第67話 蛇は箱を押し落とす

 ユーラリングが取り出して、ハイライガー姉妹に渡したのは「無重力のポーション」というものだ。それぞれに鉤付きのロープを持たせ、ポーションを飲ませる。

 と、不思議な力場が発生し、ふわりと2人の身体が浮き上がった。


「わ、わわ……う、浮いてます!」

「あまり浮き上がらないうちに、地面を蹴った方が早くつくぞ」

「はわわ!? ま、回ってしまいます!」

「立ち泳ぎと同じ要領だぞー」


 一歩遅れてユーラリングも鉤付きロープを持った状態でポーションを飲む。重量無効化ポーションの効果と重ねられるのは確認済みだ。飲み干すのと同時に地面を蹴って、そのまま上空へと飛んで行った。

 ロープが届く距離よりずっと上まで行って、1人では下せそうもない大きさの箱が並ぶあたりまで来ると、ユーラリングは手に持っていた鉤付きのロープを構える。そのまま器用に翼で姿勢と方向を調節しつつ、リボンをロープで結び合わせていった。

 くっついている明かりも空中で回収してしまう。やがて、プレゼントボックスの特大の塊が出来上がった。ここで一度下方確認。地面までの間にあるプレゼントボックスの明かりを回収し、別のロープで結び付けていく。


『えーと。少し質問いいですか、我があるじマイロード

「なんだ」

『何となく察しては居るんですが、これ、どうやって下ろすつもりです?』

「簡単な事だろう」


 下をうろうろしだしたライガー姉妹に避けるように指示を出して、ユーラリングは箱で作った塊の上に乗った。そのまま、アイテムボックスを操作する。


「要は、箱の浮遊の力を超える重量がかかれば良い」


 そして、アイテムボックスから……『ミスルミナ』第2層を探索して回収した大きな岩を取り出した。ずんっっ!! と過重のかかったプレゼントボックスの塊が、地面へと落ちていく。


『わーぉそこに痺れる憧れる! 流石我があるじマイロード!! ……ってあれ? 思ったより緩やかですね?』

「墜落させてどうするんだ。それぐらい計算して重りを乗せるに決まっているだろう」

『なるほど!』


 見た目がカラフルなリボンのかかった箱でなければ、隕石騒ぎになっているだろう。ちら、と広場の外周にユーラリングが目をやると……何という事か。イベントより大砲の奪い合い、大砲の奪い合いそのものより戦闘に熱が入っていて、ほとんどの魔物は上空を見ていない。

 いいのかそれで。とユーラリングがぼやいている間にプレゼントボックスの塊は地面付近にたどり着いた。ユーラリングは端に移動して、護衛の不死者の手を借りて、端から順番にプレゼントボックスを地面に触れさせていく。

 中央にあった一際巨大なプレゼントボックスを地面に触れさせてからアイテムボックスを確認すると、プレゼントボックス小・中・大・特大という表記が並んでいた。


「通し番号すらない、という事は……やはりガチャか」


 最後に大岩を回収して、ユーラリングはもう一度空へと舞い上がるのだった。




〈はーいっ! 皆さん「エアライドボックス」は楽しんでいますかーっ!? おやおや!? 結構減ってますねーっ! これならフライハイ天元突破ぁ!! しちゃう箱はありませんねーっ!〉


 流石に重りを使っての大量獲得も、2度目以降はユーラリング達の独壇場とはならず、どうやら争ってはいても一応上空が見えていた魔物達が真似をするようになっていた為、光の天井だった空も、明るめの夜空ぐらいに収まっている。

 ユーラリング及びハイライガー姉妹はあのやり方でプレゼントボックスを荒稼ぎしていたが、気付かれてから更に3回ほど繰り返したところで「無重力のポーション」が効果切れになった為、休憩していた。


〈さてそれではー、大砲とプレゼントボックスの、追加のお時間でーすっ!! 追加分の大砲、ステンバーイ!!〉


 そこに響く使徒の声。同時に、「メインイベント会場」の外側から、バゴォ! とかドゴォ! という、何かが土を跳ね除けて現れるような音が連続した。

 その音を聞いて、ユーラリングは頭の中で地図を広げる。確か「メインイベント会場」では、中央の広場、そこを取り囲む同盟用の待機スペース、そこから草地が広がり、外周の大砲はエリアの縁に沿うような位置だった筈だ。


「距離が近いから、あれか。草地に出てきたという事か」

『まぁ妥当なとこでしょうねー』

〈それではー、プレゼントボックス、発射ーっっ!!〉


 ドドドドドドドドッドドドッドン!!! と重量物が撃ち出される音が繋がって聞こえる。びりびりとスペース、という名の簡易拠点の壁や床が震えた。

 しれっと自分の分のお茶のカップを持ち上げて避難させつつ、ユーラリングは身体を傾けて広場上空を見上げる。尾を引く光が外から昇ってきた、と思うと閃光と共に爆ぜて、無数の光が夜空に飛び散った。

 まるで花火だな。とユーラリングが思っている間にもその光は続き、やがて最終的に、最初と同じか、もう少し明るい光の天井が構成される。


〈はーいっ! プレゼントボックスの追加1回目、かんりょーでーすっ! ではでは! 「エアライドボックス」を引き続きお楽しみくださーいっ!!〉

「待て、1回目?」

『1回目って言いましたねぇ』


 最後の去り際の使徒の言葉に、思わず反応して呟くユーラリング。聞き間違いではないらしく、ヒュドラもそれに同意を示す。しかし、その呟きに対する答えはないまま、使徒の声はぷっつりと途切れた。恐らく撤退したのだろう。

 ユーラリングは少し考え、お茶を飲み干して立ち上がりつつ短く声をかける。


「ヒュドラ」

はいイエス我があるじマイロード。大砲の位置を確認してきます』

「頼んだ」


 文字通り片時もユーラリングの傍を離れなかったヒュドラが、するりと外れて外周方向へ出かけて行った。大きさに見合わず意外と素早い。

 あれならすぐ戻ってくるだろう、と思いつつ、ユーラリングは鉤付きロープを取り出してハイライガー姉妹に手渡した。不死者は、本来の仕事である護衛に専念する為、ロープ無しだ。


「? さっき、ロープの届くところは全部取りましたよね?」

「追加されたんだから、低い位置もまた増えているだろう?」

「それもそうですね」


 あっさり納得してロープの鉤を回しだすハイライガー姉妹。サタニス(の護衛組)は「無重力のポーション」での回収を続けるようだ。小物には興味がない、というより、1000個集まったのかもしれない。

 ……特大サイズの箱、1000個もあったか? とユーラリング(の中の人)はちょっと内心で首を傾げたのだが、あえて指摘する事も無いかと思い直して黙っていた。

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