第68話 蛇は大砲を警戒する
『
「どうだった?」
『草地は草地でしたけど、間隔が広かったですね。間にもう一門ずつ出てきても余裕で動けそうでした』
「そうか。ご苦労」
ロープによる回収がそこそこ捗っている間に、ヒュドラが戻ってきた。小声での内容をユーラリングはねぎらい、不死者にもロープを渡す。
プレゼントボックスを受け取り、明かりを外して地面に触れさせつつ、しばらくユーラリングは考える。
「……ヒュドラ」
『はい』
「3と4、どっちがキリがいいと思う?」
『んー、4ですかねぇ。カウントダウンでも3から数えて0で決着って事は、数としては4つ数えてますし』
「道理だな。……頭が痛い」
当然、頭が痛い原因は、この後「どこに大砲が増えるか」が想像できてしまったからだ。同時に眉間にしわが寄る。面倒くさい、という内心を隠していない。
ふむ? とヒュドラも考える。大砲の位置を聞いてからの数のキリの良さ。つまり、大砲の出現もとい追加の事だと考えると、2回目は草地の、今出てきた大砲の間だろう。
では3回目は? 流石に建物が建っている下から出てくる事はないだろうから、その内側の広場だろう。しかし同じ数だけの追加があるとして、流石にあそこまで大きな間隔は開けられない。となると、問題なのは4回目だが。
『…………えぇー。え、そんなのアリなんです?』
「どこそこで見守るの一言が無かっただろう」
『わぁい筋が通っちゃったー。……特大の箱、早めに下ろしといたほうがいいですねこれは』
「どうせ追加されるがな。……まぁ後半は「他」に任せるか」
『某“魔王”ですね、分かります』
ユーラリングと同じ結論に至り、同じく声を引きつらせるヒュドラ。一足早く切り替えていたユーラリングは、あっさりと後半の特大サイズのプレゼントボックスの入手を諦めた。
理由は1つ。面倒くさいからだ。色々と。
「フィーナ。ティーナ」
「はい、なんでしょう?」
「何か?」
「そろそろ「無重力のポーション」での回収に移るぞ。早めにスパートをかけるから、出来るだけ大きいものを優先して集めてくれ」
「分かりました!」
「承知した!」
ティーナの言葉遣いがいつの間にか迷子になっていたが、ユーラリングはスルー。原因
ほいほい、と「無重力のポーション」を2人に渡し、サタニスが中及び大サイズの箱を1000個集めるまでに、出来るだけ特大サイズの箱を集めてしまう為に、空へ向かったのだった。
そして時間は経過し、2回目及び3回目の大砲の出現位置は予想通りだった。しいて言えば、3回目の出現とプレゼントボックスの追加、もとい射出の衝撃波が思ったより強く、簡易拠点にダメージが入ったことが想定外だっただろうか。
ユーラリングはそれなりにプレゼントボックスを回収し、3回目の追加後、地上から鉤付きロープで回収できる分を回収したら一応の目標を達成したと定義したようだ。その頃には周囲の魔物も「無重力のポーション」だけでなく鉤付きロープも真似していたので、入れ食いとはいかなくなっていたのもある。
サタニスも特大サイズのプレゼントボックスの回収に取り掛かっているのを確認したし、あと心配事があるとすれば、と、1回目の追加直前と同じくらい光がまばらになった空を見上げるユーラリング。
「……あるかどうかは別として、次だな……」
『次ですね……』
同じ予想を組み立てていたヒュドラも若干警戒気味だ。ハイライガー姉妹はお互いに顔を見合わせ、首を傾げている。
ユーラリングはそんな姉妹を所属同盟の簡易拠点に戻し、自分も屋根の下に戻った。いつもの席で、しかし警戒は切らさずに見える範囲の夜空を見上げる。
〈はぁーい! 大変と盛況で何よりでーすっ! 皆さん頑張ってますねーっ! いい事ですよーっ!〉
しばらくすると、案の定、というべきか。どこからか、使徒の声が響き渡った。おや? という顔で動きを止める魔物がちらほらと居る中、大半は時間切れと見たのか、回収ペースを上げようとしている。
〈そーれーでーはーっ! これより、最後の大砲とプレゼントボックスの追加を行いまーすっ! 最後だけに、この大砲からはちょーっと特別なプレゼントボックスが追加されますよーっ!〉
ざわっ、と空気が動く。ユーラリングはアイテムボックスから杖を出した。
