第9話
(やる事ぁ決まってる)
刻は走り、魔装凶器へと接近。
当然、刻を脅威と認識した魔装凶器が釘バットの腕を大きく振り上げる。
相手も酷く体力を消耗している、早々に決着を急かしていた。
その隙を狙い、刻は攻撃を回避すると共に背後へと回る。
「が、あ!?」
首に手を回す。
腕を掴んでがっちりと固定。
「首さん、胴体にさよならしなッ!」
裸絞。
チョークスリーパーである。
前腕から皿の様に幅の狭い歯車を突出。
魔装凶器の首元に押し付け、回転と同時に首を絞める。
ぎりぎり、と、魔装凶器の皮膚を剥がしていく音が響く。
「ぐあぁ!がッ!」
魔装凶器の背中から複数の鋼の先端が飛び出る。
釘の先端を受ける刻は歯軋りをする。
肉体を貫く釘は激痛だろうが、それでも刻は我慢する。
「オちろォ!!」
魔装凶器の首から大量の血液が噴出。
血飛沫が周囲に撒き散らしながら、互いの血が地面を濡らした。
「うおァらあ!!」
魔装凶器が刻を引き剥がそうと体を左右に振る。
建物に刻を叩き付けるが、彼の身体が遠心力によって振り回される事により、魔装凶器の首に掛かる負荷が大きくなる、結果的に、刻の裸絞を手助けする。
「…やりましたわ」
四葩八仙花は素直に賞賛するが如く、その光景を目の当たりにしていた。
刻の攻撃により、魔装凶器の胴体と頭部が見事に分断された。
まさかの事態である。
「あ、あんな屑鉄が…一人で」
「まぐれだそんなの!!あんな無能が…ッ!」
周囲でその光景を見ていた市民も、それを守る体で観戦していた武装人器たちも。
そして当の本人である刻ですらも、決して見る事の出来ない辛勝を周囲に示して見せた。
本当の意味で、この事態に驚きを抱かなかったのは、数多くの戦闘を熟して来た四葩八仙花くらいなものだろう。
「は…はッ…ははッ」
驚き、笑みを浮かべる刻。
屑鉄と称された刻が、全身を傷だらけにしながらも、こうして勝利をしたと言う事実。
その時点で刻と言う存在は、屑鉄ではあるが、無価値と決定付ける事は出来なくなった。
(これだ…もう、パートナーなんざ、必要無い、俺は、俺一人の力で戦える、それが証明出来たんだ)
ボロボロの歯車を出しながら刻は、暗い未来に一筋の光を垣間見た。
征く道は決まった、ならば、後は進むだけだろう。
「それ程にボロボロになって、なのに笑顔を浮かべていると言う事は、何か掴む事が出来まして?」
地面に横たわる刻の前に現れる四葩八仙花。
彼女の顔を見ながら刻は、彼女の名前を口に出す。
「四葩八仙花…、さま?」
刻は数時間前に彼女と出会った事を思い出してその様に聞いた。
「えぇ、四葩八仙花でしてよ?下の名前は教えませんが」
そう言いながら、刻に向けて手を伸ばす。
「良き闘いでしたわ、例え不利な武器形態であろうとも、自らの意志によって突き進む貴方の姿勢、気に入りましたの、私と共に来なさいまし、私が、貴方に神の領域を魅せてあげましてよ?」
それは、勧誘であった。
あの四葩八仙花が、自らスカウトするなど滅多に無い。
なので、余程気に入られたと言う事なのだろう。
その言葉に刻は。
「…あ、いや、間に合ってます」
宗教勧誘を断る様にそう言うのだった。
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