第4話 INVITATION〜招待〜
私は日々ゲームにログインし、意味が分からないなりに少しづつ戦闘力をあげていった。このゲームには、というかほとんどの MMORPGにあると思うのだが、ギルドというシステムがあり、自分でギルドを立ち上げてどんどん仲間を募集もできるし、誰かの立ち上げたギルドに入って、ギルドのメンバーと一緒にいろんなイベントに参加したり、ギルド同志戦ったりというコンテンツがある。
ゲームをエンジョイするにはギルドに参加するのはほぼ必須で、フィールドでいろいろやっていると、いろんなギルドからランダムに招待されることがある。
良さそうなところだったら入ってもいいのだが、私は自分の戦闘力がある程度育つまでは、どこにも属せず、様子をみようと思っていた。Patrickは用心深いのである。
あと、ある程度アクティブでかっこいい名前(笑)のギルドに入りたかった。
見てみると本当にいろんなギルドがあり、「おっぱい同盟」や、「ノーパンしゃぶしゃぶランド」みたいな昭和のセクハラジジイが作ったんかみたいな名前のギルドはもちろん全拒否で、「ゆるふわ富美子の庭」「カイルと愉快な仲間たち」といった多分ギルマスの名前なんだろうが、一人にスポットが当たっているような名前のギルドも遠慮した。
個人的には「東京メトロ千代田線沿い」や、「グリフィンドォォォォォォォォォォル!!」や「下町おばちゃん食堂」といったほっこりする感じのギルド名のとこを気にいっていたが、やはりPatrick的には「Mercury247」、「dandelion」、「Cavaliers」、「Fleur Noir」みたいな感じがいいのかなとなんとなく思っていたある日、
[Cavaliersが あなたをギルドに招待しました] という通知が来た!
Cavaliersが!なんなら一番名前かっこいいと思っていたCavaliersから招待が!!即承諾もキモいかなと思い、少し間をあけて私は「承認」をタップした。
Patrick, Cavaliersに参入!!
ギルドに入ると、まずギルドチャットで挨拶するのが割と決まりである。これは他のゲームでも学んでいた。
「Patrick さん入られました〜!よろしくお願いしま〜す!」
ギルドマスターだろうと思われるうーぱーさんがチャットでそう言うと、
「Patrickさんよろしくお願いします〜」
「初めまして〜!よろしくお願いします」
「momoです!よろしく〜〜!」
と、ギルメンが次々とチャットに書き込む。
わたしはすかさず、
「Patrickです!はじめまして!よろしくおねがいします!」
と、書き込んだ。
Patrickは、日本文化を重んじる、謙虚なフェミニストという脳内設定で始めた私は、とりあえずしょっぱなから「Hello!」と外国人であることをさらけ出すことはしないようにしようと心がけていた。始めはできるだけシンプルな日本語で、余計な事を言わずに様子見しようと思っていた。それでもやはり外国人なので、そこここでカタコトになるあざとさまで身につけている。
「みんな優しいから、わからないこととかチャットでどんどん聞いてね〜!」と、うーぱーさん。
「はい! ありがとうございます!」
Cavaliersは、チャットやメンバーの名前やタイムラインに書いてあるコメントなどを読む限り、女性の割合がかなり多い事にきがついた。先ほども述べたように、このゲームは女性の割合が他のゲームと比べてかなり多いと思われる。
が、本当のところは分からない。私のようにイケメンのふりをしてるおばさんがいるように、女のふりをしてるキモオタも、 JKのふりをしてるおじさんもいるかもしれないのがオンラインの世界なのだ。油断は禁物である。
プリまゆ「ねーねー、おなかすいた。」
うーぱー「知らんがなw」
プリまゆ「今夜ともだちの家でタコパすんねん。」
うーぱー「ええやん。」
プリまゆ「私タコ嫌いやねん。代わりにグミいれたろ。」
うーぱー「テロやんwwww」
ERIKA「ねねね、うーぱーさん。」
うーぱー「どしたー?」
ERIKA「さっき知らない男の人、パラディンの人だったんだけど、ずっと私についてきてて、気持ち悪かったんだけど、、、!」
うーぱー「うそっ!何か言われたりした?」
ERIKA「ついてきてると思ったら突然パーティーに誘われたw」
注: MMORPGの中のパーティーというのは、一緒になにかする時にパーティーが作られ、そのパーティーに入る事によってメンバーのバフがかかり、より良い結果を生み出すことができる。それ以外にも、自分のいる場所にみんなを呼ぶ時にもパーティーを組んでそこに入ったメンバーに一斉に自分のいる場所に集合をかけることもできる。あと、パーティーメンバーのみでチャットをすることも出来る。
うーぱー「え、パーティー入ったん?」
ERIKA「入るわけないじゃんw 気持ち悪いwww」
うーぱー「こういうゲームって変な人おるからねー。あまりにもしつこかったら言って ね。うちの子につきまとうな!って警告するから」
ERIKA「ありがとう〜〜!頼もしい〜!お母さんみたい」
うーぱー「ちょwww ピッチピチの女子大生なんですけどwwww」
うーぱーさん女子大生!!?? マジか!! チャットを静観していた私は内心びっくりした。若いっ、、、!!!私の半分以下、、、!私が彼女の年齢の時にはこんなゲームなかったぞ!いや、あったのかもしれないけど、スマホで手軽に出来る こんなクオリティのMMORPGはまずなかった。うらやましいぞ!
