第9話 管理局からの呼び出し
前回の配信からトレントの戦い方や能力などをしっかりと調べて、次の再戦(実際は初戦だけど……)に備えている時のことだった。
私は突然、ダンジョン管理局からの呼び出しを受けた。
「どうして……!?!?」
その連絡があったのは昨日のこと。突然私のスマホに管理局の人を名乗る人間から連絡があったのだ。
最初は管理局を名乗る怪しい人だと思って呼び出しとか言われても信用していなかった。でもなんとなく心配になってその電話の後すぐ、自分から管理局に問い合わせてみたのだ。
すると……まさかの本当に呼び出しだった。詐欺でもなんでもなく正真正銘、管理局からの呼び出しだったのだ……!
呼び出しの理由は聖剣に関することという風に言われていて、詳しくは実際に来てもらってから話すと伝えられた。
そうして電話を貰った翌日、私は早速都内某所にあるダンジョン管理局の本部にやってきていた。全国にあるギルドの総本山である場所だけど、シーカーらしき人の姿はほとんど見えない。
まあそれも当然で本部の近くにはダンジョンが無いからだ。だからむしろスーツを着ているサラリーマン?とかOL?っぽい人の方が多い。今からそんな場所に入っていこうとしてるんだから少し緊張している……
建物の中に入って、正面にある多分受付の人に話しかける。
「あの~……」
「はい。どうされましたか?」
「えっと、昨日管理局から呼び出しを受けたんですけど。あの、シーカーをやっている宮内小花って言いますっ!」
「宮内様ですね。お調べしますので少々お待ちください――」
今更ながらに勘違いだったらどうしようなんてドキドキしながら待っていると、さすがにそんなことは無かったらしく担当の人が来るから少し待っていて欲しいと言われた。
すると何でか私の顔をじっと見ていた受付のお姉さんが、ふいに仕事っぽい口調を止めて話しかけてきた。
「ねえ、あなたってもしかしてダンジョン配信者の『田中花子』ちゃんだったりする?」
「えっ!? えっと、あの、その……!?」
「ああごめんなさい! 答えにくい質問だったわよね。じゃあ独り言だと思って聞いて欲しいんだけど、実は最近花子ちゃんの配信を見始めたの」
なんとっ!? こんなところでリスナーに出くわすなんて!?
「ちょっと危なっかしいところもあるけど、この前のトレントと遭遇した時の判断は立派だったと思うわ。やっぱり越界者に成りたての頃ってどうしても自分の力を試したがるというか、無茶しがちな人が多いの。管理局の職員としてはもっと慎重になって欲しいって言いたいところだったのよ。だからこの前の花子ちゃんの撤退の判断は決して間違ってるものじゃないってこと。それだけ伝えたかったの」
「その……ありがとうございますっ」
「私の方こそ配信楽しませてもらってるから。これからも応援してるわね――と、案内が来たようですね。あとは彼について行ってください」
「はいっ! ありがとうございました!」
一瞬で態度を切り替えた受付さんに驚きつつ、やって来た男性職員さんについていく。去り際に受付さんが小声で「頑張って」という言葉とウィンクで激励してくれたのが嬉しかった!
生でリスナーさんの声を聞くのってこんなに励みになるものなんだ……!
そんな場違いな感慨深さを抱きつつ、男性職員さんについて管理局本部を奥へと進んでいく。
「宮内さん――あいや、田中さんとお呼びした方がいいでしょうか?」
「どっちでも大丈夫ですけど、じゃあ本名の方でお願いします! まだ配信者ネームの方は呼ばれ慣れてなくて……」
「そうなんですか? 承知しました。それでは宮内さんと呼ばせていただきます。それでですが、宮内さんにはこれから管理局のとある人物と会っていただきます」
「とある人物?……あの今日呼び出しをされたのって、何でなんですか? 聖剣に関することってだけは聞いてますけど、詳しいことはさっぱりな感じで」
「そうですね。話の中心は宮内さんが所持している聖剣に関することで間違いありません。おそらく宮内さんが考えている以上に聖剣とは影響力の強い代物なんです。それこそ管理局として放置しておくことは出来ないぐらいに」
「な、なるほど……」
「そんなに心配されなくても、無理矢理取り上げるとかそういったことはありませんから大丈夫ですよ。普段通りの宮内さんとして対応してくれればそれで十分です」
「そう、なんですか?」
いまいち要領を得ない感じだけど、真面目な感じの話だということは分かった。
そしていくらか歩いたところで、職員さんがどこかの部屋の前で立ち止まる。
「失礼します。宮内さんをお連れしました」
『どうぞ、入ってくれ』
「では私は外で待機しているので、宮内さんはどうぞ中に入って下さい。帰りはまた入り口までお送りさせていただきます」
「わ、分かりました……!」
かなり緊張しながら職員さんが扉を開けてくれて部屋の中に入る。
部屋の中にいたのは中年ぐらいの男性が1人と、こちらは若く二十代ぐらいに見える女性が1人。2人ともスーツをびしっと着込んで背筋が伸びているからか、すごく大人の人って雰囲気が出ていて猶のこと緊張してしまう。
「し、失礼します! 宮内小花です!」
「待っていたよ。どうぞ座って楽にしてくれ。すぐにお茶を淹れるから」
「はいっ!」
男性の方にそう促されて、2人が座っている正面のソファに座る。
すると――
「……」
「……っ」
じょ、女性の方がじっと見てくるぅ……!?
