第10話
手を指し伸ばしたまま、硬直する四葩八仙花。
微笑みを引き攣らせながら、ゆっくりと後ろを振り向く。
そして、彼女は膝を曲げて、小さな声で自らの武装人器に話し掛ける。
「…いま、なんと言ったか聞こえたかしら?私の聞き間違い?名誉と栄誉のダブルゲットじゃなくて?それを断るなんてありえますの?」
大きな扇と化した雅が、彼女に聞こえる声で話し出す。
「聞き間違えでしょう、お嬢様の申し出を断る輩が居る筈がない」
雅にも、刻が断りの言葉を口にした事は耳にしていた。
だが、彼女もまた刻の言った言葉が聞き間違えであると認識した。
英雄の娘、四葩八仙花家の御令嬢である彼女の勧誘を拒否する事など有り得ない。
「でも、これでまたスカウトして、それで断られたら?私、一人の殿方に二度振られたと言う事実だけ得る事になりますのよ?」
恥ずかしそうに顔を赤くする四葩八仙花。
お嬢様として気恥ずかしさを感じる彼女に、雅は心配するなと武器化状態で胸を張って告げる。
「その様な展開になれば私めが不躾なあの男を潰します、ご安心を」
何とも物騒な言葉を口にする武器だった。
その言葉に元気を貰ったのか、四葩八仙花は立ち上がり、掌で握り拳を作って咳払いを一つする。
「こほん、…私の武器と「いやならねぇって」
彼女の勧誘を遮り、刻は二度も言わせぬと言いたげに言い切った。
「な、私の言葉を遮ってまで…ッ?!」
今度ばかりはきちんと、刻の言葉が耳に入っていた。
ショックのあまり白目を剥く四葩八仙花。
大鉄扇と化していた雅は自力で武器化を解くと共に、刻に向かって胸倉を掴んだ。
「貴様ーッ!何が不満だと言うのだ、お嬢様の何が不満だァ!」
出血多量で体中ボロボロの刻を、容赦なく上下に振り乱す。
「ぐえ、えッやめ、やべッぐあッ!」
眩暈を覚える刻。
彼の悲鳴を聞いて、白目で遠くを見ていた四葩八仙花は正気に戻る。
「はッ、お婆様の御背中が見えましてよ…って、雅、何をしていらっしゃるのかしらッ!やめなさい、めッ!!」
狂犬と化した雅を止める四葩八仙花。
彼女の静止により、ようやく刻に対する行動が止まった。
「それで…不本意ですが、何故、この私の勧誘を断りまして?後学の為の参考にさせて頂きますわ」
刻の顔を見て少し不満げな顔をしている四葩八仙花。
「そりゃ、パートナーが欲しいとは思うけどよ…俺は一人でも戦える事を知った、だったら、相棒は居なくても良いって思うのは普通だろ?」
そう刻は言った。
元々、鉄屑として蔑まされて来た。
誰からもパートナーとして選ばれなかった。
ならば、いっその事、単独で行動し、魔装凶器を倒す方が楽だろう。
事実、刻は魔装凶器を一人で斃してみせたし、武装人器が一人で行動してはならない、と言う規則も無い。
フリーで動き、時に金次第で他者の武器となる、元々、
尤も、刻の考えるフリーとは、条件次第で鞍替えする傭兵では無く、一人で戦うと言う意味のフリーであるのだが。
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