第26話 楽しかったわりに仏頂面
「下手でも失敗しても、努力する者を俺は評価する」
「こんな風に頭を撫でてもらったのも、褒められたのも……生まれて初めてです」
少し乱暴に撫でられるが、温かな手のひらが心地良い。
千歳の境遇を思い出したのだろうか、蒼士郎は「そうか」と素っ気なく呟いた。
「失敗しても構わない。後で後悔するくらいなら、今やっておけ」
俺も失敗だらけだ、と困ったように眉を下げる蒼士郎。
いつも堂々としているのに……なんだか意外で少し可愛く見えてしまい、千歳はクスリと笑った。
「いつかやりたいことが出来なくなる日が来る。笑って許されるのは、子どものうちだけだ」
「そういえば……『ハレの煉獄』に来てから、一度も子どもを見ていません」
「ここはあやかしが多く、いつ異形が出るかも分からない危険な地だからな。子が出来た者には暇を出し、三ツ島の一般街か、分家を通じて本土に移住をさせている」
次々と移住させた結果、『ハレの煉獄』には、あやかしばかりが残ってしまった。
「あやかしは長生きですから、ずっと働いてもらえますもんね」
「まぁ……そういう見方もあるな」
「ここで一番長く生きているのは、やはり御守様ですか?」
「いや、一番の古参は
だが御守様との約束があるらしく、代替わりした時のことは話してもらえないらしい。
しかし
目が覚めてこの方、随分と饒舌に話すので、もしかしたら
首を傾げる様子を見るに、本当に知らないのだろう。
死に瀕し、懐かしい霊力に変質したものの、千歳のように記憶が戻った訳ではなさそうだ。
ホッとしつつ、だが少し残念にも思いながら手習いの時間を終えると、『ハレの煉獄』の『
「いつも曇っているから、晴れて欲しいとの願いを込めて『
「それもあるな。他には?」
「え、他にもですか? ハレ……晴れ……?」
ううん何だろうと思案するが、困ったことに何も思いつかない。
「対極の意味を持つ『ハレ』と『ケ』、という言葉がある。『
古くは民俗学に由来するものらしいがな、と蒼士郎は補足する。
突然の授業開始に少々驚くが、とても興味深い。
天候を表す『晴れ』。
特別な日である、非日常を表す『
さらに清浄な状態……『
「それでは反対の『
「うん、正解だ……随分と理解が早いな」
おっと危ない、学のない子どもの設定だったなと思い出し、千歳はうっすらと冷や汗をかく。
「三つも意味があるなんて、すごいですね! 島の名前も三ツ島だし、それっぽくなって参りましたね」
「……何だその感想は」
多少無理があるが、見た目相応の感じに誤魔化せただろうか。
上手くいったようで、千歳を見つめる蒼士郎の頬が、わずかに緩んだような気がした。
気が付くと、蒼士郎の腕に巻いてあった包帯が取れている。
巻き直そうと腕を伸ばすと、危ないから触れるなと断られてしまった。
「余暇の
「私もです。今日はありがとうございました」
「……まだ終わっていない。昼と夜の分が残っている」
楽しかったわりに、残念な仏頂面。
だが
嬉しかったの、だが――。
昼食を食べたらまたここに来いと言われ、やっぱり一日三回はいくらなんでも多すぎるんじゃないかと、独り
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