第16話 蛇は貴石をいじって遊ぶ
然程なく重量制限無視ポーションを使い切り、ユーラリングはまた黙々と「血の刻印」の作成に励んでいた。それしか出来る事が無いとも言う。焼き物や調薬をするには僅かでも歩き回る必要があるからだ。つまり例の鉱脈がある状態だと不可能である。
重量制限は一向に改善する様子を見せない。やれやれとため息をつきつつ、しかしゲーム内に居ないと(ログインしていないと)重量制限緩和系スキルは上昇しない為、ユーラリングの中の人は毎日限界までログインを続けていた。
『リングサマ。お暇でしたら生産依頼を受けてみませんやろか?』
シズノメからそんな提案があったのは、まぁ、そういう感じで少々暇をしていた時だ。生産依頼、とユーラリングは言葉を口の中で転がして、あぁ、と思い出す。
「余所に発注する事が可能とかいうやつを、受ける側の話か。……さして変わった物は作れんぞ? まぁ知っているだろうが。「血の刻印」は取引かドロップ推奨だしな」
『まぁまぁ、その辺の目利きはさせていただきますんで。お話だけでも。いかがでっしゃろ?』
「…………自分の作った武器防具の類で殺されるなど笑えんが、まぁ、聞くだけ聞いてみるか」
快諾、とはいかないが、元々自分が目指していた道に重なるという事で話を聞く体勢に入ったユーラリング。もちろんシズノメも乗り気の無さは分かっていて、一応念のため話だけ、のスタンスは変えずに話し始めた。
『まぁ装備にも流行り廃りいうのがありまして。今現在の最新はアダミ石を使ったアクセサリなんですわ。アダミ石言うんもまた不思議な石でしてな、ちょっとした熱で溶けて形を変えるのに、月どころか星や鬼火の光にすら反応して光るっちゅー石なんです』
「ほう。……太陽には反応しないのか」
『そうなんですわ。あくまで反応するんは太陽以外、もっと言うなら『夜属性』の光のみです。で、その光というのがまたそこそこに強い。そう言う訳で、ランタン代わりにとアクセサリを着ける方が急増中って訳ですわ』
「……まぁ、別にランタンを持つよりは、身軽で済むだろうな。熱にさえ気をつければそこそこに強度もあるのだろう? ……鬼火漂う墓場のエリアなどで特に重宝しそうだな」
『流石リング様、ご慧眼ですな。そして今一番熱い狩場が、何とも御誂え向きに巨大な
「ふむ。何かある……いや、あった訳か」
『その通りですわ。このアダミ石のアクセサリ、灯りとしては優秀でも、性能としてはかーなーりショッパい代物だったんですわ……。かといって他の物との複合材にすると、その最大の売りである光が弱まってしまうという、実に頭の痛い性質をしとりまして』
「……、なるほど。大体話が読めてきた」
『大凡お察しの通りですな。現在職人たちの間では、そのアクセサリの切磋琢磨がトレンド。もし性能的にもおいしいアクセサリが世に出ようもんなら、皆が皆その真似をしようと躍起になること間違いなしです』
「で、我に話を持ってきた訳だ。「血の刻印」という万能に近い性能のアイテムを造り出す事が出来るのであれば、あるいは、と」
くつくつ、と小さく笑いを零しながら確認するように断言したユーラリング。シズノメは、『まぁそういうコトでんな。いかがです? もちろん作成者の名前含めたプライベートはしかりと守らせて頂きますし』と、再度の問いかけを放ってくる。
ふむ、とユーラリングは考え込む。話自体は悪くないだろう。細工物で、大掛かりな設備が不要であれば確かに今の「暇潰し」にはぴったりだろう。しかも良い物が出来れば高値で売れる。
そして出来なくても別に構わない。出来たとしても、この『ミスルミナ』が狙われる訳でも……もちろん材料に「血の刻印」を使ったりしなければだが……ない。
「まぁ確かに、悪い話ではないな」
『で、如何なさいます?』
「……まずはアダミ石とやらを知らんとな。シズノメ、あるか」
『もちろんでっせ! 売れ筋商品は押さえておきませんと!』
なおカテゴリとしては宝石類に属するらしいアダミ石。ガラス光沢のある色鮮やかな石で、その色合いは赤から黄まで。彩度は高いが透明度は低く、丸く加工されているとガラス玉と見分けがつかなくなりそうだ。
言われた通り蝋燭程度の火でも簡単に柔らかくなり、平皿に入れて炙ると、とろとろと溶けてしまった。なるほどこれはやり易く厄介だ、とユーラリングは口の中で呟く。
「魔物もその性質によると身に着けられない者が居そうだな。その辺何か対策はあるのか?」
『あー、製法と成分が一部職人の秘密ですけんど、超高断熱・耐熱のコーティング剤が売りに出されとりますな。バカ高い代わりに性能は確かだそうで、多くはそれを使っとるみたいです』
「ほー。そんなものが。……ふむ」
その後もしばらくアダミ石をいじってみたユーラリング。宝石としてカット済みのものと原石のままのものを比べてみたり、火にかけたり降ろしたりを繰り返してみる。
色違い同士を混ぜてみたりなんだかんだといじくること小一時間。
「シズノメ」
『はいな!』
「今求められているのはアクセサリなんだな?」
『そうですな。ランタン代わりの、とはつきますけんど』
「ふむ…………そうだな、シズノメ。水晶はあるか。透明な奴だ」
『透明な水晶でっか? ありまっせ!』
「……後は、そうだな。可能な限り類似の……透明な石をいくらか」
『それでいきますと、ジルコンあたりですな。一覧出させていただきます』
何か思いついたらしく、注文を出すユーラリング。シズノメはそこに何の疑問も挟まずにテキパキと取り寄せの準備を始める。もはやいつもの事と思っているのかもしれない。
もちろんユーラリングは自分の考えに集中しているし、そもそも周囲の反応など知った事ではないと無関心だ。ある意味手におえない組み合わせなのだが、もちろんこの地の底にそれを指摘する者などいない。
で、注文からほぼノータイムで到着した品々を使って何かやり始めるユーラリング。
「…………シズノメ。悪いが10秒だけ明かりを落とすか先の属性の物に切り替えろ」
『はいなー…………10秒でんな?』
「暗いのが苦手なのは知っているから、食い気味で構わん」
時々シズノメにそんな注文を出してみたり、何というか、割とと言わず本気だ。……今までその手の「生産職人らしい」イベントとの接触が皆無だった反動でもあるのかもしれない。
その後もさらに追加注文としてアクセサリ用の留め具に針金やらチェーンやらを色々買いこむユーラリング。資金は例によって唸るほど余っているので完全に糸目をつけていない。
そしてそんな状態でアクセサリの1つ程度に、生産に関するプレイヤースキルがおかしいユーラリングが手間取るか、というと。
「………………まぁ、こんなもんだろう」
もちろん、そんな事は全然なく。
シズノメすら言葉を失くす程度にはあっさりと、話題をさらうだろうアクセサリは完成したのだった。それも透明な宝石に魔法陣の形で掘り込みを施し、内部をくりぬいて液体にしたアダミ石を注ぎ込む、という、アダミ石の弱点を無視できる形であり。なおかつ、透明な石と魔法陣の種類によっていくらでも追加効果を乗せられる、という。
……なおシズノメはユーラリングに声を掛けられるまで半ば気絶していて、正気を取り戻した直後の「1つだけというのも芸が無いし職別で欲しい効果ぐらいは作っておくか」という呟きで再度気を失う事になる。
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