KISS, KISS, KISS Edit +
Christmas Tears (1)
「遊佐くん……」
今日もテレビの前を独占して、モノレールのライブ映像を再生しながら、一人で声を漏らしてしまう。
「また観てるの? それ」
後ろから、妹の
「だって、いつ見ても格好いいんだもん。遊佐くんは」
あ、また……! 今の、ちょっと左上に視線を向けるところ、最高。画面にクギ付けになったまま、嘉子に応えると。
「いいかげん、ヤバいって。お姉ちゃん」
心底、あきれたようすの嘉子。
「な、なんで?」
わたしのどこに、そんなことを嘉子に言われる理由があるのか、わからない。
「最近のお姉ちゃん、追っかけの域を超えてるよ?」
「ちょ、ちょっと」
まだ、そんなふうに思われていたとは。
「いつも言ってるじゃん! わたしと遊佐くんはね」
「だから、知ってるよ。同じ高校だったんでしょ?」
「そうだよ。それで……」
ウヨキョクセツあって、今に至っているというわけ。
「痛いってば。そういう妄想」
「違うもん」
もう何度も、説明してるのに。わたしと遊佐くんの、まるで奇跡のような愛の長い道のりを。
「誕生日だって、一人で家にいたじゃん」
「だって、三日前は……遊佐くんに、どうしても外せない撮影が入っちゃったから」
前から約束してた日だったから、断りの連絡が来たときは、わたしもショックだったんだけど。
「だからさあ」
大きくため息をつく、嘉子。
「な、何?」
「連れてきてよ、類くん。そうしたら、信じるから」
「それは……」
そこで、言葉が詰まってしまう。だって、この前 ————— 。
「ね、遊佐くん。お願いがあるの」
「あ? お願い?」
シングル曲の、ほぼ徹夜のレコーディング明け。わたしは思いきって、遊佐くんに頼んでみたんだ。
「今日ね、嘉子が出かけないで、家にいるの」
「カコ?」
コートを脱ぎながら、遊佐くんが聞き返してくる。
「わたしの妹なんだけど、わたしが遊佐くんとつき合ってるって、何回言っても信じてくれないんだよ」
「だから?」
ベッドに横になった遊佐くんが、おっくうそうな声を出す。
「その……だから、今日ちょっと、家に来てみてくれないかなあなんて」
「このあと?」
遊佐くんが、明らかに嫌そうな顔してるの、途中から気がついてはいたんだけど。
「お願い、遊佐くん。わたし、どうしても、嘉子に証明したいの。いつも妹にヤバい人扱いされてるなんて、情けなくて」
姉として、泣きたくなるよ……と、そこで。
「疲れてるんだよ」
遊佐くんに、ため息をつかれた。
「寝てないんだ。昨日」
「あ……」
そうだった。いつだったか、言ってたっけ。ただでさえ、レコーディングのときは、神経を使うって。それなのに、わたしってば。
「ごめんなさい、遊佐くん」
自分のことばっかりだった。これだから、わたしは……。
「疲れてるんだから、ちゃんと癒せよ」
まだ機嫌悪そうに、遊佐くんが言う。
「えっと、どうやって?」
思わず、ビクビクしながら、質問してみたら。
「まず、こっち来い」
少し笑った遊佐くんが、ベッドの隣のスペースを空ける。
「えっ?」
「いいから、早く」
言われるがままに遊佐くんの方へ近づいたら、腕をつかまれて、ベッドの中へ引き込まれた。そのまま、遊佐くんに強く抱きしめられる。
「あの、次は、どうしたらいい?」
遊佐くんの胸の中で、おそるおそる、聞いてみたら。
「ここにいてくれれば、それでいいから」
そう言って、わたしを熱っぽい瞳で見てくれる遊佐くんの唇が、わたしの唇をゆっくりとふさぐ。
「ひさびさに、二人っきりになれたのに。今日は、絶対に部屋から出さない」
「遊佐く……」
「もう、しゃべるな」
甘い言葉と声だけで、すでに溶けちゃいそうになっている、わたしの頭と体が、遊佐くんの指と唇に優しく触れられ、さらに —————。
「お姉ちゃん?」
「ん?」
嘉子の声で、我に返る。
「あ、そうそう! 遊佐くんは、わたしと二人でいる時間を優先したいって」
「…………」
「な、何? その顔」
完全に、信用されてない。
「わたし、出かけるから。涼真と」
もう一度、最後に大きなため息をついて、嘉子が玄関に向かってしまう。
「あ、新しい彼氏の? わたしも今日は出かけるからね。それで、弓ちゃんの家に泊めてもらうって、ちゃんと言っといてね。えっと、遊佐くんのとこじゃないから」
あわてて、嘉子に念を押そうとして、ついつい、よけいなことまで口にしてしまったんだけど。
「誰も、そんな心配してないよ。クリスマスまで家族に意味のない虚しい嘘をついて、女同士で過ごす姉に心から同情する」
「や、だから、それはね」
「じゃあね、お先に。行ってきまーす」
「あ、嘉子……!」
わたしの叫びも空しく、ドアの閉まる音がする。でも、いいの。自然と顔が緩んでくる。今日のことは、もう一ヶ月も前から、計画してたんだから。遊佐くんの部屋で、明日の夜まで、二人でゆっくり過ごすの。
遊佐くん、お昼頃に音楽雑誌のインタビューがあるらしいけど、夕方には終わって、帰ってきてくれるんだもん。この日のために考えたメニューを用意して、準備万端で遊佐くんを待ってるんだ。そう思って、楽しみにしていたんだけど……。
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