第1068話 ラダリオンの意味

 なんだか簡単な話を長引かせただけなような気がするが、無事片付いたのならそれでよし。すべてはタイミングが成し起こしたこと。よかったと納得しておこう。うん。


「長老。戦いに参加できない者はここに残す。食料は置いていくからオレたちが戻るまで堪えてくれ」


 カロリーバーとスープを出して、巨大化させた。


「タダオン。何人連れていける?」


 タダオンたち以外でだ。


「三人だ」


 計八人ってことか。まあ、五十人しかいない中で八人も出せたら凄いことだろうよ。


「ここに残る男で戦える者は何人だ?」


 巨人にケンカ売るアホはいないだろうが、売りそうな魔王軍はいる。最低限、仲間を守れる者は残しておきたい。


「必要なら女も戦いに出る」


 子供は五人だから三十七人。長老なんかは戦えなさそうだし、自分たちより小さいなら相手できるだろう。が、この世界には巨人よりデカい生物がいる。巨人でも勝てない存在がいるから残すなら守る手段を考えないとダメだろうよ。


「ちょっと待ってろ」


 そう言ってホームに入った。


 玄関やガレージには誰もおらず、メイドゴーレムのリリカが掃除していた。


「リリカ、ラダリオンはいつ入った?」


 掃除を任せているが、伝言係にも使っている。駆除員の中で文字書けるのミリエルしかいないし。色磁石だけでは伝わらないこともあるからな。


「十時に入りました」


 駆除員の子孫が創っただけはある。ちゃんと時間って概念が刻まれているよ。


「十時か。じゃあ、昼には入ってくるな。オレはまた出るからラダリオンが入ってきたら外に出ないよう伝えてくれ」


「畏まりました。出ないように伝えます」


 よろしくと返事してまた外に出た。


「長老、タダオンたちも聞いてくれ。伝えたいことがある」


 主要なメンバーを集めてもらった。


「女神リミット様よりマーダ族は光の御子を捜して放浪していると聞いた。だが、本当は女神セフティーは駆除員に協力しろと言ったようだ」


 長老はリミット様の声を聞いたので、オレが光の御子のことを口にしても驚きはなく、タダオンたちも少し驚いたていどだった。


「リミット様から光の御子がオレのところにいることは聞いたか?」


「……聞きました……」


 でも、タダオンたちには言ってない、か。タダオンたちも聞いてないようで心底驚いていた。


「族──長老、おれたちに関係あるのか?」


 長老が口にできないことでなにかを察したタダオン。賢い男だ。


「……ラダリオンだ……」


「ラダリオン? マグニスの子のことか? しかし、あの子は……」


「そうだ。マーダ族が捨てた子だ。捨てた直後くらいにオレはラダリオンと出会い、オレの家族となった」


「だからか。だからお前はおれたちに近づいたのか?」


「別にマーダ族を恨んでのことじゃない。ラダリオンを捨ててくれたお陰でオレはかけがえのない家族を得られた。ラダリオンがいなければオレはこうして生きていなかっただろう。だからお前たちには感謝しかない。その恩を返すために近づいたんだ。謂わば、マーダ族はオレの命の恩人。ラダリオンを捨てたことを気に病まないようしたかったんだ」


 薄情だなんて思わない。口にもできない。ラダリオンとの出会いがなければオレは死んでいた。非難することなんてできるわけもないさ。


「それに、ラダリオンが生きていることを知り、返せと言われるのが怖かった。ラダリオンがいないとオレは生きていけないからな」


 なんかちょっと微妙な言い方だが、ラダリオンがいないと生きていけないことに違いはない。なので、訂正する気もない。


「……そうか……」


 そう返すのがやっとって感じだった。


「ラダリオンはもうマーダ族に戻ることはない。両親のことも気にもしていない。女神に選ばれた駆除員としてゴブリンを駆除していきていく。それはラダリオンが自分で決めたことだ。それは嫌でも理解してもらうぞ」


 もうラダリオンの中にマーダ族とかはない。駆除員として誇りを持っているからな。


 ……そんな誇り、持つ必要もないんだけどな……。 


「そう言えば、ラダリオンって名前、なにか意味や理由があるのか?」


 あたしはラダリオン。タカトの槍と言っている。マーダ族的にどんな意味や理由があるんだ?


「マーダ族の女の名前には魔法の言葉が含まれています。ラダリオンは、不動の心という魔法が籠められています」


 不動の心?


「揺るぎない心とも言います」


 た、確かにラダリオンは揺るがない意志みたいなものを持っていたな。


「だからか。だからわたしはラダリオン。オレの槍と言っていたのか」


 揺るがない槍としてオレの前に立つ。それがラダリオンの誇りだったんだな……。


「……ラダリオンは、タカト様の槍となっていましたか?」


「なっていたよ。常にオレの前に立ち、どんな敵にも怯むことはなかった。オレの槍となって敵を屠っていたよ」


「……そうですか。我が生きた意味はあったのですね……」


 長老も自分たちの生き方に疑問を持っていたんだろうな。それでもダメ女神の呪いにより辞めるに辞められなかった。あのクソはどれだけの命を踏みにじれば自分の愚かさに気がつくんだか。いつか超新星爆発に巻き込まれて宇宙のゴミとなりやがれ。

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