もう終わったぞ、ちゅーこって解散!」

アキラはまだ気絶したままだったので仲間が抱えては部屋を後にした

「愛弓は服ないなぁ…彩ちゃんに頼むか」

善波が御厨に電話をして服を持ってくるように頼むと

「愛弓?なにがあったんや…」

「え?」

「ワシはな?愛弓がうちに来て舞と遊んでくれた事、今でも覚えとる、ええ顔しとった。高校入って良からぬ連中とつるむようになったと彩ちゃんからきいとったけど…どうしたんや」

愛弓は涙を溜めて口を開く

「中学三年の時、お父さんは離婚届けを置き家を出た、原因はお母さんの浮気とお酒…離婚成立後、直ぐに男が転がり込んできたんだ。高校入った頃かな…2人とも仕事もしないでパチンコ、酒、セックス…頭がおかしくなりそうだった。そんな時のあの男は私にまで手を出そうとしたんだ…それをお母さんに言ったら「アタシの男に色目を使うな」だって…もう訳わかんないよね…」

舞は愛弓に寄り添い背中を摩る

「2人して生活保護…学校行ったらイジメだよ…もう全てが嫌になってゲーセンとかで時間潰してたらアキラに会ったんだ。「俺が何とかしてやる」って、凄く嬉しくてね、パパ活しろって言われても全然平気だった。タワー脇にはアタシみたいな子達が沢山いた、アキラを慕ってね。それで良かったんだ…」


パチン


善波が愛弓の頭を軽く叩く

「アホやのーなんでそないな時ウチけぇへん?舞に頼れば良かったやんか、舞の友達なんやからワシにとって愛弓も大切や、そりゃ引き取るとか無理やけどウチにいたら飯くらい好きなだけ食わせたるわい、頼るんならお前に何かをさせる男じゃなくお前を大切にする人間を頼れ、ええな?」

愛弓は涙を流しながら頷いた

「ええか?しばらくはウチにいてええ、舞もその方が喜ぶさかい、ええやろ?舞?」

舞はウンウンと首を振る

「いいの?アタシが居ても?」

「かまへんかまへん、あ!でもアカンわ!」

舞がどうしてと言わんばかりに善波の体を揺する

「ウチ、ワシ以外禁煙やねん、お前がタバコ辞めるんならウチにいてええで」

「わかった、辞める、だから居させてください」

「ほなええで」

ホテルのチャイムがなり扉が開くと御厨が服を持ってきた


その後、愛弓を一旦御厨が診療所に

乱暴されたので診察が必要だからと言って連れて行った


善波と舞はASIAを出て帰路に着く

舞が善波の服を引き

舞はスマホで文字を打った


ーワシの娘ってどういう意味?ー


後頭部を掻きむしりながら顔を真っ赤にし善波は舞から目を逸らし

「あーあれは言葉のアヤや、怒っとたしな、ごめんな…嫌だよな」


ー別にいいよ、コーシロー、ごめんね、さっきー


「ん?なんの事や?」


ーさっき本当の親ー


「なんやそれ、覚えとらんで、頭殴られたから忘れてもうた…あ!血ぃや!イタタタ!」


ー本当にごめんなさいー


「謝らんでええ、お前がワシのことどう思おうとワシは舞が大好きや、お前に嫌われてもワシはずっと舞が好きや。だから言いたいことがあったらこれからも言うてええ、ワシは受け止めたるさかい」


ーありがとう、コーシローー


「かまへんて、なんか寒なってきたな、肉まんでも買うて帰ろか」


舞は照れながら善波と腕を組むと満更でもないのか善波も足取りが軽くなった



後日、善波は愛弓の本当の父親を見つけ家に呼び愛弓と話をさせた

父親は出ていった事を誠心誠意謝罪した

本人も愛弓を置いていった事を後悔していたらしいが


「そんなもん言い訳じゃ!親が子供ほたしてどうすんねん!オドレは大マヌケじゃ!」


と善波が言い放ったら舞のフルスイングビンタが炸裂した


父親は裁判所に申し立て親権を獲得、正式に愛弓を引き取り親子として再出発

父親は兵庫にある両親の実家で暮らしていたので愛弓も東京を離れる事に、愛弓は舞といたかったのでギリギリまで善波の家に泊まっていた


引越し当日の朝

「コーシローさん、舞、色々ありがとう」

「かまへんよ、なぁ?舞」

舞も笑顔で同意する

「ねぇ、こっちに来たらまた遊びに行ってもいい?」

「もちろんやで、またたこ焼きしよか、ほれ、新幹線の時間間に合わんようなるからはよ行き」

舞は名残惜しいのを我慢し手を振る

「うん、またね!本当にありが…」

善波は愛弓の頭を優しく撫でながら

「ありがとうなんていらんねん、今度はお父ちゃんとしっかりやりや」

舞も笑顔で手を振る

「うん!またね!絶対またこっちに来るから!」

そう言い舞は電車に飛び乗って行った


帰り道、御園駅から神座町へ

映画タワー脇を見るとまた子供達が溜まっていた

アキラ達のグループは善波が半ば強引に解散させたのだがまた新たなグループがタワー脇広場を占領していた

それを見た舞はスマホで文字を打ち善波に見せる

ーあの子達…またああいう目にあうのかな?ー


「さぁ、どうやろな、ワシらには関係あらへん、どの道大人の怖さ、この街の怖さを知らんからあないな事できるんや、1人が寂しゅうてたむろして強くなった気になる、アホなやっちゃ」


ーもしだよ?もしコーシローに助けてってきたらどうするの?ー


「うーん…奴隷はもういらんからなぁ〜」

そんな話をしていると向かいから


「コーシローさーーん!日用品買ってきましたぁ!」

アキラが両手に荷物を抱えて走ってきた

「アホ!今はお前邪魔やねん!」

「ハァ…ハァ…そんな事言わないでくださいよ、あ!愛弓どうでした?」

「んなもんお前に内緒じゃ!」

「そんなぁ〜……あ!まーたアイツら溜まってる、俺ちょっと行ってきます」

アキラは映画タワー脇広場に走っていくと子供らの集団真ん中で何かを叫んでいたがそのうちの1人に顔を殴られていた


ーコーシロー!止めてよ!ー


「ん?あれはいいんや」


ー冷たくない?酷いよ!ー


「冷たいことあらへん、アキラは自分がアホな事したからなぁ、説得力あるで、それにな?」


ーそれに?ー


「「いつか俺も強い男になって愛弓に似合う男になる」んやと、これはその修行みたいなもんや」

舞がアキラに目をやるとアキラは殴られても怒鳴られても子供らを叱り続けた

すると根負けしたのか溜まっていた子供らはちりじりに

最後、舞と歳が変わらない女の子にスネを蹴られて痛がっていたアキラが舞には少しだけ善波が重なったように見えたのだった



































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神座町アンダーザワールド 乾杯野郎 @km0629

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