1-2章 聖剣女子高生『田中花子』!
第7話 アレを求めて
ダンジョンに入って早速モンスターと遭遇した。
「「「グルゥゥ……」」」
私の前に立ち塞がって鋭い歯をむき出しにしているのは、グレーウルフと呼ばれる灰色の狼の姿をしたモンスターである。
このグレーウルフはとても狂暴なモンスターで、まあ他のモンスターもそうだけど人間の姿を見ると容赦なく襲い掛かってくるのだ。
……そんなグレーウルフが私の目の前には三匹もいる。
「というか何で初っ端から群れに遭遇するのぉ!?」
:やっぱり運が無いんじゃないか、花子ぉ~
:ゴブリンキングのレア湧きといい、確かにツイてないな
:ある意味なにか憑いてる気はするけどなwww
:リアルラック低そう
:おみくじで皆が大吉とか吉とか引く中で1人だけ凶とか引いてそう
:くじ引きとか絶対に当たったこと無さそう
「失礼ですっ!? 私だっておみくじで大吉を引いたことぐらいありますし、くじ引きで一等大型テレビだって当てたことあるんですから!!」
「「「グルルル!!!」」」
「ひぃっ!?」
失礼なコメントに反論していると、息つく間もなくグレーウルフたちが襲い掛かって来た。
「そりゃっ!!!」
「「「!!?」」」
慌てて聖剣を横にブンッと一振りして、バットを振る要領でグレーウルフたちをぶっ飛ばす。すると自分でやったはずなのにそうとは思えないぐらい、三匹のグレーウルフがまとめてふっ飛んで行った。
ふっ飛んだ先で頭を振りながら立ち上がろうとするけど、今の一撃でかなりのダメージを与えられたのかまともに立ち上がることが出来ないでいる。
そんな三匹の元に駆け寄って一匹ずつ慎重に止めを刺していった。
「ふぅ~……なんとかなりましたっ!」
:いや、おかしいだろ!?
:三匹まとめて殴ってたぞ!?この子!?
:前の動画でグレーウルフ一匹に苦戦してたはずなのに……
:まあゴブリンキングを相手に出来るんだから今更か
:筋力お化けで草
:筋力にステータスを全振りした女、田中花子
:剣を完全に鈍器として使ってたぞ!?
:これじゃ聖剣じゃなくて聖剣(鈍器)じゃねえかよwww
「なんかこの剣を使ってると不思議と力が湧いて来るんですよね~。お陰でグレーウルフぐらいならまとめて倒せるようになりましたっ!」
:ん?てことはあの時のアレは剣由来の力って聞こえたが?
:ゴブリンキング戦の切り抜きから来ました!あの光に包まれて戦うやつが見たいです!
:剣によるバフ、てことか?
「あ~!? そ、そこら辺はまあいずれ話しますのでその時までのお楽しみにってことで!?」
:分かり易く誤魔化したなww
:やっぱりその剣に秘密がありそうだな
:何かしらあるとは思ってたけど
「い、今は秘密です!! そのうち話せるようになったら話すので!!」
危ない危ない……慌てて誤魔化してで何とか事なきを得た……
お察しの通り、私は聖剣のことを今はまだ隠している。
何でかと言えば、Mさんに暫くはそうした方がいいと忠告を受けたから。
――聖剣という武器は世界で10本しか確認されていないぐらい貴重なものだ。
それはつまり強さを求めるシーカーであれば誰もが欲しがるということ。例えば聖剣を譲って欲しいと声を掛けられたり、パーティ―に誘われたり。それにひょっとすると無理矢理にでも奪い取ろうとする人もいるかもしれない――そんな風に言われたのだ。
もしそんなことになれば私の身が危険だし、もしかすると家族や周りにも迷惑や危険が及ぶかもしれない
だからもう暫くの間、私の持つ剣が聖剣であるという事実は伏せることにした。
ただ管理局はこれが聖剣であるということを知っている。ギルドでアイテム鑑定してもらったんだから当然だよね。それもあって聖剣がらみで何か困ったことがあればすぐに相談するようにとMさんには口を酸っぱくして言われている。
じゃあいつまで黙っているのかと言うと、少なくとも私を襲ってでも強引に聖剣を奪い取ろうとする人がほぼいなくなるまで。
つまり……私の知名度がもっともーっと上がって色んな意味で今よりもずっと強くなる時まで。
その為の目標は、チャンネル登録者数――100万人!!
100万人のためには10万人、10万人のためには1万人、1万人のためには――という感じで、今はまず1000人を目指して頑張っている! 登録者が増えるのは私的にもどんとこい!って感じだし高い目標を持つのはいいことだ。だから頑張るっ!
と、そんな風に内心では意気込んでいた今日のダンジョン配信。
途中に出てくるモンスターを倒しながら、目的のアイテムが入っている宝箱を探していた。
「さて、宝箱がある場所はどこだろう……下調べしたときはこの辺りって書いてあったはずなんだけど……」
基本的に宝箱の位置というのは、そのダンジョンにおいて変わることは無いらしい。
だから先駆者たちが入手したダンジョン内部の情報はギルドで有料で販売されている。ちなみにこの情報料はその情報の提供者にも一部、報酬として渡されているんだとか。
だからもし、私が新規のダンジョンの誰も知らない情報を持ち帰ってギルドに売ればそれだけで収入を得ることが出来るという寸法だ。
まあ、そういうのは最前線を走るトップシーカーか、管理局から直接依頼されたベテランが任されることが多いらしいんだけど。今の私には縁遠い話である。
でもいつかはそういう仕事を任されたり、発見できるようにはなりたいよね!
