第21話


「…その言葉が聞けて、安心しました」


彼女の哀しみを乗り越えた顔付きを見て、微笑みを浮かべる。

その素顔があまりにも愛おしくて、思わず彼女の髪に触れて、頬を擦った。


「戦女神と武装人器は、表裏一体、彼らが影として支えてくれるからこそ、私達は光として周囲を照らす象徴となるのです」


曼殊沙華ひがんも、その背中に、愛する者の魂を背負う。

それが妄想であろうとも、そうであると信じる事で、曼殊沙華ひがんは、彼らと共に戦っているのだと思えた。


「そして、彼らが死んでも、きっと、その魂は我々を支えてくれると信じています」


両手を重ねる。

祈りの姿を見せると、彼女も頷く。


「はい…なので、曼殊沙華さん、あなたも」


曼殊沙華ひがんの顔を見て、心配そうな顔で言った。


「どうか、悲しそうな顔をしないで下さいね?」


そう言われて。

普段は表に出さない顔が出ていた事に気が付く。

自らの頬に手を触れて、自分がどの様な顔を浮かべるのか察する事が出来た。


「…私、そんな表情していたのね、ふふ、ダメですね、こんな顔をしちゃ」


気を付けなければならない。

曼殊沙華ひがんは最高峰の戦女神ヴァルラヴァ

憂う表情は他の戦女神を不安を浮かばせてしまう。

にっこりと微笑を浮かべる曼殊沙華ひがん。

教えてくれた彼女に感謝の言葉を口にした。


「教えてくれて、ありがとうございます、…少し疲れたと思うから、これで、失礼しますね?」


軽く手を振る。

廊下を歩き出す曼殊沙華ひがん。

金色の髪が左右に揺れる。

麗しい姿に目を奪われる者は多い。

しかし、彼女の姿を見て、ひとりの戦女神は心配し続ける。


「あ、はい…あの、本当に、今日はありがとうございました!」


それでも。

彼女が心配した所で曼殊沙華ひがんが止まる事は無い。

声を掛けるのはこれ以上は出来なかった。


「…ふふ、えぇ、それじゃあ、また」


そうして二人は別れる。

乱れなく綺麗な歩き姿。


(…あぁ、素晴らしい武器だった、あの輝きを放つ武装人器の為に、私は全力で愛したい、けれど)


しかし、内心では。

失った武器の事だけを考え続けている。


(私が全身全霊で愛してしまえば、武装人器が壊れてしまう、なんて、悲しい事なのでしょうか)


誰も居ない廊下。

無意識に憂いの表情を浮かべてしまう。

武器の喪失感は、彼女の感情を低下させてしまう。

己が触れて、愛した武器は、己が触れて、武器を壊す。

どうしようも無いジレンマを抱える曼殊沙華ひがん。

ここまで思い詰めてしまうと、全身から寂しさが浮き上がる。

寂しくて寂しくて仕方が無い、そう思ってしまった。

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