そういった感じのチャットが延々と続き、Patrickはレベル上げをしながらもそれを静観していた。面白い。
自分も 今までMMORPGをプレイしまくって来たわけではないから断言は出来ないのだが、こういったゲームはゲーム内でのつきまといや、ゲーム内恋愛など多々あるらしいことはネットでたまに読んでいた。
Patrickはキャラもイケメンで中の人もイケメンという夢のような設定なので、モテたらいいなとは期待はしてなくはないが、でもたとえモテても、Patrickは誰とも恋愛関係にはならない、と決めていた。Patrickはリベラルでフェミニスト、どう言うことかというとよくゲームの世界に多いミソジニーで幼稚な男とは違い、女性と対等に、リスペクトしながら、誹謗中傷は絶対にしない(相手がミソジニーでない限り)、下ネタは言わない(私が嫌いだから)紳士でありたいと思っていた。
それから数日間は、メンバーの繰り広げるたわいのないギルチャを読みながら、一応「おはようございます!」と挨拶等はちゃんとして、静かにレベル上げをがんばった。
その週の土曜日に、初めてのギルド防衛戦というのがあった。メンバーのみんなで自分たちのギルドの領地へ行って、向かってくるモンスターと戦い、領地を守るといったものだった。
領地に来たみんなは写真をとったり、おっかけっこしたり、ただ突っ立っていたりと、思い思いにすごしている。
そこでギルマスのうーぱーさんが役割ごとチーム分けをし、チームごとにパーティーを組み、いざ戦ういった感じだ。
パーティーに招待されると通知が来るので、それを承諾。するともうパーティーに入り、パーティーチャットが始まる。
ERIKA「よろしく〜〜!」
ringogo「よろしく!」
エマニュエル「よろしく!このパテなにするの?」
Patrick「よろしく お願いします!」
ERIKA「中央でひたすら戦うだって」
なるほど、それなら出来そうだ。
うーぱー「それじゃみんなごはん食べよか〜」
ギルマスのうーぱーさんがそう言うと、自分の周りにつぎつぎと料理が現れ始めた。
私は思わず「What is this?」と聞いた。
みんなの動きが一瞬止まった気がした。やばい、突然英語すぎたか。
うーぱー「あれ、Patrickはまだ料理作ったことない?食べて食べて〜!バフがもらえるよ!」
食べるのアイコンが出るのでいろんな料理を次々に食べていくと、バフを身につけ、どんどん戦闘力があがった。ただし、30分の間だけらしい。
Patrick「ほんとだ! ありがとうございます!」
うーぱー「Patrick、料理の作り方分かる?」
Patrick「ごめんなさい、わからない。」これは本当に分からなかった。
うーぱー「じゃあ防衛戦終わったら教えてあげるね!」
Patrick「はい!よろしく おねがいします!」
うーぱー「じゃあみんな、いっきまーす!」
うーぱーさんがそう言うと、防衛戦がはじまった。わたしは何がなにやら分からないままがむしゃらに戦った。たくさん敵を倒して、勝ったかと思うとこんどは大きなドラゴンみたいなのが現れ、大苦戦した。
そして大苦戦の末、ついに防衛戦に勝利した。領内に花火があがる。
ギルドチャットが一気ににぎやかになる。
プリまゆ「やったぁー!!」
ringogo「おつかれさまー」
Takazaki「おつかれー。強かったね」
momo「プリまゆさんめっちゃ無双してましたねw」
Patrick「we won!!」
チャットの勢いが一瞬止まる。
うーぱー「 YES!won! Victory!!」
、、、そしてまたチャットが動き出す。このギルマス、うーぱーさんのコミュ力は素晴らしいな、と私は感心した。
私はこのゲームを始めて、初めての勝利に、少し高揚していた。
私が他のメンバーと勝利の写真をとったりしていると、「プライベートチャット」が来た。
このゲームは、「ユニバーサルチャットチャット」、「エリアチャット」、ギルドチャット」、「パーティーチャット」、あと「プライベートチャット」がある。この「プライベートチャット」は、1対1で誰かと話したい時に使うもので、Patrickはもちろん使った事がなかった。
