廃墟

 京弥は玲奈と一緒に霊が出るという噂の廃墟に来ていた。

「勝手に入っていいの?」

 玲奈が訊いてくる。

「大丈夫。ちゃんと管理者に許可を取ったから」

「よく許可が下りたね。何て言ったの?」

「霊を撮影させてくださいって。それで一発オーケーだよ」

「物好きがいるんだね」

 京弥は朽ちかけた建物の中に足を踏み入れる。物が散乱し、ところどころ天井は崩れ、床も抜けそうだ。

「19Hzヘルツって知ってる?」

 京弥は進みながら玲奈に話しかける。

「人間の耳では聞き取ることができない低周波音なんだけど。体には実際に影響があるんだ」

「霊が見える周波数ってやつでしょ」

「なんだ知ってたのか」

「私のことを19Hzって呼ぶ気?」

「そ、そんなつもりじゃないよ」

 京弥はライトで照らしながら廃墟の中をゆっくりと進む。

「磁場検知器を使うか」

「ねえそこ」

「えっ?」

 突然玲奈が京弥の前方を指差した。

「なに?」

「そっちに動いていった」

「えっ、何が? ネズミ?」

「違う。彼女」

「彼女?」

「楽しそう」

 京弥は玲奈が見ているほうを見るが、何も感じることができない。このもどかしさよ。

「なんだろ」

 京弥は玲奈が言ったほうに進んでいく。朽ちて穴が開いている部屋の扉があった。

 そしてその声が聞こえた。少し陽気な響きを持って。


『今隙間からあなたを見ています』

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19Hz -霊と話したい彼と視える彼女- さかたいった @chocoblack

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