〈もちろん! 早い者勝ちですからねーっ! それではーぁ、スペシャルプレゼント追加のー、スペシャルな大砲! ステンバーイ!!〉
……ゴゴゴ、と最初は地響きが響く。既にユーラリングはお茶を片付け、机の上には何も乗っていない状態にしていた。その上で椅子から立ち上がり、杖を両手で構える。
やがて地響きは大きくなり、そこそこ強い地震、震度3から4程度の揺れとなり、バキリ、と地割れのような音が響いた。そのまま、バキ、バキ、バキバキバキ、と地が割れる音が連続し、明確に大地のひび割れが目視できるようになる。
そして──ゴゴゴゴゴゴゴゴ、という効果音、あるいは振動からの重低音を伴って、人どころか家が入りそうなサイズの大砲が、土埃を払い落としながら現れた。
「……やはりか……」
『やっぱりでしたね……』
ユーラリングとヒュドラの想定通り……「メインイベント広場」の中央広場、その、「ド真ん中から」。
広場にいた魔物達の多くが唖然として、それは空中にいる魔物達も同じくのようだ。バンバン、と床を叩くような音が聞こえるが、たぶんサタニスが演出に大笑いしているのだろう。
そしてそれらの反応を丸っとスルーして、ユーラリングはスキルの発動態勢に入った。これだけはいつでも即座に発動できるようにしていた個人を対象にしたものを、自分とハイライガー姉妹に。少し時間をかけて、大規模なものを同盟の簡易拠点に。
〈それではー、いっきますよーっ! スペシャルプレゼント、発射ーっっ!!!〉
使徒の楽しそうなテンションの高い声に合わせて、漫画のように巨大な大砲が、ぐぐぐっとたわんだ。タイミングを合わせて、ユーラリングはスキル……魔力の盾のようなそれを、発動する。
大砲の胴体は、最初の倍ほども膨らんでから
ッッッドゴォォオオオオオオオオオオンン!!!!!
轟音、というより、衝撃波を周囲全体にまき散らし、周囲にいた魔物を叩き伏せ、空中にいた魔物を吹き飛ばした。周囲にはユーラリングが守った『King Demon’s Round Table』のもの以外にも簡易拠点があったのだが、このたった一発で少なくないダメージが入ったのが見える。
上がったレベルとステータスで、ごり押しに近い防御を張ったユーラリング。もちろん盾は砕ける寸前までの衝撃が入ったが、何とかギリギリ耐えることに成功したようだ。
当然、ユーラリングは
「再展開!」
即座にその守りを張りなおした。ノータイムで、間髪を入れず。
直後、再びの轟音、衝撃波。地面に叩きつけられていた魔物がめり込み、他所の簡易拠点の一部が壊れだした。ユーラリングはそちらに目をやる余裕もなく、また守りを張り直す。
そして轟音、衝撃波。守りを張り直す。それが、たっぷり30回は繰り返されただろうか。
〈はーい! これで追加のプレゼントボックスはおしまいでーすっ! イベント自体は、浮いてるプレゼントボックスが無くなるまで続きますのでー、皆さん最後の1個まで頑張ってくださいねーっ!〉
流石のユーラリングもオドが厳しくなってきたところで、ようやくそんな使徒の声と共に、大砲の動きが止まった。周辺は……災害地の様相を呈している。
地面に埋め込まれて呻き声を上げる魔物。半壊からほぼ全壊した簡易拠点。その中から聞こえる助けを求める声。広場外縁に現れた大砲も半壊している辺り、被害は甚大だ。
〈このスペシャルな大砲はスペシャルなのですぐに撤収しますし、残念ながら壊れちゃった大砲も回収しますがー、無事な大砲は最後のプレゼントボックスが回収されるまで使えますからねーっ!〉
「それ以前に参加者の安否があれなのだが」
〈ではでは! 「エアライドボックス」はここからロスタイムという事で! 明日のイベントをー、お楽しみにーっ!!〉
聞いちゃいねぇ。と、内心で零すユーラリング(の中の人)。
「……さて、どれほど祭りからリタイアする奴が出たことやら」
『いやー、予想の斜め上に酷い状況ですねー』
ぱしゅん、と、出てきた時とは打って変わってあっさりと消えた広場の大砲を見送り、そこでようやく防御スキルを解除したユーラリングは、呆れと脱力をたっぷり込めた息を吐いたのだった。
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