「……『勇者体質』」
「んっっ!? な、なんで!?」
「不便よね~。これのせいで他のスキルを持つことが出来ないなんて。しかも当のスキルそのものが、効果のはっきりしないものだし。よくこれでシーカーを続けようと思ったと、おばちゃん感心しちゃったわ」
な、なんでこの人私のスキルのこと知ってるのっ!? 最初に鑑定を受けたとき以外は、親にすら言ってないのに!?
「さすがにこのスキルがあるから聖剣に繋がったとは考えにくいけど、名前からしてやっぱり因果関係は感じるわよね。そこのところは自分的にどう思ってるの?」
「えっと、あの……!?」
「止めておけ。見るからに混乱してるじゃないか。まだこっちは自己紹介すらしてないんだ。よく分からないババアから自分の個人情報を詰められる気持ちになってみろ」
「誰がババアですって……?」
「自覚が無いのか?」
「私が理性的な女で良かったわね。でなかったら、今この場であんたをなます切りにしてた」
「出来もしないことを言うもんじゃないな――と、失礼した。かなり緊張しているようだからこれでも飲んで落ち着くといい。粗茶だがな」
「……いただきます」
出された緑茶を飲んで一息つく。
「ふぅ……ところでお二人は?」
「そうだな、まずは自己紹介から始めよう。私はこのダンジョン管理局の局長を務めている権藤という者だ。そしてこっちが――」
「あなたと同じで、S級シーカーの
「きょ、局長って管理局で一番偉い人!? それにS級シーカー!? ひぃ~~!!」
「そうだよな。突然呼び出されたかと思ったらこんなのが2人いてさぞ驚いただろう」
「はい、めちゃくちゃ驚きました。正直なんで私が呼び出されたのかますます分からなくなりました……」
「それについては聖剣に関する話だと伝えていたと思うが?」
「それは聞いてましたよっ? でも、ただ珍しい武器を手に入れたってぐらいのことで、こんな偉い人が出てくるとは思わないじゃないですか~……」
「なるほど。となれば、まずは宮内くんが持っている聖剣への認識を改める必要がありそうだな」
「え? 聖剣って結構強くて、モンスターに特攻があって、世界で10本しかない珍しい剣ってだけじゃないんですか?」
「ふむ、おおむね間違っていない。ただ補足するなら、一国の戦力に匹敵するほど強力で、あらゆるモンスターに対して有効な力を持ち、そしてこれまでの歴史の中でもたった10本しか見つかっていない特別な剣、といったところだな」
「はぁー……?」
「まあ実感が湧かなくても仕方ない。君が持っている聖剣は色々な意味で、これまでに発見された聖剣とは異なる性質を持っているようだからな。ともかく、だ。聖剣というのは個人が所有するには力があり過ぎるということだ。ああ! もちろんだからといって君から聖剣を取り上げたりなんかはしない! あくまでそれは宮内くんが自分の力でダンジョンから持ち帰った戦利品だからな。だからそうだな……今日はそんな凄い武器を所持している宮内くんの人となりを知りたくて呼び出したといった感じだな」
「な、なるほど。あれってそんなに凄い剣だったんですね……でもだったら本当に私が持ったまんまでいいんですか?」
「なんだ? 管理局に聖剣を譲ってくれるのか?」
「そ、れは……出来れば嫌、です」
「はははっ! それでこそシーカーだ! 安心してくれ。言った通り君から聖剣を取り上げるようなことはしない。もしするんだったら、君よりも先にコイツから取り上げるのを優先するさ」
「とか言っておいて、取り上げても使い道なんてないからでしょうに。使えない聖剣なんて切れない包丁と同じぐらい意味無いものね」
局長さんがここにいる理由は何となく分かった気がする。
だったら佐久間さんがここにいるのはどうしてだろう? 今の口振りからしてひょっとしてという考えはある。それにあの人の顔、最初見た時にどっかで見かけたことがあると思ったんだ。もしかして――
「もしかして佐久間さんって聖剣、持ってるんですか?」
「? そうよ、だからあなたと同じなの。日本で2人だけの聖剣保持者なんだから、仲良くしましょうね!」
や、やっぱり~~~!? この人が日本にある唯一の聖剣を持つ人だったんだ!!
「お前が積極的にコミュニケーションを取るなんて珍しいじゃないか」
「そりゃそうよ! 聖剣のこともあるけど、この子色々と面白そうなんだもの。スキルのこともあるしね」
「はぁ~……宮内くん。これが厄介に感じたり何かされたらすぐに私に言うんだぞ! すぐさま駆け付けて追っ払ってやるから! そうだ、そのためにも連絡先を交換しておこう!」
「あんたがやると犯罪チックな絵面ね――でも私とも交換しましょ! ほら、早く端末だして!」
「は、はいっ!」
こうして話を始める前に、私は何故か管理局の一番偉い人とS級シーカーさんと連絡先を交換する羽目になったのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
少し遅れましたが、お待たせしました!
前回のトレントから少し離れて管理局に呼び出された小花のお話でした。そしてようやくここで小花のフルネーム『宮内小花』のお披露目と、持っているスキルについての言及が出来ました……!
さてこの話し合い(面談)はどんな結果になるのか? 続きをお楽しみに!
また読んでみて面白い、続きが読みたいと思ってくださったら★評価やいいね、感想などを送って下さると嬉しいです! よろしくお願いします!
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