第15話 王都へ
また、あの夢を見た……。
例の三人娘たちの夢だ。
しかし、今回は少し様子が違っていた。
夢の中に別の登場人物が加わったのだ。
その人物は、
『コール』
『ジーク』
と呼ばれる二人の男の子だった。
この二人の男の子たちも、女の子たちと年は同じくらいに見えた。
五人は仲良さそうに遊んでいる。
しかし、その姿からだけでは彼らの関係はわからなかった。
兄弟姉妹なのか……?
ただの幼馴染なのか……?
一緒に暮らしているようだったが、兄弟姉妹だとするとみんな年齢が近すぎるのが気になった。
相変わらず謎の多い夢だった。
「おい、あんた……! おい……、大丈夫か……!?」
誰かに呼び起されて、意識を取り戻す。
どうやら俺は王都を目指す道中、空腹のあまり行き倒れてしまっていたようだった。
ブッシュドルフの村を出て3日間、昼夜を問わず飲まず食わずの旅をつづけていたが、さすがに無理が祟ったのだろう。
俺を助けてくれた男だろうか。
金髪のイケメン男子が、俺の顔を覗き込んでいる。
年は、今の俺とそんなに変わらない青年だ。
軽鎧に腰には剣を帯びている。
しかし、衛兵とは少し装備が違っている感じだった。
「おっ! 気が付いたか……!」
彼はさわやかな笑顔をこちらに向ける。
なんだか、無性に腹が立ってくるほどのさわやかさだ。
いかん、いかん……! この人は俺を助けてくれた人じゃないか……!
モテない男の僻み根性を出している場合じゃない、助けてもらったお礼をしないと……。
俺は、礼を言おうと身を起こす。
すると傍にもう一人、でっぷりとした体格のいかにも『絵に描いたようなおっさん』と言っても差し支えのない中年男性が立っていた。
こちらは剣や鎧など身に付けておらず、どこかの街の一般市民といった出で立ちだった。
剣士風の若者と一般市民のような中年男性。
二人の関係がどんなものかわからない。
だが、とにかく二人は一緒に旅をしている間柄で、その道中、行き倒れている俺を発見して、介抱してくれたことには間違いなさそうだ。
「ありがとうございます……。王都へ向かっていたところだったのですが、途中で力尽きてしまったようで……」
ともかく助けてもらったわけだから、お礼は言わなければ……。
それに、なぜこんな場所にいるのか、間違いなく聞かれるに決まっている。
そう思い、俺は二人に礼を言うと同時に、王都に向かう途中であったことを話した。
「王都へ……? ここからでもまだ3、4日かかるぞ……! それなのにお前、なにも持っていないみたいじゃないか……」
俺の言葉に対して、若い剣士風の男が呆れたように言う。
実は、村を出るときに剣と服は新しい物を身に付けてきたが、食料は盗賊たちに根こそぎ奪われてしまっていたようで、まったく残っていなかった。
そのため、食べられそうな物は、なにも持ってくることができなかったのだ。
ここから王都までまだ数日かかる。
無事たどり着けるか不安になっていた。
そんな時に、
「ぐうーーーーーーーっ…………!!」
不安とは裏腹に、俺の腹がなんとも緊張感のない音を立てる。
「はははっ、ちょっと待っていてください!」
そう言うと中年の男性は、街道の脇に停めていた馬車からパンをいくつか持ってきて、俺の目の前に差し出した。
えっ? くれるの……?
どう見てもそうとしか理解できない状況なのだが、その真意がわからない。
見ず知らずの行き倒れに、ただで食べ物を恵んでくれる。
なにか裏があるのではないだろうか……?
「はははっ、そんな怖い顔をされなくても……。 なにも見返りは求めませんよ……」
じっとパンを凝視していた俺の顔は、相当険しい顔をしていたようだ。
「見返りはいらないと言いましたが……、王都まで行く予定でしたら、道中ご一緒していただけませんか?」
男性はそんな提案をしてくるが、俺はその真意がますますわからなくなっていた。
ただで飯をくれる上に、王都まで一緒に行ってくれる?
