第10話 あすかのミスと。

かすかな一撃を短剣で受けようとする。


それは受け止めるまでもなく、1ミリの隙間もなく止まる。


あまりにかるい衝撃は殺陣に人生をかけた技を感じていた。

切れず衝撃すらない、寸止めの一撃。


さすが、これが技術なんだ。


皆、すでに志村と先生の戦いの余韻から解けて、皆が戦いを始めている。


しかし、あのモデルは戸惑い演技は崩れていた。

狂わされたみたい。


背景があんなに目立つなんてね。


 どうみても、やりすぎ。

 背景がシンを超える活躍をするなんて。

 怒りがわくのもよくわかる。

 

 けど、まだ終わりじゃない。


私も志村に続かなければ行けない。

しかし、私にはできないと皆が思われているのだ。


「おまえを倒す」


ここから、私もやるぞ!

私も志村に続く。最後のシンだ。


「死ぬのは貴様だー!」


ムツの引く動きに合わせて、短剣を動かす。

遠目でも目立つキラキラしたアラビアン短剣を振るう、光を乱反射して、観客の視線が集う。


 普通の戦いに舞台上からは安堵の息がもれる。

 さっきのアイツらははちゃけただけだと。


 そう、メインはあのモデルだというのに……


 あいつの顔に不満が出ている。


  つけ焼きの刃の私の動きはダンサーとしての華麗な動きでムツを翻弄して、動く。


 物語の中では豪剣のムツと幻惑的な動きで翻弄するあすかというふうにみているだろう。


 私は踊るように舞い、そのうごきを悟らせずに演技をする。


「またまだ!!」

 

 左右の袈裟切りを回るように避けていく、しかし、その一撃はよけやすいように誘導してくれているのだ。


「やあっ!」


気合も合図でしかない。

どう動くか大げさな動きでわかりやすくしてくれている。


力を込めた剛剣に見えて、軽く繊細な竹光だ。

そして、岩を割るような鋭い太刀筋だが、軽く風だけ切る一撃。


安心する動きだ。


 いや、もう一つ、嘲るように私をみているのはモデル上がりの目立ちたがり屋。


むしろ、私がミスをしないかとハラハラしている。


私はムツに添えられてる花に過ぎず、そして、本当のシンではなくてただの端役。


本来のシンは下手くそに動かず、周りが合わせてフォローされて、自分は名俳優だと勘違いしている。あいつでしかない。


周りはうんざりしていた、あのモデルのためだけに 使い潰されていることが、暴言とパワハラモデルめ……余計な事を考えてしまった。


 そして、ムツが私には使わない逆袈裟をふるう。

  どうしても、反応が遅れる。 下から跳ね上がる太刀筋に、短剣ははじき飛ばされる。


「あっ!」


一瞬の私の集中力が切れた、そこのミス……


 宙を舞う短剣……前と同じだ。

  そう、観客はピカピカに輝く短剣を追っていく。


  短剣は舞台の奥に消え。拾うことも難しい。

 リカバリーも難しい。


「下手くそ」


 小さくあのモデルがつぶやいた。

  舞台の上の皆が、以前の事を思い出している。

 舌打ちや、ため息が私の耳に聞こえた。


そう、たかが、背景のミスなら、本当のシンがより目立てばいい。


あすかにとっては、前は叱られカットを入れられて終わるだけ。


あの頃と違うのは本番で舞台は続いている。


 止まらずに続いていく。


しかし、私にとっては、もう立て直しようがないと皆が考えていた。


「……もう、武器はない。終わりだ!」


ムツの容赦のない太刀筋がおそった


 さっさとヤラれて、アスカは退場して繋げるという惨めなリカバリー……しかし……


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