第3話 いざ名乗りの第一歩



アウレリオは越えなければいけない相手だ。

いつでも目の前に立ちはだかり目指す目標を阻む。


俺にとってはそんな存在だ……お互いにそんな存在のはずなんだが。




「もう私はキミを抱きしめてしまったんだ。その感触を知って、いまさら離れるなんて無理な話だね…ふふふ」


アウレリオの甘いささやきが耳元に触れる。


「だからって馬車の中でこんな密着する必要があるのか?」

「どこでだってする必要があるさ」

「頼む、少しでいいから離れてくれ」

「……」


また、聞こえないフリをして体を密着させるのは、

黄金の国が誇る[太陽印]を持つ勇者。


◇     ◇     ◇


現在は彼女の手配した馬車に乗り出国、


「名を挙げるにはもってこい、なところがあるんだ」


と言われ移動中だ。


この馬車は最新技術を詰め込んだなんとも高価なモノのようで、

6人分の座席と荷物を置けるほど頑丈性を持つ。そして彼女の私物らしい。


曰く、


「キミと二人っきりのパーティーとなって旅に出るときに使おうと思っていたんだ」


とのことだ。


「バレないか」


と問えば、


「最新技術ってのはね、こんなことも出来るんだよ」


ボタンを一つ押せば、


──インビジブル・カーテン起動──


始動音とともに見た目が質素な見た目の馬車に早変わり。


「すごいだろ」

「確かにな……ミラーテックス社仕様のモノか?」

「さあ、私は希望を言っただけだから」

「ボンボンは羨ましいな」

「だろ……嫁いでくれればキミの思うままに、金も、物も、私も、使いたい放題さ」

「嬉しすぎて涙も出ねぇよ」

「うれしいなら出して欲しいな、そうじゃないと悲しくて私が泣いてしまいそうだ」


俺の太ももの上に腰を落ち着かせ、

正面から向き合う体勢を取っているアウレリオ。


腰に手を回し顔を胸にうずめてくる。


「……抱き着く理由が欲しいだけじゃねぇのか?」

「バレたか……ふふ」


◇     ◇     ◇




──目的地、到着しm……プシュー


「何してんだ」


音声発生器を手刀でたたき割るアウレリオ。


「手が滑っただけだよ…っさ、もう少しこのままでいようよ」

「いや”到着”ッつてただろ」

「嫌だ」

「……」

「っあ」


”淵渡り”の力を使って彼女の手から逃れ馬車を出る。


「いじわる」


アウレリオも馬車から降りてきた。


「ここは?」

「”破天の国”さ」

「なるほど、アルテミス教団にとっちゃ悪名高い王国か」

「ああ、最近じゃ良くない噂も立っているんだよ」

「『かの国には悪魔が棲んでる』だっけか」

「そうだよ、怖いよね…だからうd──」

「やめてくれ」


ローガンはさっさと歩き出す。


「もう……焦らすのもうまいなぁ」


アウレリオの呟いた言葉は前を行く青年には聞こえなかった。


◇     ◇     ◇


馬車はゴーレム馬を収納し、

折りたたまれアタッシュケースに変形した。


「うん、しょっと」


アウレリオは軽々と持つ。


「すげぇな……最新技術」

「うんうん。お小遣い6か月分払った甲斐があったよ」

「ボンボンめ」

「その気になったかな?」

「冗談だろ」

「ぜんぜん!」

「……そうかい」


馬車から出た先には、

外敵から進入を防ぐ大きな石壁と開かれた門があった。


「いらっしゃ~い★」


門をくぐる俺たちを迎えてくれたのは、

肌面積をギリギリまで攻めたほぼ裸体のような服装の女性。


門の中はとても派手に飾られた街が広がっていた。

行く人々はその光に当てられたように引き寄せられていく。


「ギンギラギンだね、眼がチカチカしちゃうよ」


アウレリオが後ろで感想を述べる。


「堕落で幸運なハッピーな街、ダラッキーへようこそ!あたしはチュース、そこのかっこいいお兄さんの名前は?」


通り過ぎる二人。


「そんな街あったか?」

「いやなかったよ…とりあえず情報収集する?」

「そうだな」

「そんなあなたたちに朗報です★」


立ち塞がるお姉さん、またも通り過ぎる二人。


「……」

「ち、ちょ、ちょ、ひっどーい!お姉さんを無視して言っちゃダーメ★」

「……」

「うお!マジですか!無視ですか!でもお姉さんはめげないわ★」


めげないお姉さんを横にアウレリオが口を開く。


「ローガン」

「なんだ?」

「この淫魔サキュパス斬っていいかな?」

「!」

「ダメだ」

「お、おにいさん★」


アウレリオに殺意を向けられた淫魔サキュパスの女性は、

驚きの表情を浮かべたあと、ローガンの言葉に感嘆の表情へと変化した。


「俺が斬る」

「おにいざん!」


絶望で悲壮な顔をした淫魔サキュパスのお姉さん。


「じゅえいざーん!助けてぇー!」


