第12話 独白
碧ちゃんは寝ちゃったし、私は私で作業していきますか!ていうか碧ちゃん羊、柵越れてなかったな。
「ぶふっ……フフフフフフフッ!」
まずいまずいまずい!起こしちゃう起こしちゃう。碧ちゃんは睡眠に限らず努力の邪魔されるとキレ散らかすからね。まぁ誰だって頑張ってる時に邪魔されたらキレるけど。夜更かしはお肌の大敵だからって毎日ちゃんと寝るけどほんとにあの子四歳なのかなぁ……。
「まぁいいや!私は私でやることあるし!ってやべっ声が!」
それにしても、こうして二人で何かをするってのも久しぶりで楽しかったな。まだまだちびっ子だってのにあの子はどこか冷めた目で……。いつも周りと距離を置いていた。それはきっと自分の心を守るためだったんだろう。一応それなりにコミユニケーションはとるし、それなりに楽しそうにはしていた。でもあの子と周りとの間にはいつも見えない壁があった。
きっとそのきっかけは生まれた時から一緒にいた彼が、碧の姉貴分だった犬のミヨ太郎が死んだあの日だろう。
元々碧は物静かな子で、友達もそこまで多くなかった。でもその少数の友達とは親友とも言える程に仲が良かったと思う。そんな物静かな碧も家ではミヨ太郎にはベッタリで……。
ミヨ太郎の死は碧もある程度覚悟していたと思う。私も碧も日に日に弱っていく彼女の姿を見ていたから。彼女の死因は老衰。彼女は長年私と碧に寄り添ってくれていた。だから私は辛くても前を向いて彼女に心配させないように頑張ろうと思えた。安心してあの世で彼女が休めるようにと……。
だけど碧の心は、もたなかった。碧は無意識に心を守るためにミヨ太郎の記憶を消したのだ。そして自分の殻に閉じこもってしまった。碧は一日の大半を一人で過ごすようになったのだ。でも、そんなある日二度目の変化があった。
碧が人と話すようになったのだ。だけど、碧は大切なものを失う恐怖から人との間に見えない分厚い壁を作り、見えない仮面を被った。相手と近付き過ぎないように……失った時に心が壊れてしまわないように………。
碧は特定と人と仲良くなることがなくなった。その一方でいろいろな人と話すようになった。だけど私は怖かった。碧には心を開ける相手が誰一人としていなかったから。いつか全てを思い出した時、碧の心が壊れてしまう思ったから。碧の心はもうボロボロで、儚くて……。そして私の手はもう届かない。私には遠くに行ってしまった碧を見守ることしか出来なかった。
だから私は嬉しかったのだ。
碧があの日、本心から笑っていたことが。
碧がやりたいことを私に伝えてくれたことが。
それが例え私の娘の姿をした得体の知れない何かだったとしても……。
あの笑顔を失うことより恐ろしいことはないとあの日知ったから。
あの笑顔を守ることが私の生きがい。
だから私は……娘の形をしたソレに愛を注ぐ。
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