第48話 蛇は屋台で見つける
その後、サタニスに連れられて『King Demon’s Round Table』の関係者への挨拶巡りを行い、サタニスに祭りの会場大まかな作りと、公式が用意したタイムテーブルを教えてもらい、ユーラリングは祭り会場の回遊を始めた。
祭り会場は大まかに5つのエリアに分けられ、北から時計回りに「メインイベント会場」という名の広い空間、「屋台エリア」という様々な屋台が並ぶ場所、「辻バトルエリア」という自由に決闘していい場所、「屋内イベントエリア」という大きな建物が並ぶ場所、「商店エリア」という移動式店舗が並ぶ場所となっている。
公式のタイムテーブルで行われるイベントは全て「メインイベント会場」で行われるので、それまでにくるっと一周して戻ってくればいいという事だ。
「らっしゃい、らっしゃい! 皇帝鳥の焼き鳥、早い者勝ちだよ!」
「射的はどうかねー。スキルに頼らない素の実力を試してみないかねー」
「景気づけにくじ引きな! 当たれば吉兆、外れれば運の貯金だ!」
これぞ祭り、という喧騒の中を、ユーラリングはふらふらあっちへいったりこっちへいったり、はた目から見れば危なっかしい様子で歩いていた。ただ、ユーラリング(の中の人)自身は社会人の心得として、喧騒の中での歩き方を体得していたので、ぶつかったりはしない。
ユーラリングはまずいくつかの料理屋台に目を付け、買い食いから手を付けた。見た目は小柄な可愛い系なので、周囲の目もほほえましいものを見るそれだ。……実際は初期の頃飢えに飢えていたせいで、その満腹度と渇水度の上限はだいぶ高い、見た目を裏切る大食いと化しているのだが。
3つほどの屋台で食べ物を買った後、飲み物を買って今度は射的やくじ引きの屋台を眺め始めたユーラリング。やるつもりが無いので完全に冷やかしなのだが、見た目が良いというのはそれだけで得である。
「……ん?」
その歩みが、途中で止まった。かと思うと、その視線の先へと進路を変更する。この喧騒の中にあって人がまばらなその屋台は、現実でいうところのひよこ屋台やミドリガメ屋台と同じカテゴリになるのだろう。
店主もあまりやる気なく欠伸をしつつ座っているので、ダメで元々みたいな感じなのかもしれない。ユーラリングがひょこっと顔をのぞかせると、薄目を開けて確認した後、目をむいて二度見してきた。
「これも売り物なのか?」
「ハイッ!? あ、はい、売り物ッス。どですか、運試しに1匹」
平たい金属の箱に、無造作に放り込まれたようなそれは、見た目がとても不格好だった。うごうごと動いていなければ、その辺の石を放り込んでいるのかと思っただろう。
店主によれば、これでも一応竜の子なのだそうだ。ただしどう育つのかは育ててみないと分からない。運が良ければ貴石の鱗を持つ希少な竜になるが、大抵はこの見た目のまま大きくなるのだとか。
「まぁ鈍重で大喰らいッスが、このままでも防御はピカイチですんで。もし貴石の竜になれば鱗だけで生活できるッスよ。……まぁ、お嬢さんにはそこまで魅力じゃないかもしれないッスけど」
という店主の視線が向かうのは、ユーラリングの頭の上に輝くティアラだ。確かに、あれを外注しようと思ったらかなりの財力が必要だろう。まぁ自作でも材料費だけでかなりかかっているのだが。
説明を聞いたユーラリングは、へぇ、と生返事を返してうごうごと動く竜の子を眺めていた。少なくとも現時点では不格好極まりない。
「売れているのか?」
「……ゼロではないッス」
「殖やせるのか?」
「んー、難しいんじゃないッスかね。一応竜ッスし」
「いつまで居るんだ?」
「多分この調子だと売り切れないと思うんで……新月の3日前には閉めるんじゃないッスかねぇ」
矢継ぎ早の質問の後、ふむ、と息を吐いて考えるユーラリング。しばらくして、しゃがみこんでいた姿勢から立ち上がった。
「閉店直前にまた来る」
「へ? あ、はい。お待ちしてるッスー」
何だったんだ? という混乱が見える店主の声を背中に、屋台巡りを再開したユーラリング。そこに、小声でヒュドラが声をかけた。
『
「客が他にもいるかも知れんだろう?」
『どうですかね~。あれ、大分難易度高いと思いますけど。いや、
「それでも、まだ数日あるのと、閉店直前とでは印象がわずかでも変わる」
『まぁ、それもそうですね』
同じく喧騒にまぎれる小声でのやり取り。それはもちろん、さっきの屋台、石ころにしか見えない、自称(?)竜の子についてだ。
実はあの質問の直後、思わずユーラリングは口の中で零していたのだ。「もったいない」と。それをヒュドラは聞き取り、自分で自称(?)竜の子を鑑定し、その真実に気づいた、という訳だった。
『わざわざ教えてやる必要もないですしねぇ。宝石の竜になるかどうかは、育て方100%依存だって』
それが分かったのは、ユーラリングが生産特化スキル構成をしているから……ではなく。称号【
そして開示された情報によるあの自称(?)竜の子の正式名称は「原石竜(幼体)」。確かに素質のばらつきはあったが、それはどんな宝石になるかという程度の違いだ。ちゃんと育て上げれば間違いなく上位種族の宝石竜へとなる希少種族だった。
というか、宝石竜の幼体は全部原石竜であるので、宝石竜を捕まえても石ころしか生まれないんですけどー!? というのは実は当然のことなのだ。原石のまま成体になるのは、育て方が悪いせいである。
「しかし、思った以上の掘り出し物が見つかったな。このまま他にもないか探してみるか」
『あ、あっちに何かの雛がすし詰めにされてた屋台がありましたよ』
それはそれとして、基本的に生き物を育てるのは好きな部類のユーラリング。他にも掘り出し物種族が売られていないかと、ペースは変えずに屋台エリアをふらふらするのだった。
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