乙女ゲームの悪役令嬢が令息だった件

佐倉真稀

プロローグ


 どさりとベッドに押し倒された。押し倒したのはこの国の第二王子殿下、ジュール・マエル・フォンテーヌ。

 ふわっとドレスの裾が翻る。慌てて手を伸ばして押さえると、両肩を掴まれて仰向けにベッドに押し付けられた。

「リュイジーヌ。私の物になれ」

「まあ、私は殿下の婚約者ではありませんか。婚約を正式に結べばよろしいのではありませんか?」

「……候補のままでいいと突っぱねてると聞いたが?」

 思わず視線がそれる。肩を押さえていた手が顎とドレスに伸ばされる。吐息がかかるほど、間近で見つめられてつい頬が赤らむ。


 緩やかにカーブを描く金糸の髪。それがさらりと落ちて俺の額にかかる。やや長めのその髪は陽にあたると光輝いて後光が射すかと思うほど。

 涼やかな切れ長の目にマリンブルーの瞳。その目が俺を映す。

 頬を染めた華奢な少女。髪は黒だが、陽にあたると青みがかって見える。瞳はエメラルドグリーン。唇はピンク色で小さく、そのかんばせは美しいと言えるのかもしれない。

 俺のことでなければ。


 俺の頭の中は今パニックだ。

 剥かれたら、男なのがばれて、大変なことになると。

 いや、王と王妃は俺が男であることは知っているから候補のままにしておくよ~と言ってくださっている。

 秘密は知っている人間が少ない方がいいから、殿下には知らされていない。

 そして、殿下はどうやら、俺のことが好きなようだ。

 俺も、殿下のことは好きだ。

 女装をして女の振りをしているから、ではない。

 男として、男の殿下が好きなのだ。

 だから押し倒されても嫌悪感はないし、先に進んでもいいとさえ、思っている。

 殿下を騙しているのでなければ。


「それは……」

「男だから婚約できない?」

「!!」

「ふふ、やっと真っ直ぐ見てくれたね。リュイ」

「ど、どうして……」

「覚えてないの? だって君、出会った時上半身裸で、下着もびしょぬれで透けてたよ」

「透けてた……なにが?」

「ナニが」

「ナニ……」

「男についてるアレ」

 端正なイケメン顔で言うセリフじゃないだろ!?

「マジで!?」


 じゃあ、殿下は、ほぼ出会った時から俺が男だって知ってたっていうこと!?

 俺なにやってんだよ!? 女の子じゃアウトだろ!?

「頑張って女の子を装ってるの、とっても可愛かったんだけど、そろそろ本当の君を私の物にしたくて」

 そろりと殿下の手が動く。ドレスの裾をまくろうとしているのを、必死に止めた。

「待って、ほんとに待って!」

「待てない」

「成人まで待ってくれないと、私死んでしまうの!」

 マジで!

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