第8話 オーバーワーク その1
日課のランニングをして習い事に行くという日々を繰り返してこの生活に慣れ始めたある日……
「母さん!何か新しいことがしたい!」
『急にどうしたの?』
「習い事にもだんだん慣れてきたし、何か始めてみたいなぁって思ってさ。このまま現状に満足して何もしないで停滞していたら待っているのは緩やかな衰退だから。万札さんも言ってたしね。慣れてきた今こそさらに一歩前に何かを始めるべきだと思うんだよ!」
『なるほどねぇ。それは大事なことだと思うんだけどさぁ。』
「ん〜?」
『そういう知識ってどこで身に付けてるの?あと、福沢諭吉先生を万札さんって呼ぶのはやめなよ。』
「万札は勉学によって生まれ持っての優劣を埋めるべきとも言ってるよね。僕は学問に限らず人並み以上に努力してる自負があるし、多少勉強したところで追いつけない学力も身に付けたつもりでいる。」
『ならなんでそんな何かに追われるように、追い詰められているように努力し続けるの?』
「今は他より前に進んでいるかもしれない。でも先のことは誰にもわからない。だから、自分が追われていることを忘れちゃダメなんだよ。他の何倍もの量を何倍もの効率で努力して、僕は上に立ち続ける。それが僕がここにいる意味であり、人生を賭けた命題だから……。」
『ねぇ、人生何周目?あと、万札じゃなくて福沢諭吉先生だからね?ついに敬称すら付けなくなったか……。』
「う〜ん……2周目、かな?母さんって諭吉のファンなの?」
『ファンって言い方が正しいのかはよく分からないけど一応慶応卒だからね。はぁ……。で、なにかやりたいこととかあるの?』
「ダンスと演技が気になってるんだよね。」
『やりたいことは私も応援したいんだけどさぁ…そんな時間あるの?』
「そこなんだよねぇ。なくはないんだけど結構時間がカツカツになるから覚悟がいるんだよね。でも僕はやってみたい!頑張ってみたい!」
『なら探さないとね。』
数日後……
「ダンスレッスンきっつ!」
ボクは力尽きていた。指先すらも動かせない……。打ち上げられた魚の方が……ってなんだかんだあいつら跳ねるし元気か。いや、今そんなことはどうでもいいんだよ。大事なのは如何に今の僕が瀕死かって話。
他のレッスンも慣れてきたところだったし、二つ増やすくらいなら大丈夫だろうって高を括ってたんだけど……。レッスンが始まって十分も経たないうちにその自信が打ち砕かれたわ。当たり前といえば当たり前なんだけど……ダンスって普段全然使わない筋肉使うよね。そりゃそうなんだけどさぁ。日常生活でしたら不審者確定な動きもあるし……。
本当の問題はダンスのレッスンがスパルタだからとかそんなちゃちなことじゃない。いや、スパルタではあるんだけどさぁ。甘く見ていたんだよ、習い事を詰め込みまくることによって減る休める時間の多さを。ほんとに加減って大事だよねぇ。いや、ほんとにマジで大事。今はやるしかないからやるけど次の休みの日に習い事の日程組み直さないとな。
もうそろそろ……さす……のわたs……もげん……か……い……。
この日、碧は倒れた。
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