第73話 蛇は大規模戦闘の報酬を見る
公式イベント「マジックビンゴ」が始まり、約2時間が経過した。
「……あれか? ボスのレベルが数字になってるとか、そういう事か?」
最初の青い竜が倒された時の数字は「85」、次に出てきた巨人は「31」、秒殺された大きいだけの蠍は「3」、カテゴリ的には青い竜と同じ『聖神の神獣』である白い鯨は「89」というのを見て、ビンゴカードに2つ穴を追加したユーラリングは、仮設拠点の防衛に専念しながらそう呟いた。
魔物側の状態としてはギリギリ半壊を免れているというところだろうか。ビンゴマシーンが回っている間は参加を受付しているようで、時間と共に戦う人数は増えつつある。
「まぁどちらかというと、人数が居ることが大前提だがな……」
サタニスは仮設拠点の屋根の上だ。時々飛んでくる流れ弾があらぬ方向にすっ飛んでいくので、あの鞭で弾き飛ばしているのだろう。
なお着替えた服装は、鞭と同じ毒々しいほどに鮮やかな赤の、プリンセスラインと呼ばれる種類のドレスだった。形としてはウェディングドレスによく使われるもの、と言えばわかりやすいだろう。
しかし上半身は袖が無く、肩も襟ぐりも背中も大きく露出している。長い髪は赤いリボンを絡みつかせるようにしてまとめ(?)られていて、肌と髪の白さが際立っていた。……まぁ、控えめに言って血の貴婦人めいた装いだ。
「そろそろ、遊び惚けていた他の“魔王”も参戦を考え出したようだし」
そもそも前線に立つ適性のないユーラリングや、真面目に攻撃を始めたらほとんどの相手が1コンボで消し飛ぶサタニスはともかく、どうなるかと様子見をしていた“魔王”達はその重い腰を上げ始めたらしいと察したユーラリング。
というのも、ある一時からあからさまに動きが変わったのだ。大雑把に防御と攻撃を交代するだけでもギクシャクしていたのが、防御する部分と攻撃する部分に分かれ、支援や回復のサイクルが回り始めた。
ユーラリングはセーフティエリアの中にいて、その防御に専念している為分からないが、恐らく
「……しかし、まぁ……よくこの人数が動いて、エリア分け等がなされないものだ」
祭りに参加している全体数から考えれば少ないが、通常
ちなみにここまでの戦闘で特に素材や経験値が入ったりはしていない。……もし入ったらボス素材の価格が大変なことになってしまうか。と思い直すユーラリング。
次のカラーボールが転がり出てビンゴマシーンが消え、召喚されたのは大きな熊だった。なんか体の各所に鎧染みた甲殻を付けている。が、1秒もなく甲殻部分に刺さった不死者及びサタニスの護衛である推定堕天使の攻撃で削れた体力を見て、雑魚()の部類だなと判断した。
「あー、まぁ確かにこれぐらいは無いとやってられないか」
なので、先にビンゴで手に入る景品の確認に移った。そもそもビンゴでもらえる景品には累計ビンゴ数と同時ビンゴ数で分かれていて、どちらも数が増える程良い景品となっていく。
のが基本なのだが、恐らく一番小さい景品である累計ビンゴ数1の景品で「エリアボスレアドロップランダムボックス」。つまり、エリアボスに分類されるモンスターのレアドロップがランダムで手に入る、という事だ。
これが、累計ビンゴ数が10になると「東北大陸プチレアドロップ詰め合わせ」とかになる。VRMMO『HERO’s&SATAN’s』での世界とは、4つの大陸と1塊の群島及び底の見えない海の滝からなっているので、その大陸のうち1つのプチレアが一度に手に入る、という事になる。
「……うん? という事は、今回イベントアイテムは無い……?」
再び回り始めたビンゴマシーンをスルーしつつユーラリングは零し、首を傾げる。だとすればいつ内乱状態になってもおかしくなさそうなものだが……。と不吉なことを呟きつつ、景品をよく見て回ってみた。
25マスのビンゴカードで成立するビンゴ数は、1,2,3,4,5,6,7,8,10,12の10パターンだ。だから同時ビンゴ数の景品は10段階で分けられている訳だが、その中の4ビンゴ景品に「イベントボックス」というものが。8ビンゴのところに「高級イベントボックス」というものがあった。
イベントってついてるしこれがそうなんだろうなぁと思いつつもう一度ルールを確認するユーラリング。その目と手が、ある一点で止まった。
「……なるほど。この腕輪はそういう事か」
『?』
自動装着された黒い腕輪の機能は、これまでに出た数字の履歴表示だ。より正確なことを言えば、これまでに穴をあける権利を得た数字の一覧だ。そしてビンゴカードは入れ替えることが可能。
次に召喚されたボスモンスターに一瞬だけ目を向けて、拠点破壊能力は無いと判断してすぐに目を戻すユーラリング。ルールの端に書かれた腕輪の説明。よく見ないと分からないその文章に注釈がついていた。
『※一度腕輪に登録された数字は次のビンゴカードでも使うことが出来ます』
という事は、最初はともかく後半になれば連続でビンゴカードの交換も可能という事だ。……このルールに気付きさえすれば。
「それでわざわざ自分の手で開けろということか」
『戦闘しながら』
「戦闘しながらだな」
『うーんえげつない……』
しかもよく読むと、一度「メインイベント会場」から出ると数字の権利は既に開けた穴を除き、そこでリセットされるらしい。死に戻りはランダムで数字の権利が消滅。それらが一見するだけでは目に入らない部分に書かれているという事も併せて、大変いじわるなルールだ。
なお同時ビンゴ数の景品は、現在のビンゴ数より下の景品が全て手に入る。つまり全てのマスが開いた状態である12ビンゴであれば、イベントアイテムを含めた全ての景品が手に入るという事だ。
『それ、レアドロップとかめっちゃダブりません?』
「ダブっても良いようにレアドロップの内からランダムとかなんだろう。それに、同時ビンゴの方に詰め合わせは無い」
『なるほど。一応大盤振る舞いの類ではあるんですね。一応』
倒されたボスモンスターから出てきた数字を見て、ビンゴカードにまた1つ穴を開けつつユーラリングはヒュドラに答える。ヒュドラは首を半分以上傾げながらも、一応納得したようだ。
「カラーボール、というか、ビンゴマシーンの中身も100の倍は少なくともあったしな。途中で抜けても、一応取り返しはつくようになっているのだろう」
『つまり、数字が全部揃ったら12ビンゴが連続し続けるって事ですね?』
「理論上というか、今ここに書いてあるルールにある分だとそうだが……まぁ、何らかの理由なり仕掛けなりで、中断するように持っていかれるだろうな」
『まぁそこまで甘くはありませんよねー』
そんな会話をしつつも次に備えるユーラリングとヒュドラ。カラーボールが吐き出され、次に現れたのは巨大な姿だった。マンモスのように長い毛を持つ、大猪。その目は赤く光り、長大な牙には氷が張り付いて、しかもよく研がれている。
うわ。という顔をして拠点に張った防御を張り直すユーラリング。だけでなく、次々と防御を追加していった。ギラリ、とこちらを睨んでいるのは気のせいではないだろう。
「しかし、なんだこの、拠点破壊特性持ちの出現率は……っ!」
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