第37話 蛇は注文に苦悩する

 そして恙なく(?)挨拶と営業を終えて自ダンジョン『ミスルミナ』に戻って来たユーラリング。気疲れのあまりその日は何もせずログアウトからの寝落ちをキメたがまぁ些細な事だ。

 そしてログインして、まず手を付けたのはイメージ図の作成からだった。先だっての謁見で、サタニス自身のモチーフや良く着る衣装の方向性は聞いている。というか、聞いていなければどう作ったものかと頭を抱えていたところだ。


「…………自分で言うのも何だが、可愛い系と美人系でおそろいって難易度高くないか」


 称号の姫というものを意識して、中身(中の人の精神)より外見(アバター)優先で衣装を作っているユーラリング。当然、中の人である現実と比べてやや小柄、顔つきもそれに合わせて可愛らしい系にしてあるユーラリングは、当然カテゴリ的には「可愛い」に属する。

 で、サタニスがどうかというと、それはもうがっつりと「綺麗」だ。がっつりがっちり、「大人な美人」である。真逆と言っても良い。


「……おそろい、おそろいなぁ……」


 そしてそんな両者の内、片方に合わせて作られたアクセサリを、おそろいでもう片方に作る、というのは中々に難易度が高い。それなら最初からセットで作らせてもらった方がまだ簡単だ。と思いつつ雑に条件を書き連ねるユーラリング。

 顔程の大きさの「*****の巨塊」の亜空超密度結晶がまず必須。当然サタニス自身のモチーフ……悪魔の羽が生えたハートも必須。おそろいと言う事はデザインもともかく、12貴石も使った方が良し。白黒の蛇が互いに尾を咬むデザインはワイヤーアートに変更。


「かと言って、重いのも問題だな。そもそも、そんなにごつくなったら似合わない。軽量化も必須か」


 方針としては優雅で細めに、本人と潰し合わないよう輝きも大きさも控えめで、けれど霞まない程度に存在感を。かつ、可愛い系のユーラリング(のアバター)に合わせたティアラとのおそろい。

 そんな条件が並んだ紙を見て、ユーラリングはため息を吐いた。


「何だこの無理難題」


 ……まぁつまりそういう事である。

 せめておそろいでなければやりようもあるのに、と頭を抱えるが、恐らくあのティアラを見せなくてもおそろいを要求されていただろう。何故だかとても気に入られていたようだから。

 頭を抱えつつデザインだけでも決めなければ、と紙に線を引いて行くが、なかなか決まらない。


「そもそも、このバカデカいサイズの結晶を使えって言うのがそもそもの無理ゲーなんだが?」


 重すぎる、と呟いてボツったデザイン画をボツ箱に投入し、ん゛ー、と何とも言えない唸り声を出すユーラリング。流石にこれのデザイン相談を外部(『聚宝竹』)に行う訳にもいかない。

 まぁそもそもこの大きさで持って行ったのはユーラリングなのだから、自業自得と言えばそれまでだ。まさかおそろいと言われるとは思ってなかったとしても。

 それでも何とかしなければならない、とさらに悩む事しばらく。


「…………、つまり、巨大なサイズの結晶でなければ出来ないものであれば良いのでは?」


 うん? と首を傾げて独り言を呟いたユーラリング。今の発言に穴はあるだろうか? いや、無いな。そんな脳内会議を繰り広げて、改めてデザインを書き起こす。


「となると……一発勝負になるし難易度がアレだがまぁそれは仕方ないとして……方向を変えて組み合わせれば立体感が出せるから……」


 ぶつぶつ言いながらさらにいくつかの案をボツにする姿は正直不気味なのだが、もちろんシズノメはツッコまない。命がいくらあっても足りないし、この程度は可愛い物だと知っているからだ。

 なので邪魔が入る事も無く、その結果として然程なくデザインは仕上がった。それを改めて眺めて問題ないか確認するユーラリング。


「…………今の所、これ以上は思いつかんな。シズノメ」

『はいな。何の御用でっしゃろ』

「最高ランクで5カラット以上の12貴石はあるか」

『あっとー……お時間もらえたうえで原石でも良いならたぶんある思います』

「では頼んだ」


 値段について言わなかったのは、まぁいつものように言い値で買うからだ。ぶっちゃけお金についてはいくらでも稼げる上に、使い道が限りなく限定されている。惜しむ理由が無い。

 なおシズノメが特に反応しなかったのは、感覚麻痺に陥っていたからだった。これを単なる慣れとは呼びたくありまへん、とは本人談。

 必要な物の注文をしたところで、さて、とユーラリングは気合を入れて、まずは巨大な結晶へと向き直った。

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