第12話
刻は夢の中を彷徨う。
魔装凶器の肉体に繋がった歯車と共鳴した為だ。
その歯車は、複数の生命体で構築された合金人器である。
複数の怨嗟の声と、救済を求める声が、歯車の擦れる音として刻に訴え掛けたのだ。
『どういう事だよ』
刻は叫んだ。
彼らが何故、この様な複雑かつ猟奇的な歯車として変貌してしまったのかを。
彼ら歯車、武装人器の集合体は彼の問い掛けには答えない。
だが、少なくとも、彼らが一つに融解してしまった理由が聴こえてくる。
『女に部品にされた』
『色んな部品で、俺達が作られた』
『魔装凶器を人為的に発生させる為の道具として』
『たすけてくれ』
『死にたくない』
『お願いします』
その様に悲壮感漂う声色で刻に投げ掛けて来る。
だが、刻にはどうしようも無い事だ。
彼らの為に何かしたくても、刻はただの武装人器でしかない。
『おねがいだぁ』
『タスケテ…タスケ、テ…』
夢の中で、無数の人々の手が刻を掴み出す。
刻の心の内に、彼らに対する恐怖が生まれ出した。
彼らの手を振り解かなければ、自分も闇の中へと引き摺り込まれるかも知れない。
『いや、あんたらを助けるのは無理だ、俺には出来ない』
しかし。
刻は彼らから逃げず、手を振り解く真似もせず。
真正面から、悪びれる様子も、義憤にかられる様子も無く、そう言った。
『俺は歯車だから、あんたらの言う言葉は分かる、ただ、分かるだけだ、それ以上はどうにも出来ん』
今の刻には、彼らの嘆きを救う方法も手段も無い。
『けど、あんたらが教えてくれた事は貴重だ、俺が何処まで出来るが分からんけど…この声が届く様に、戦女神に直接言うよ』
無数の手が次第に離れていく。
『それ以上は出来ん、俺が出来る事があるとすれば、あんたらの言葉を聞くだけだ…それしか慰めにならんけど、あんたらの中で、感情を出し切るまで、付き合いますぜ』
そう言った。
床に座り込んで腹を据える。
彼らの思いを全て聞き入れようとする姿勢を見せた。
しかし、誰も彼も、刻に話し掛ける事は無かった。
気が付けば、刻は既に夢の中では無かった為だ。
「…んぁ?」
刻は目を覚ます。
其処は真っ白な部屋だった。
清潔感漂う、アルコールの微かな匂いに、穢れなど一切ない事を証明させる、真っ白なベッドの中で、刻は眠っていた。
其処は、ヴァルハラ附属の学園が運営する医療施設である。
どうやら、魔装凶器から見つかった歯車の音を聞き、気絶した後に、この医療施設へと運び込まれたらしい。
「…夢、か」
刻はゆっくりと目を開く。
先程見ていた夢が、真に迫る現実味を帯びた夢だった為に、今の状況こそが夢の中では無いのかと錯覚してしまった様子だった。
「…?」
しかし。
何故か人肌暖かな感触が隣にある。
刻は隣に視線を向けた。
黄金の如く輝かしい金髪に、彼岸花を模した髪留めを装飾し、一糸纏わず全裸の状態で刻の隣に眠る女子生徒の姿が目に映った。
(…え?夢の続き?)
刻は目を丸くしながらそう思った。
武装人器を使い潰す事に長けた戦女神・
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