第20話
「…私こそ、ごめんなさい、貴方の武装人器、最後を私が奪ってしまいました」
曼殊沙華ひがんの悔恨はそれだった。
彼女が武器を使えば、どのようなカタチであれ、彼女のエインヘルヤルに耐え切れずに自壊してしまう。
謂わば、彼女が武装人器を壊してしまったと言っても過言ではない、と、曼殊沙華ひがんはそう思っているのだ。
彼女の謝罪に、戦女神は決して、その様な謝罪を聞く為に話し掛けて来たワケでは無いと、慌てる様に言いながら、曼殊沙華ひがんの頭の垂らしに手を左右に振って顔を上げる様に言う。
「いえっ…そんな事、仰らないで下さい、曼殊沙華さんの様な戦女神に使われて、彼も、本望だったのだと、思いますから」
その言葉を受けて、彼女は顔を上げる。
次に、曼殊沙華ひがんが心配した事は、武装人器と言う戦女神にとってのパートナーを失った事に対してだった。
基本的に戦女神は武装人器であれば、エインヘルヤルを流し込む事で武器としての能力を向上させる為、どの様な武装人器であろうとも頓着無く使う事が出来るが、武装人器の愛着が高ければ高い程に、武装人器もそれに応じて強くなる。
なので、複数の武装人器を平等に愛する戦女神も居るし、即座に愛着を抱く為にとっかえひっかえで武装人器を漁る戦女神も居る。
しかし、今、目の前に居る戦女神は、見る限り、一人の武装人器のみを使用していた様子だ。
余程の愛着がある筈だろうし、同時に、それを失った際の衝撃も計り知れない。
少なくとも、一人の武装人器を失った事で、戦女神として機能しなくなり、引退を決意したものすら居るのだ。
「…貴方は、これから、どうするのですか?」
だから、曼殊沙華ひがんは、今後の彼女に対して不安を抱いていた。
彼女の問い掛けに、戦女神は少し、寂しそうな表情で笑みを浮かべる。
武装人器との出会い、思い出を脳内で巡らせているのだろう。
「…大切な、武器でした、もう居ないと思うと、こんなにも心に、穴が開くものなんですね」
自らの、平坦な胸に向けて手を添える戦女神。
目を瞑り、哀しみが体中に流れ出る。
もう、大切な人は其処には居ないと言う事を改めて理解する。
「戦女神として、やっていけそうですか?」
曼殊沙華ひがんは心配しながら聞く。
俯きながら、戦女神はゆっくりと話し出す。
「…正直、失ったショックが大きくて…それでも」
それでも。
顔を上げて、この辛さを乗り越えて。
戦女神は約束をする様に、曼殊沙華ひがんに言うのだ。
「やっぱり私は、戦女神として戦います、そうじゃないと、きっと彼は、私が戦女神じゃない事に納得しないだろうから」
武装人器の別れは、時に戦女神を強くさせる。
死ねばそれまで、ではないのだ、死んでも、死んだ後でも、どの様なカタチであろうとも、戦女神に何かしらの影響を及ぼす。
今回の決別は、彼女の力へと変わる様になっていた。
「だから、私は、この命が尽きるまで、戦女神です」
彼女の吹っ切れた様子を見て。
曼殊沙華ひがんは、ほっと、一息口から漏らした。
これ以上は、彼女が心配しても杞憂なだけだ。
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