あまりにもこちらに都合がよすぎるような気がする。
「あなたのその恰好を見るに剣士ですよね? 私の護衛もかねて同行していただけるなら、道中の食事もお付けしますよ」
俺があまりに怪訝そうな表情をしていたせいか、男性は訳を話してくれた。
しかし護衛にと言われたが、こんな街道に行き倒れていた見ず知らずの奴、怪しいとか思わないのだろうか。
まぁ、その辺は最初からそう思われていなかったから、助けてもらえたのかもしれない。
怪しいと思われていないことは、こちらにとっても有難いことだ。
とりあえず、そこは気にしないでおこう。
それ以前に、俺には人様の護衛ができるだけの腕はないのだが……。
この人は、それについてもどう考えているのだろうか。
剣を持っている、ただその外見だけで腕が立つと思われたのだろうか?
「あの……、自分で言うのもなんですが、俺は人を護衛できるような剣の腕前なんて持ってませんよ……」
俺は正直に答えた。
「いえいえ、腕なんてどうでもいいんですよ。ただ、剣を持っている人が傍にいてくれるだけで、盗賊除けになりますからね」
「盗賊除け……?」
剣を持っているだけで盗賊除けになる、とはどういったことだろうか?
男の説明に耳を傾ける。
「はい、この街道は王都につづいているだけあって衛兵の監視が厳しくて、あまり徒党を組んだ盗賊は出ないのです……」
衛兵がちゃんと仕事をしているってことか?
なんか、にわかに信じられないことだが……。
それとも、ヴァイスベルクの街の衛兵が酷いだけであって、王都の衛兵はさすがにまじめな者が多いのだろうか?
ともあれ、この辺りに盗賊が出ないことはわかった。
「……ですが、たまに監視の目を潜り抜けて、少人数で活動している奴らが出てきたりはするんですよ。そいつらは、一人旅をしている者や武装していない少人数のグループを狙ったりします。つまり、弱そうな者だけを狙ってくるのです。」
なんだ、出ることは出るのか……。
確かにここまでの道中で盗賊に会わなかったが、まったく出ないというわけではないということか。
それにしても、弱そうに見えるヤツだけ狙ってくるとか……。
もしかしたら、俺も危なかったかもしれないな……。
それとも、ここまでは運がよかっただけなのかも……。
「ですので、逆にこちらが武装しているところを見せるだけでも、盗賊たちは寄ってこないのですよ」
「なるほど、それで武器を持って同行するだけでよいと……」
「どうです? お互いにとって、よい話ではないかと思うのですが? あなたも一人で旅するよりは安全ですよ」
この男性にとって、食事を与えるだけで護衛を雇える。
俺にとっても、単独で行動するよりは危険を回避しやすいし、さらには道中の食事の心配もなくなる。
確かにお互いにとって利益になる話じゃないだろうか。
俺は快くその話に乗ることにした。
しかし、もう一つの疑問が残っていた。
この人、素性もわからない者をほいほいと護衛にして大丈夫なのだろうか……?
もちろん自分では怪しい者のつもりはないが、こんな盗賊も出没するようなところで怪しまれないほうがおかしい。
「私は王都で商いをしている商人でしてね、商売柄いろいろな人を見てきたのですが……、おかげで人を見る目には自信があるのですよ!」
俺のことを怪しいと思わないのかと尋ねると、男は自分の正体を明かしつつその理由を答えてくれた。
『いろいろな人を見てきたから、人を見る目に自信がある』
その言葉に、どこか妙な説得力があるのを感じた。
いろいろな人と商売で関わる中に、信用してきた人も裏切られてきた人もいたのだろう。
その経験から身に付けたカンのようなものを、この人は持っているのかもしれない。
そんな人物に信用してもらえたことが、なんだかうれしく思えた。
それにしても、この人は商人だったとは……。
そう言われて、でっぷりとしたその体格が、どこぞのゲームに出てくる商人とイメージが重なってしまった。
「私はダニエルと申します。先ほども申しましたが、王都で商いをしている商人です」
改めて彼が自己紹介をしてくれた。
どうやら○○ネコさんではなかったようだ……。
街道脇に停めたあの馬車の様子から見るに、どこかで商品の仕入れをした帰りといったところだろう。
「俺は、『コウ』と言います。まぁ、冒険者をしています……」
彼の自己紹介に対し自分も名前を名乗るが、いつものように名乗ることにしておいた。
それよりも職業のほうが、なんと言っていいのかわからなかった。
とっさに『冒険者』などと言ってしまったが、大丈夫だろうか?
