第8話

息を切らす刻。

彼女の登場に、彼は疲労が一気に放出された。

気を張っていたが、これで終わりなのだと思った。

戦女神が登場した以上、彼女たちに戦いを引き継がせた方が良い。

そう納得して、刻は立ち上がる。

そして彼女の肩に手を掛けた。


「(分かりました、ありがとうございやす)邪魔すんな、今良い所なんだよ」


心の中で思っていた事。

口に出て来た言葉は、彼女の颯爽とした登場に反感した言葉であった。

自分でも何を言っているのか、混乱している様子で目を大きく見開いた。


「…今、なんと仰いまして」


ゆっくりと振り返る四葩八仙花。

可憐な少女としての柔和な表情を浮かべているつもりなのだろう。

しかし、彼女の目は笑っていなかった。

額にも青筋を浮かべている。

確実に怒りを帯びている事が分かった。


なので、刻は一瞬、自分が口走った事を後悔した。


(…いや、後悔なんて、事実、そう思ったんだろうが)


自分の気持ちを改めて考える。

今、刻は相手に勝てそうだった。

それなのに、彼女が刻の勝利に水を差した。

邪魔と言う他無い行動だ、怒りを覚えるのは当然の事だろう。

自分の気持ちを整える。

そして、刻は目前と彼女の顔を見て、改めて告げた。


「被害は建物だけだ、あんたは周囲の人に怪我が無い様に尽力するだけで良い、これは俺の戦いだ、横槍なんて無粋ですぜ」


心臓を高鳴らせながら刻は言った。

あの戦女神に反論したのだ。

スカした態度を取る真似はした事があるが。

此処まで彼女を否定する様な言葉は今まで言った事が無かった。

けれど、それが妙に晴れやかな気分に繋がった。

満身創痍でありながら、刻は自分の遣りたい事が見つかったのだ。


(俺は戦うのが好きなんだな…武器としてじゃなくて、人として)


拳を握り締める。

そして刻は走り出し、再び魔装凶器の元へと駆けだした。


『あの狼藉者め!お嬢様になんて言い草を!!』


雅が武器状態のままでその様に叫んだ。

その声を挙げるのは、四葩八仙花としての武器として当然の反応だ。

だからこそ、戦女神である彼女は冷静に雅の事を宥める。


「いいえ、雅、無粋でしたのは、私たちの方でしたわ」


掛ける刻の後ろ姿を見ながら、四葩八仙花は蕩ける様な声色で告げる。


「なんと美しい事かしら、自らの我の為に戦う様など、貴方以来じゃありませんこと?」


優しく、彼女は扇子と化した雅を撫でてそう言った。


「見定めて差し上げますわ、あのお方が、鉄屑で終わるか、武器として昇華するかを」


刻の背中を見て、四葩八仙花はこの戦いが何方に転ぶのかを心待ちにする。

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