『守衛さん!』と泣き揺れる淫魔サキュパス

その叫びが響き夜の街に潜む陰からぬるぬると動く影が現れた。


ローガンたちの身長を優に超える巨大な鬼となる。


「ハガシー」

「ムキダシー」

「ロクデナシー」

「「「三人揃って!」」」

「悪徳客ヒキハガスンジャー!」


大きな鬼が思い思いのポーズをとる。

ピクピクと膨れ上がった筋肉が動きアピールしているようであった。


「いいね」


舌なめずりするローガン。

その表情を心のアルバムに保存するアウレリオ。


「てぇだすなよ」

「ああ、待ってるよ」


前に出るローガンは背負った剣を抜き出す。


「開名:淵渡り」


スゥっと消える青年の姿に鬼たちが驚く。


「後ろ!」


淫魔の声に反応し背後に金棒を振る赤い鬼。


「ッち!」


その攻撃を防ぐローガン。


淵渡りには弱点がある。

それは複数を相手にした時に能力が維持し辛くなることだ。


対象の死角に自分の存在を入り込ませるこの能力は、

相手が増えるほどにその領域が小さくなる。


つまり今回の場合は、

対象となっていなかった淫魔に死角領域を看破された形であった。


「ちょっと」

「ん?」


淫魔は声を掛けられ返事をする。


「ローガンの邪魔だよ」

「眼ぎゃああー」


威光の光線で視界が白む。


「おい!邪魔すんじゃねぇよ」

「ごめんごめん、漏れちゃっただけだよ」

「そんな年じゃねぇだろ」

「ヘンタイさん?」

「そういう意味じゃねぇ」


大きな衝撃波を纏い放たれた赤く塗られた金棒が迫る。


「チュースたんに、何するぞぉぉおお!」


赤鬼の叫び。


「なら狙うのは俺じゃねぇだろ」


ローガンはそういいつつも高揚していた。


──陰陽流:剣術九番


投斬挫折とうざんざせつ


膝から下をきれいに横の両断された赤鬼。


「痛いですぞぉおお!」

「「あにじゃ!」」


青と黄色が叫び赤鬼に駆け寄る。


「おのれ許すまじ、拙者いくですぞぉ!」


青鬼が怒り、二つの青い金棒を持ち構える。


「膝を折られたいなら来いよ」


手の平を上に向け指を、クイクイ、と掛かって来いと挑発するローガン。


「うッ!?」


その言葉に怖気づく青鬼。


「どうしたあにじゃ!これはもしや不可視のこうげき!」


勘違いする黄色鬼。


「まあ、三人まとめて膝斬って終わらせようとは思ってねえ。それが目的じゃ無いしな……」


ローガンは剣を納める。


「む!?よもや青兄上の勝ちですぞぉおお!」

「ふ?ふ、ふはは、やはり時代は拙者であるか!ひれ伏せにんげn──」


勝手に盛り上がる二体の鬼。

ここでおぞましい冷気を感じさせる発気が放たれる。


「開名は月の位相」


体の中で今か今かとその時を待っていた、

うずく”魔王”の力をローガンは呼び出したのだ。


処刑人の剣エグゼキューショナーソード


ローガンの影が伸び現れた剣を握る。


罪人に罰を与える剣:処刑人の剣エグゼキューショナーソード


「っぱ」


縦に両断されたはずの青鬼は生きている。

この月の位相で現れた剣には一つの事象が付与されていた。


事象名は猶予なき選択。

致命を一撃を受けた対象に与える二つの選択。


斬られた対象は二つの選択肢を選ぶことができる。


罪:斬られた傷を受け入れる。

罰:傷を受けない代わりにペナルティを受ける。


命の危機に本能的に”罰”を選ぶは生物の性。

例外なく青鬼も選択した。



──暗器解放:獣の剣ソードブレイカー



を与える剣。


処刑人の剣エグゼキューショナーソードは、

獣の本能を持つ牙を片刃剣に変貌したのである。


「ひっ!」


跳躍したローガンは剣を振り上げる。

その纏う恐ろしい発気を前にして怯え金棒を盾にする青鬼。


高く跳ね上がる火花を散らし衝突しあう武器。

派手な音を立て爆散したのは蛍光の青い金棒だった。


◇     ◇     ◇




「す、すみませんでしたぁー!」


すっかり足の生えた赤鬼を筆頭に三体と一人の土下座。


「こいつに食われたくなけりゃよ、洗いざらい喋ってもらうぜ」


目の前に口を開いた獣の剣ソードブレイカー


「(ゴクッ!)」

「人間の街にお前ら”魔人”がいることをよ」

「お、仰せのままにぃー!」


三体と一人の一斉の低頭。


事情が語られる。

かつて人類の覇権を握った”破天の国”の実情を。


──────────────────────


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勇者を目指す魔王の青年と、その青年に愛を囁く勇者の少女の話です。 新山田 @newyamada

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