第69話 蛇は箱を開けてみる

 ユーラリングはその後、「特別なプレゼントボックス」とやらを探して、そのうちのいくつかを回収した。金色の豪華なリボンが巻かれていたので大変分かりやすかった。

 それからしばらくして、恐らく最後のプレゼントボックスが回収されたタイミングでメールが届いた。一斉送信のそれは運営からで、『プレゼントボックスの開封はこちらから』という文章と、「プレゼント開封机」というアイテムがくっついている。

 ユーラリングが拠点内の自分のスペースに戻って実体化してみると、出てきたのは白い布のかかった長机だった。よく何らかの会場の受付にあるやつだ。


「えーと。ここの机の前に立つか座るかしてプレゼントボックスを選択すると、開封できる。その際、大きさは持ちやすい範囲に変更されて取り出される、か。それ以外の場所だと取り出せるが開けられず、祭りの終了時に削除されるので注意と。……何? この机自体が一度取り出して一定時間以上離れると消えるだと? しかも取り出してからは動かせない?」

『あー……他人の机を使うのもありとは書いてますが、その場合はプレゼントボックスを何個か、使わせてもらう相手に渡さないとダメみたいですね』

「とんだ罠もあったものだ」


 とりあえずユーラリングはもう取り出してしまったので、大人しく開封作業に入った。なお「手動で開ける」「自動で開ける」の2つのモードがあったが、「プレゼントボックス(小)」で試したところ、手動の方は箱とリボンが手に入ったので、ユーラリングはちまちまと1つずつ箱を開けていっている。

 なお中身は手に入れた時に見えていた大きさの物が入っているようで、直接アイテムボックスに投入されるようだ。閉じて開けて、という操作をせずとも自動更新されるようなので、視界の端にアイテムボックスを開きっぱなしにして開封作業を続ける。


「小さいものはまぁ良くある消耗品と……あぁ、やっぱりあったか」

『ありましたね。例の良く分からないアイテム。……なんか、全体的にこう、動力的なものが多くありません?』

「取りそびれが無くて何よりだ。しかし、消耗品の方もどちらかというと素材の方が多いあたりに恣意的なものを感じる」


 一番数の多い小サイズを開け進めつつそんな会話。ハイライガー姉妹はしばらく物珍し気にユーラリングの手元を見ていたが、飽きたのかその内ユーラリングが預けた生き物の世話に戻ったようだ。

 そのまま開け進めていくと、中サイズは小サイズの上位互換、大サイズになるとブラックボックス的な機構のようなものが混ざる設備・生産道具の強化パーツが出てきて、特大サイズは、『ダンジョン』に据え置けるタイプの設備系アイテムが出てきた。


「……? どこかで見たな?」

我があるじマイロード、うちの第7層です』

「あぁ、あそこか」


 中には貴重極まる、低ランクモンスターの無限召喚装置もあったのだが……ユーラリングはこの反応である。あそこはアンデッド限定であれば中の下を無限召喚できる装置があるので、下位互換に見えてしまったのだろう。間違ってはいないが、違う、そうじゃない。と、ヒュドラは思った。

 ちなみに、ユーラリングが一番喜んだのは「迷宮/砦専用施設:鉱脈」であった。……誤字ではない。高価に属する課金施設の1つで、採掘スキルレベルに見合った量の鉱石が掘り出せる、という、ゲーム的な採掘ポイントだ。ちなみに類似の施設として、「:群生地」や「:桟橋」がある。

 シズノメに連絡してオークションを確認しようとしたところで、ギリギリ課金アイテムはプレイヤー同士での受け渡しも売り買いも禁止だったことを思い出したユーラリング(の中の人)。特大を頑張って手に入れてこれが出た一般魔物は、倉庫の肥やしが増えただけである。泣いていい。


「あー、やはりか。普通の素材ではないなと思ってはいたが」

『うん? と言いますtうわ。うわぁ』


 そして特別なプレゼントボックスの開封にあたり、ユーラリングはまずリボンの素材を確認した。その声に反応して一緒に詳細を見たヒュドラはドン引きしている。

 というのも……リボンの名前が「魔星光のリボン」となっていて、品質は神器。つまり、プレイヤーでは作成不可能なアイテムだったのだ。もちろん性能もぶっ飛んでいる。

 一応加工は可能なので(ただし必要なスキルレベル&プレイヤースキルはお察し)、都合6本のリボンをどう加工しようかなと楽しみが増えたユーラリング。さてそれはともかく、中身に意識を戻すと


「まぁ、包みにあんなものを使うぐらいだしなぁ」

『まさしく大盤振る舞いってやつですかねー』


 まぁ大体予想通りというか、その全てが「品質:神器」だった。用途不明、推定新月の日のイベントで使うだろうアイテムが2個、特殊な宝石が3個、謎のオーブらしきアイテムが1個だ。

 特殊な宝石は素材として扱うのでスルー。謎のオーブらしきアイテムは、と調べると、どうやらオーブシリーズの品質を後天的に変更できるアイテムのようだ。つまり、ユーラリングが装備しているオーブに使えば、品質が神器に変更される。

 もちろん迷う必要などないのでさくっとオーブに使用するユーラリング。ぼんやりとした光を纏い、高速回転したオーブは…………何だか、オーロラが浮かぶ夜空を切り取ったような色合いになった。とりあえず性能を確認してみると。


「名称が「宵影のオーブ」から「夜天虹のオーブ」に変化。ステータスの上昇幅と耐性も上昇、特殊再生能力が3つから7つに。上限の上昇幅も上がって……スキルも増えたのか」

『えーと、『気品』『妖艶』『カリスマ』『愛嬌』『王のオーラ』『庇護愛』…………うん、流石我があるじマイロード、違和感が欠片もない』

「そうか?」

『そうです』

「……そうか。しかし、何故こうも魅了系のスキルばかりが増えるのか」


 解せぬ。と呟くユーラリングだが、ヒュドラは慎ましく沈黙を維持した。たぶんシズノメが居ても沈黙を選んだだろう。実に空気を読んだスキル構成だとしか言えない。

 もちろん全部合わせて取ろうと思ったら、難しいとかいう次元では無いので、いつも通りと言えばいつも通りである。


「リングちゃん! ちょっといいかしら!」

「作成依頼なら依頼票を勝ち取ってからだ」

「あぁん、話を切り出す前に断られちゃったぁ」

「特別なプレゼントボックスの事だろうが?」

「まぁリングちゃんも手に入れてるならわかって当然ね。……あら、なぁにそのリボン」

「もう開けてしまったのだろうから一言しか言えないが、残念だったな」

「…………あっ、もしかして手動で開けるってそんな特典があったの? あぁ~、流石に勿体ないことしちゃったわ~」


 同じくプレゼントボックスの開封を終え、数が数だけに「自動で開ける」を選んだだろうサタニスが珍しく残念そうにしていたが、これはどちらかというとユーラリングが珍しいケースだろう。

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