第74話 蛇は大規模戦闘で前に出る

 その後も無事にボスモンスターラッシュは続き、ユーラリングはそれぞれ1ビンゴずつでビンゴカードを3枚交換していた。どうせ数字は溜まるのだから、それならビンゴ数を稼いだ方が良いという判断だ。

 一度だけユーラリングが守る簡易拠点が危ない時もあったのだが、その時は何故か全方向からペースや順番を考えない集中砲火が叩き込まれてすぐに沈むことになった。ちなみに、開いた数字は「99」だ。

 数字の中で最も大きいものが出てきたのだから大丈夫だろう、と思いつつ、ユーラリングは出てきた数字を数える。結構スカもあったので今相手をしているボスモンスターで50体目の筈だ。


「となると、何か来るな」

『もはや予知』

「ヴィッツ。備えろ」


 今のところ通常装備、というか、ユーラリングが今日の昼に作ったお試し装備のままで戦えているイーヒヴィッツに声をかける。距離がある為普通は届きそうもないが、まぁそこは“魔王”の『配下』特権だ。

 顔から体格までを隠すフルプレート姿が、構えを変える。今までは最速で最小の一撃を叩き込んで、すぐに離脱する構えだった。それが、何が来ても対応できるように腰を落とす。

 当然それは周囲にも知られ、楽勝ムードだった戦線に緊張が走った。司令官の“魔王”がアイテムや魔力の確認を呼びかけ、それに応じて外周へ声をかけたり人員を交代したりし始めた。が、それが終わり切らないうちに、ボスモンスターの体力が尽きる。現れた数字は「56」。ユーラリングのビンゴカードに該当は無い。


〈ボーナスッ! チャーンスッ!!〉


 カードの番号を確認したり、準備を整え終わるその前に。再び現れる筈のビンゴマシーンの代わりに、使徒の声が降ってきた。それに対する反応は、大半がぎょっとした目を向け、一部が頭を抱え、あるいはげんなりとした顔になるというものだ。


〈えー最初に説明し忘れてました! ごめんなさーい! 「マジックビンゴ」の終了はー、時間です! だから出来るだけ早く倒した方がビンゴの可能性が上がるって訳ですねーっ!〉

「ごめんなさいではないが?」

〈けどそれだと回復役や補助役、司令官に生産者に防衛役と言った方が不利になるのでー、数字を開ける権利を「何らかの方法で戦闘に関わる」ことに変更しまーすっ!〉

「いや、遅いが?」

〈それではドキドキワクワク! ボーナスチャンスの説明を始めまーすっ!〉


 ユーラリングのツッコミなど当然届いておらず、使徒の賑やかな声の説明は続く。


〈ここから10分間、「ボスモンスターが召喚され続け」まーすっ! もちろん倒せば倒せただけ数字を開けることが出来ますからねーっ!〉

「あらら。リングちゃん、表に出れる?」

「無論だ。連携は?」

〈10分以内に倒せなかったボスモンスターはー、撤収です! その後はー、また50体倒すまで普通のビンゴが続きまーす!〉

「まぁ、大丈夫じゃないかしら。それぐらいは見えるでしょうし、正直、オーバーキル推奨よ?」

「分かった。ティーナ!」

「委細承知っ!」

〈それではっ! カウントダウン開始しまーすっ!〉


 説明の頭を聞くなり屋根から飛び降りたサタニスが呼びかける。それに応じ、ユーラリングは重量無効化ポーションを飲んで効果時間を延長しつつ、簡易拠点の外に出てきた。

 それに応じて、簡易拠点の目の前に布陣していた部隊が左右に割れる。それぞれの護衛がそばに戻ってきて、ユーラリングはサタニスから送られたパーティ申請を受諾した。その上で背後に声をかけ、それに応じて武装(ユーラリング製)を整えたティーナが隣に並ぶ。


〈10!〉

「あと2人はどうしようかしら?」

「では、某らが入ろう」

「あらマルちゃん」

「ちゃん付けするでない。マールである」

〈9!〉

「ははは。マール卿からは逃げられなかったよ、我らが姫」

「ジェモか。まぁとりあえず差し当たり10分だけ頑張れ」

〈8!〉


 そこに、黒い鳥の頭と翼を持つ魔族と、彼に引きずられる形でジェモがやってきた。そのままさくさくとパーティに加入する。

 パーティに参加したプレイヤー4人全員が“魔王”という超豪華パーティのリーダーはサタニスだ。マールは黒く大きな刀を構え、ジェモはやれやれという顔で扇を取り出した。


〈7!〉

「さてそれじゃぁ、各々最大火力を叩き込めるだけ叩き込み続けるってことで……あら?」

「どうか致したか?」

〈6!〉

「リンク申請が来てるわね。あら楽しい。今展開してる全員の上に私達が来るらしいわよ?」

「妥当であろう。どれほどの魅了スキルを持っておる?」

〈5!〉

「リンク……あぁ、レイド同士を繋げるやつか。支援バフの識別が楽になるな」

「我らが姫はマイペースだね。まぁ、そこがいいのだけど」

〈4!〉

「はい、受諾っと。それじゃあ、ダメージレースの時間よ~!」

「先に支援バフをかけるぞ。火力特化でいいか」

〈3!〉

「速度もあらば。リキャスト時間に影響が出るのでな」

「なるほど。分かった」

〈2!〉

「周りも大技を準備しだしたみたいだよ。はは、さて、どれだけ通るかな?」

「さてな。しかし、後れを取る訳にはいくまいよ」

〈1!〉


 ジャキジャキジャキッ、と、得物を構える音が聞こえるようだった。剣が刃先を揃え、杖が掲げられ、長物がぐるりと中央の空間を囲む。

 過剰火力による袋叩き。それでもまだ足りないような気がするのは、相手が強弱混合とは言え、ボスモンスターの群れであるからだろう。

 ユーラリングだけでなく、他の連結部隊レイドや周囲からも支援バフが飛んできて、ごっそりとステータスが底上げされたのと、ほぼ同時に


〈0!!〉


 ドン! と、広場中央で、光が爆発した。

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