パズルを解くロボット

 夏休み前のある日の昼休み。

 僕は唐突にパズル部の部室へと呼び出された。呼び出した相手は分かりきっている。

「高梨さん?」

 声をかけた先には、予想通りだが高梨さんがいた。

 椅子に座ってそっぽを向いていた彼女が、肩までで切り揃えられた黒髪をなびかせて僕の方を向く。

「あら、来たのね漸くん。ごめんなさい、少し待っていてくれる?」

 その言葉で部室の奥を覗けば、ウェーブのかかった茶髪の少女が見えた。

「漸くん! お久しぶりなのだ!」

 そう言って彼女はぶんぶんと手を振る。

「部長!?」

 彼女は遠野奏。小柄で緩い先輩で、いつも副部長と何やら僕には分からないパズル談義を繰り広げている人だ。

 そういえばここ数週間、パズル部の部室で見かけた覚えはなかった。

「心羽ちゃんに新作パズルを届けに来たの! 最近は作るのにかかりきりだったからやっと部室に来れて嬉しいのだ」

 ニコッと笑いながら、奏先輩は高梨さんに20センチ四方の何やら仕掛けの組み込まれた箱を渡す。

「ありがとうございます」

 そう言いながら受け取り、すぐさま高梨さんは解こうとする。

「高梨さん、流石にもう少し解くの待ったほうがいいんじゃない?」

「何を言っているの? 先輩からの挑戦状よ。受けてたたないわけ行かないじゃない」

 僕たちがこそこそと言い争っていると、奏先輩は口を開く。

「実は今日は2人に依頼も兼ねて来たのだ! 少し話聞いてくれると嬉しいの」

 奏先輩の話は次の通りだ。

 先輩は最近、パズルを解いてくれるロボットを作ったらしい。このロボット、例えばルービックキューブなら一分で二つ揃えてくれるが、直後に揃えた一つを混ぜてしまうと言うのだ。

「このロボット君が部室にある20個を揃えるには何分かかるか調べて欲しいの!」

 今回はあまりに急な依頼なので自販機で買ってきたお茶はない。ところで奏先輩、パズルだけではなく、ついにロボットも作りはじめたんですか?


「簡単な話じゃない」

 高梨さんは目を輝かせながら言う。僕には何も分からないが、奏先輩も薄く笑っている。なるほど、これは依頼の形で出された先輩からの挑戦状らしい。

「漸くん。今回はこの依頼自体が論理パズルなのよ」

と、高梨さんは言う。

僕は考えてみることにした。

 最終的にはロボットは一分で一つ揃えることになる。そのまま、20個分であると考えると、20分かかる。単純に答えは二十分だ。

 口に出そうとして、ふと思う。いつも難解なパズルを作る先輩がこんな一筋縄でいくような問題を出すだろうか。

 ロボットは一瞬、一分に二つルービックキューブを解いているのだから。閃いた。

「答えは19分ですね。奏先輩」

「漸くんも、たまにはやるじゃない」

「すごいのだ漸くん! 心羽ちゃんのおかげでちゃんと成長してるの!」

 2人の反応を見る限り、僕は正解できたらしかった。


「心羽ちゃん、漸くんまた今度! 漸くん助手頑張れなのだ! ちなみにパズルを解くロボット君は存在しないの」

 とっても楽しかったと言いながら、奏先輩は笑顔で颯爽と去って行った。情報量が多い上に不思議な人だ。奏先輩を理解できる日が僕にくるのだろうか。

 ふと後ろを振り向けば、すでに部長お手製の箱は分解された後だった。高梨さんはいつの間に解いたのだろう。

 その後、チャイムが鳴って僕たちはバラバラに教室に戻って行った。

 ところで高梨さん、僕を呼び出した要件、なんだったのさ。

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