地球から召喚した動物が魔物より遥かに強い件

海夏世もみじ

第1話

「レージ・ヴェント! 只今より職業ジョブ授与の儀式を行うため、前に出なさい」

「は、はい?」


 困惑しながらそう返事をした。

 レージ・ヴェント。俺はそう呼ばれていたが、本来の名は阿仁馬あにま零二れいじ、動物が大好きなペットショップの店員として働いていたはずだが……。


(どこだここ……?)


 狭くも心地が良い店内ではなく、だだっ広い煌びやかな神殿らしき場所にいたのだ。

 目の前には司祭らしきおじいさんかいるし、後方では日本とは思えない髪色と服を見に纏う者たちが多々。


 あれだな……妹がよく読んでるライトノベルのイセカイ、テンセイ? とかいうやつのイラストに似てる気がする。内容は微塵も知らないが。


「レージ?」

「あぁ、はい」


 司祭がいる階段の上を目指して登り、椅子に座らされる。

 俺の身長は180cmくらいあったはずだが、この司祭と相当身長差がある。巨人かコイツ。


「では、職業ジョブを授与させいただきます」

「はぁ」


 なんなんだコイツ。俺はペットショップ店員というちゃんとした職に就いているというのに。お前をペットの餌にしてやろうか?

 色々と思うことはあるが、状況が全くつかめていないため大人しく従うことにした。


 司祭は俺の頭に手を乗っけながらブツブツと何かを呟いている。しばらくして手が発光してきたかと思えば、俺の中に何かが入り込んでくる感覚がした。


「……授与が完了しました。レージ・ヴェント、そなたの職業ジョブは――〝召喚士サモナー(地球産限定)〟です!!」

「サモナー?」


 う〜ん、わからん。ケモナーみたいなやつか? サモ……そうか、サーモンか! サーモン好き好き人間の職業のサモナーってことか。なら漁師か寿司職人と言ったところか。悪くない。

 店内にどんな巨大水槽を置いて開店しようか考えていると、後ろで見ていた者の一人が俺に駆け寄ってきた。


「おい司祭。オレの息子はさぞ強い職業ジョブなのだろうな?」

「ね、ネロ・ヴェント様、落ち着いてください」

「落ち着けるかッ! 我が子がどうしようもない貧弱な職業ジョブを受け取っていたら汚名を被ることとなるかな!!」


 なんだこのいけ好かない兄ちゃんは。

 俺と同い年くらいだろうか。そんな男が突然現れて司祭に怒号を浴びせていたのだ。


「か、彼の職業ジョブ召喚士サモナーでした。ですが、その後ろにチキュウ産限定、と書かれておりました……」

「それはなんだ!」

「わ、わかりません……!」

「チッ。おいレージ。今ここで適当な魔物を召喚してみせろ」


 舌打ちをし、俺を見下しながらそう命令される。


「え、やり方がわかんないんだが……」

「レージ、私がお手伝いをしますので大丈夫ですよ」

「あぁ、そう?」


 司祭に手を取られ、隣で再びブツブツと唱え始める。すると今度は体の内側が熱くなってくる感覚がした。血管とは違う別の管で何かが急速に流れるような、そんな感覚だ。

 司祭がカッと目を見開くと同時に俺の中の何かが臨界点を迎える。


「今です! 【召喚サモン】と叫んでください!」

「え、え? さ、サーモン!」


 ――パァアアア……!!


 手のひらから光が放たれ、世界が真っ白に染まる。

 そして光が収まり、目に飛び込んできたのは……。


 ――ピチッ、ピチッ。


「……サーモンだ」


 そこには床を跳ねる魚、もとい鮭の姿があった

 ピチピチと跳ねながら神殿の窓を突き破り、川の中へ戻る鮭を見て司祭は顎を外さんばかりに口を開けている。


「も、もう一度いけますよ! 何か召喚したいモノのイメージをして叫んでください!」

「召喚したいもの? そうだなぁ……」


 そうだな、会いたいものは……うちのペットとかかな。


「サーモン」


 俺のペットを頭に思い浮かべながら、もう一度そう唱えて手を光らせた。再び光に包まれる。


『ワンッ!』

「おお……! 柴五郎しばごろう!」


 視界が開けるとそこには、狐色と白色のもふもふとした毛を生やす柴犬がいた。

 この子は柴犬の柴五郎。訳あって俺と妹で二人暮らしをし始めた頃、捨てられていたところを妹が拾ってきた愛犬だ。


「よしよし、お前はいつも可愛いな〜」

『ワフゥ〜』


 柴五郎は床にゴロンと転がり腹を見せたので、容赦なく腹を撫でまくる。

 嬉しそうな声を漏らしていたのだが、それはすぐに怒号でかき消されることとなった。


「なんだそのふざけた魔物は!! オレの息子ならばワイバーンくらい召喚してみないかッ!! そんな家畜より役立たなそうな魔物しか召喚できない息子など……!! 貴様はオレの息子ではない!!」

「…………あぁ?」


 悪口雑言とはまさにこのことかと思っていて面白おかしく聞いていたのだが、俺の愛犬である柴五郎をバカにしやがった。

 大人しくやり過ごそうかと思っていたのだが、それは叶わぬこととなるようだ。


「俺の柴五郎はドが付くほど可愛いし、妹を何回も守ってる家族だ。バカにすんなよクソ野郎」

「貴様……ッ!! 実の父に向かってなんだその口の聞き方はァ!!」

「いや、あんた誰だよ。お前みたいなやつを父親と思ったことない。こんなやつが父親だなんて、恥ずかしくて外も歩けねぇや」

「〜〜ッッ!!!!」


 茹で蛸のように顔が真っ赤に染まりあげた男は俺に手のひらを向けて何かをしようとしていたが、周りの人らに抑えられて阻止される。

 随分スカッとした気分になった。俺のことはいくらでも罵ってくれても何も思わないが、俺の家族を貶すやつは許さない。


 ――こうして俺は、よくわからない状況のままサモナーというサーモン愛好家の職業にさせられ、父親を名乗る不審者と口喧嘩し、後に山に捨てられるのであった……。

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