はじめての「プライベートチャット」は、うーぱーさんだった。
うーぱー「料理のつくりかた、教えるからついてきて!」
Patrick「はい!」
私はうーぱーさんが領地内のどこかに走っていくのが見えたので、それを追った。
そこは領地内にある食堂だった。料理の作り方は、しごく簡単だった。
うーぱー「わかった?」
Patrick「はい!こんどは わたしがみんなにごちそうする!」
Patrickの日本語は、基本平仮名で、簡単な漢字は使うようにしている。カタコト加減は、日本語を勉強していたアメリカ人の友達Eddieと、一つ前の仕事で一緒だった日本語がとても上手な中国人の同僚の口調を参考にさせてもらっている。
うーぱー「日本の方ですよね?」
ふいにうーぱーさんが聞いてきた。
来たっっ、、、、!!! 私は意味もなく身構えた。
Patrick「あの、いえ、違います。外国人です。」
うーぱー「うそっ、、、!どこの国の人ですか?」
Patrick「アメリカ人です。日本語を べんきょう しています。」
うーぱー「ワーオ!!」
Patrick「hahahaha ワーオ!!」
うーぱー「アメリカにすんでるの?」
Patrick「いえ、いま 東京に すんでいます。」
アメリカに住んでいると言うと時差の関係でいろいろめんどくさそうだったので、東京に住んでいることにした。実際東京に住んでいるので。
うーぱー「ワーオ!!!」
Patrick「hahahaha ワーオ!」
うーぱーさんのワーオが可愛かったので何度も真似してしまった。
日本にすんでいると言うことで、仕事はなにかとか聞かれたらどうしようと思った(一応2、3個候補は考えていた)が、とくに聞かれることもなく、うーぱーさんは自分は奈良に住んでいる、と教えてくれたので、奈良の鹿のことなどを少し話して、はじめての「ささやき」は終わった。
次の日、昼前から夕方にかけて パクパクEatsの配達でまたいろいろすり減らされて帰ってきた私は、家の近くのお気に入りの弁当屋で買ってきたサバ味噌弁当を頬張りながら、早速ゲームを開いた。
このゲームは、いろいろ毎日やらないといけない日課的な物が結構あり、朝方にも朝ご飯食べながらやったのだがまだ終わっていなかったので、弁当食べつつネットでニュース読みつつやっていると、
ERIKA「こんにちは、Patrick」
ERIKAから、唐突にプライベートチャットが来た。
Patrick「こんにちは、 ERIKAさん!」
ERIKA「Patrickは、外国人なの?」
これは、うーぱーさんに聞いたのかな。
Patrick「はい、アメリカ人です。日本語を、べんきょう しています。でも、わたしの にほんごは、あまり じょうずじゃない。」
お決まりの外国人フレーズをとりあえず入れる。
ERIKA「Patrick 日本語、じょうずだよ!ほんとに。」
Patrick「oh, you are sweet」
ERIKA「私ね、外国人大好きなの!」
Patrick「really!」
ERIKA「うん!だから、Patrickが 外国人って聞いて、とてもうれしい!よろしくね!」
外国人が好きってストレートに言ってくるのって面白いな、と思った。
ERIKA「わたし がんばって英語勉強するね! Patrickとお話するために!」
なんて率直で可愛い物言いなんだろう、とちょっとトゥンク、、、となった。
Patrick「That's very sweet of you, わたしも、日本語がんばります :D」
ERIKA「今度、おすすめのmusicとか、教えてほしい!」
Patrick「もちろん!Anytime you want!」
相手が分かるかどうか分からないが、ちょくちょく英語をはさんでいく。日本人は英語を読む能力はとても優れていると思っているので、簡単なフレーズなどはきっと分かるだろうとふんでいた。
ERIKA「じゃ、またお話しよう!」
Patrick「はい!またお話し しよう!」
そう言うと、ERIKAはPatrickの周りをくるくる何周か回ったあと、森の方へ走っていった。
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