第66話 蛇は箱を釣り下げる
とりあえず、という感じで、一度は外周に設置されている大砲の様子を見に行ったユーラリング。分かってはいたが阿鼻叫喚の大乱闘になっていたので、あっさりと広場へと引き返した。
最初と打って変わってガランとした広場の、所属同盟のスペースに近い位置に陣取る。サタニスの熱い視線をスルーして、ユーラリングはアイテムボックスから取り出したある物を護衛の不死者に渡した。
不死者は渡された物……それはそれは長大なロープと、その先に着いた鉤でやるべきことを把握。ユーラリングから少し離れたところで、ひゅんひゅんと鉤を回し始めた。
『……あーそうか。確かに、「空を飛べれば有利」とは言ってましたが、「空を飛ばなければならない」とは言ってませんでしたねぇ。「大砲を使ってもいい」とも言ってましたけど、「それ以外の方法を使ってはいけない」とも言ってませんし。どころか「他に方法はある」と言ってましたし』
「ま、他の奴らが気づくまでの間だろうがな」
鉤が空気を切る音が繋がり、ぶぉおーん、というローター音に似た低い音になってしばらくしてから、不死者は十分に勢いを乗せたロープ付きの鉤を、思い切り上に放り投げた。
しゅるしゅると伸びるロープを伴い、重力に逆らって鉤は飛んでいく。やがて勢いが弱まり、下降に転じたところで、その先端が、プレゼントボックスのリボンに引っかかった。
ぐいぐい、と不死者がロープを引くと、大人しく地上へと降りてくるプレゼントボックス。地面に触れた時点で手に入る、という説明通り、空中ではそのリボンが解ける様子はない。
「まぁ想定通りだな。……が」
地上近く、直接手を伸ばせば届く位置まで下りてきたプレゼントボックスを両手でつかみ、しげしげと眺めまわすユーラリング。そこそこの重さがある鉤と、結構な大きさのランタンがリボンにかかっていて、なお重さはそれほどでもない。つまり、これは浮力がある状態、という事だろう。
ユーラリングは30センチ四方ほどのプレゼントボックスを抱え込み、引っかかっていた鉤を外した。不死者がまた投擲の体勢に入るのを横に、じっと視線を向けるのは……見えやすいようにつけたと使徒が言っていた灯りだろう、小振りのランタンだ。
しばらく考えて、おもむろにそのランタンを取り外してアイテムボックスに突っ込んでみるユーラリング。
「「魔星のランタン」か。やはりな」
それがアイテムとしてちゃんと手に入ったことを確認し、今度こそ抱えていたプレゼントボックスを地面に触れさせる。ぽん! という軽快な音を立てて、煙と共にプレゼントボックスは消えた。
改めてアイテムボックスを開き直すユーラリング。そこにはたしかに、「プレゼントボックス(小)×1」という表記が増えている。
「アイテムとして入る訳ではないのか」
『後で一斉開封か、もしくはポイント扱いですかね?』
「ガチャ券と言う線もあるな」
『あー、ありそうですねー』
「ガチャですって?」
……なんか来た。という顔で額を抑えるユーラリング。不死者は2つ目の箱を確保したらしく、ロープの引き下げ作業に入っている。
観念して声が聞こえた方向を見ると……まぁ、そこには、目をきらっきらに輝かせたサタニスが居る訳で。
「…………まだ可能性の話だぞ?」
「リングちゃんの勘と推測はよく当たるじゃない♡」
満面の笑みで言われてしまえば、ユーラリングにそれ以上何か言える訳もない。次に釣り上げならぬ釣り下げられてきたプレゼントボックスを掴みながら、深々と息を吐くにとどめたのだった。
数分後。
まだまだガランとした広場の一角で、サタニスとその護衛組、ユーラリングと護衛の不死者、あとハイライガー姉妹が、上空へロープ付きの鉤を投げまくる光景があった。どうしてこうなった、とユーラリングは遠い目だ。
まぁそれでもプレゼントボックスは明かりを外してから入手している辺りちゃっかりしているというか、この貧乏性はもはや病気なのではないだろうか。
「アイテム名が大きさ違いしかないし、使徒がポイントとは言っていなかったから、やはりガチャ券だな」
「目指せ1000連ガチャよ~!」
「根こそぎにする気か?」
わくわく! とプレゼントボックスを地面に触れさせているサタニスに問い返し、ユーラリングは上空を見上げる。そこに広がるのは満天の星よりなお密度の高い、光の天井だ。
……まぁ、数千人単位の参加者の分があるんだから、1000連ぐらいなら大丈夫、だろうか……? とか、1日目の事を思い出しつつユーラリングは複雑な顔をしていた。
なお明かりを外さずにプレゼントボックスを地面に触れさせた場合、明かりは普通に消えて手に入らないようだ。情報ソースは隣のサタニスである。
「けど、この明かりも結構種類があるわね。飾りだろうけど」
「外せば手に入ったぞ」
「あら、そうなの?」
3人がかりではあるものの、それでも手すきの時間はある。ユーラリングはアイテムボックスから「魔星のランタン」を取り出して見せた。まぁ、と口を押えるサタニス。
「流石リングちゃんね。それ、結構なレアものよ? 主に中身が」
「……、そうなのか?」
「そうなのよ。大盤振る舞いねー」
そんなやり取りの後はサタニスも明かりを取り外してからプレゼントボックスを地面に触れさせるようになったので、結構どころかかなり相当なレアものだったようだ。
そうなのか。ともう一度「魔星のランタン」に目を向けるユーラリング。確かに、明るいのに眩しくないから良い明かりだなーとは思っていたが。
しかしやることは変わらない。黙々とそれぞれにプレゼントボックスを釣り下げてはそれぞれの主が受け取る、そんな時間が半時間ほども続くと
「あっ、もうちょっとでしたのに……」
「く、ぬっ! ……うぐぐ、角度がっ!」
まぁ、ロープが届く範囲は取りつくしてしまう。早かったなぁ、という顔のユーラリング。サタニスは……護衛を、所属同盟のスペースの屋根に上らせてまだ続けているが、誤差だろう、というのがユーラリングの予想だ。
しかし外周の大砲は、相変わらず使える状態では無いようだ。力づくでどけたとしても護衛を残していては意味がない。
『で、どうするんです?』
「こうする」
「「(視線)」」
「(興味津々の視線)」
「在庫を山ほど抱えているだろう絶対者はともかく……一緒にやるか? コツがいるが」
「いいんですか!?」
やーん。とかいう声が聞こえた気がしたがユーラリングはスルーして、とあるポーションを手渡すのだった。
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