前世の世界では、ゲームや漫画の影響でファンタジー世界には『冒険者』というひとつの職業があるように認識されていた。
しかし、初めてこの世界に来たときに聞いた感じだと、『冒険者』とは、この世界では職に就いていない放浪者みたいに思われているようだった。
「おお、冒険者でしたか……。すると王都へは仕事でも探しに行かれるとか?」
現在、職に就いていないという認識は彼も同じようだったが、なんとなく前向きに理解してもらえたように聞こえた。
よいイメージで捉えてもらえたのなら、そういうことにしておこう。
「はい、ですので王都まで……、こちらこそよろしくお願いします!」
こうして、ダニエルさんの護衛として王都まで同行することとなった。
俺と金髪イケメン剣士の間にダニエルさんが座るように馬車に乗り込む。
馬車はダニエルさん自身が御して、俺と金髪イケメン剣士の彼は、ダニエルさんを守るようにその両脇に位置どる。
後ろの荷台には、ダニエルさんの扱っている商品が入っているのであろう樽や木箱がたくさん積まれていた。
ん……? この匂いは……?
荷物からとても香しい匂いがしてくる。
なぜかその匂いは、どこかで嗅いだことのある懐かしい匂いに思えて、それらの中身が気になってしまう。
しかし、さすがに商品を見せてくれというのも失礼かと思い気にするのをやめた。
さすがに違法な物ではないと思うけど……。
「なあ、あんた、仕事を探しているのなら、『鉄血団』に入らないか?」
金髪のイケメン剣士が話しかけてきた。
「『鉄血団』……?」
いきなりなにかの組織に勧誘されたが、なんのことだかさっぱりわからず、そのまま聞き返してしまった。
彼を見ている限り怪しい組織とかではなさそうだが、名前が気になる。
怪しいというよりも……
なんと言うか……
そのネーミングセンスが……。
「彼が所属している王都に本拠地を置く傭兵団の名前ですよ」
俺が訝し気な表情をしていたのを見て、ダニエルさんが助け船を出してくれる。
「すまない……! 自己紹介もしていないのに、急にそんなこと言われても困るよな……! 俺は、『ラファエル』って言うんだ。さっき言った『鉄血団』っていう傭兵団のメンバーだ!」
そう言えば、彼の名前をまだ聞いていなかった。
それと彼が何者であるかということも……。
彼は傭兵団のメンバーと言ったが、そんなものが王都にはあるのか……。
しかし、そんなものに勧誘されたのはいいが、俺は傭兵になれるほどの剣の腕を持っていないのだが……。
先ほど護衛を頼まれたときに、その辺りについては話したはず。
そんな人間を勧誘してくるとは、よほど人手不足なのか?
「いや、せっかくのお誘いはうれしいのだけど、さっきも言ったように俺は剣の腕は大したことなくて……」
「いやいや、確かに主な仕事は戦争に参加したり、誰かの護衛をしたりといったものが多いが、別に戦うことばかりが仕事じゃないぜ。なんだったら俺が鍛えてやろうか?」
剣の腕を理由に断ろうとしたが、彼は引き下がらない。
なにか気に入られてしまったのだろうか?
「いろいろな場所に調査に行ったりする仕事なんてものもあって、そういった仕事はそれほど剣の腕がなくたってできるぜ」
傭兵の仕事というと、王や領主に雇われて戦争に参加するといったイメージを持っていた。
しかし彼の話を聞いて、彼らの仕事はどちらかと言うと『なんでも屋』といった印象を受けた。
それこそ彼らのやっていることこそ、『冒険者ギルド』ではないだろうか、と感じた。
この世界に来て最初に訪れた街であるヴァイスベルクの衛兵に「冒険者がギルドなんてつくるわけがない」と言われたが、確かに本拠地を持たない冒険者はそういった組織は持っていないようだ。
しかし、ちゃんと本拠地を持った『冒険者ギルド』のようなものは存在したのだ。
それが彼らの傭兵団というわけだ。
彼らは冒険者のように各地を放浪していることはなさそうだが、仕事柄、各地の情報はいろいろと持っていそうだ。
これから王都でいろいろと情報を得なければならない。
傭兵団に加わるとまでもいかないまでも、親しくしておいて損はないのではないだろうか。
そう考えた俺は、ラファエルの申し出に対し保留するような返事をしておいた。
「まあ、気が向いたらいつでも声かけてくれ」
俺の曖昧な返事にも、彼は気を悪くしていないようだった。
いい奴だ……。
率直な彼に対する第一印象だった。
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