第13話

数時間前の事である。



曼珠沙華ひがん。

彼女は尤も多くの武装人器と契約している戦女神である。

好感度次第で武装人器の能力を底上げする事が出来る彼女は清純とは言い難き存在である。

女神の如き美貌を持つ彼女はあらゆる者を魅了し虜にする戦女神の破顔。

多くの武装人器はその微笑みの為ならば死ぬ事すらも恐れなくなる。


それでも、武装人器から求愛をされても、彼女達にはなんら影響は起こらない。

あくまでも、戦女神が武装人器を使い熟す事、それと武装人器を求め、愛する事で性能上限を振り払い、神器としての領域に達する。


しかし。

曼珠沙華ひがんは、戦女神としての清純さに加え、他者に全身全霊の愛を捧げる事が出来た。

その愛情は通常の戦女神が熟年使い古す事で発揮出来る程のエネルギーを僅か一晩で注ぎ込み、瞬間的に武装人器の性能を超強化させる。


彼女の愛は総ての人類に捧げても余りあるものだった。

だが、当然ながら彼女の全身全霊の愛を受け止める事の出来る人器は存在しない。

武装人器として扱われ、エネルギーを流し込まれ続ける事で、時間が経過すると共に自壊していくのだ。


怖ろしい事に、彼は武装人器は武器として死んでいく事に恐怖は感じ得ない。

武装人器にとって、武器として死ぬ事こそが最大の喜びにして人生であった。


そんな彼らの死に対して曼珠沙華ひがんは哀しみの感情を抱く。

愛するものが死んでしまう事は恐怖以外の何物でもないだろう。


全身全霊で愛するが故に、彼女にとって失う時の哀しみは辛く重たいものだった。

だからこそ、彼女の自分を慰める行為に道具を使用する事は、決して彼らを忘れない為の行動であるのかも知れない。





はぁ…はっ、あは!

こんなにも、愛して下さるだなんて…皆さま、とても素敵です

あなたたちのいのち、わたしがもらっちゃうので、せめて、この時だけは


わたしを、どうか、おもちゃのように、たくさん使ってくださいね?


きゃっ…んんっ…っ!あぁ、満たされていく…愛をたくさん、もっと、もっとぉ…





決して自ら愉しんでいるワケでは無い。

そんなワケで、曼珠沙華ひがんは沢山の武装人器との思い出を心に抱く。

ヴァルハラ内部では優秀な人材、人当たりの良い性格、聖女の様な気品と容姿を持つ彼女に親しみを抱くものは多かった。


「曼珠沙華さん、こんにちは」


廊下を歩く曼珠沙華ひがんに話し掛ける戦女神。

彼女の挨拶に、彼女は手を挙げて挨拶を返した。


「はい、こんにちは、今日も良い日ね」


取り留めのない会話を楽しむ戦女神たち。


「今日は何か良い事があったのですか?」


ご機嫌な曼珠沙華ひがんの表情を見て、微細な笑みを感じ取った戦女神はそう聞いた。

オークション帰りである曼珠沙華ひがんは、本日も多くの武装人器を購入する事が出来て上機嫌な様子だった。

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