「う~ん、こういう目印が無い場所は地図が見ずらい……」
:田舎道とか走ってると無性に不安になってくるよなあ
:俺は目印があっても迷う自信があるぞ
:そんなアホな自信は捨ててしまえww
:最近じゃ紙媒体の地図を使うのなんてシーカーぐらいな気もする
:まあ端末じゃ充電とか壊れたときに使えなくなるからなぁ
:でも最近の機種ってそこら辺めっちゃ改善されてきてるよな?
:紙の地図を持ちながらの冒険……いいねぇ
「あっち、ですかね?――あ、なんかあそこっぽい」
ギルドから買ったマップには、宝箱は植物の蔦が壁のようになって入り口を塞いでいる洞窟の中にあると書いてある。
確かに近くには石壁の一面が緑色で学校とかでよくやるグリーンカーテンのようになっている場所があった。しかも他のところは岩肌がむき出しになっているのにそこだけ緑に覆われている。
「言われてみれば、確かに怪しさ満点ですね~。この荒野みたいなダンジョンでそこだけ植物があるっていうのもある意味分かり易い。じゃあ早速行ってみましょう!」
近づいてみると、植物の壁のように見えたそれはただ本当にカーテンのように風に揺られてゆらゆらとしている。そしてその先には壁ではなく、空洞が広がっているのが分かった。
「ここですねっ! それじゃあ早速宝箱を見にいってみたいと思います!」
グリーンカーテンを潜って空洞の中に入ると、外と比べてひんやりとした空気が肌に触れる。
岩の隙間からはどこからか差し込む陽の光が中を照らして特に見えにくいとかは無い。それどころか写真に残しておきたいぐらいいい雰囲気を醸し出している。
そんな洞窟の中央に、まるでこの空間の主は自分だと言わんばかりに日差しのスポットライトに照らされた宝箱が鎮座していた。
「おぉ……なんか幻想的な光景ですねぇ……」
:おお~……
:確かにこれは凄い
:ダンジョン専門の写真家がいるのも頷ける光景だ
:そんな職業があるんか!?
:実際現実じゃあり得ない光景が平然と見られるからな、ダンジョンは
:モンスターバトルは嫌だけど、こういうのを見るためだけに行ってみたいとは常々思ってる
「――っと、見惚れてる場合じゃないですね。取り合えず宝箱の中身を確認しましょう! ここの宝箱は罠の類は仕掛けられてないそうなので、普通に開けちゃいます」
ちょっと雰囲気のある宝箱の縁に手をかけて蓋を開ける。
中を覗き込んでみると――
「あ! ありました――皮の鞘!!」
中にあったのはアンティーク調を感じさせる少しくたびれた感じのある皮の鞘だった。
:なにそのボロい鞘?
:そんなのが欲しかったの?
:ん~、それって確かサイズ調整機能が付いた鞘だっけ?
:あ、それワイも使ってるぞ
「そうなんです。実は今使っているこの剣が鞘無しの状態で手に入れて持ち歩くとき結構大変だったんですよ。今日だって歩いているときに足にこつこつ当たって地味に痛かったですし。それで難易度が低めのこのダンジョンにサイズ調整機能が付いた鞘があるって知って取りに来たんです!」
:そういうことだったか
:なるほどな
:ダンジョンから見つかる武器類って鞘とかが無いこともよくあるもんな
:ただその剣だとギャップが凄い気もするなww
:よく見れば年代物っぽくてカッコいいな。俺も使いたい
「それじゃあ早速使ってみますね!――」
宝箱から皮の鞘を取り出してその中に聖剣を納める。
今のままだとぶかぶかの状態だけど、すぐにサイズ調整機能が力を発揮して聖剣ピッタリのサイズになる――はずだったのだけど……
――パアンッッッッ!!!!!
「ひゃ!!?」
瞬間、皮の鞘が弾け飛んだ。
「え、な、なんで!? どうして!?」
:え?
:ん?
:あっ
:はい??
;えっ?
:えぇ!?
:何が起こった?
:鞘に剣を入れる、鞘弾け飛ぶ、以上
:解説サンクスwww
:いや解説いらんだろ!見りゃ分かる!
:サイズが……大き過ぎたのね……
:はいセンシティブで通報しました
:え、なんでそうなった?
鞘は跡形もなく弾け飛んで当たりにはその残骸が散らばっている。
聖剣が差し込んでくる陽光を反射して「やってやったぜ!」みたいな顔をしてピカピカと輝ているのが無性に腹立たしい……
「そんなっ、せっかく見つけたのにどうして?…………ということで、目的だったアイテムが消えて無くなってしまいました、ちくしょー!!」
:撮れ高とれだか
:こんなの初めて見たwww
:こんなこともあるんだなぁ~
:面白かったからよしとしようやww
:サイズ調整機能が付いてるのに何が原因なんだ……?
:一瞬で無くなって草
:剣が傲慢過ぎたんだよ……
「えっと、取り合えず目的の物は見つけたので――消し飛びましたけど。今日の目的はこれで終わり。後は帰り道でモンスターを倒しつつ、出口付近で配信を終了したいと思います。もう少しだけお付き合いください……」
皮の鞘が無くなってしまったことで完全に意気消沈しつつ、洞窟を後にしようとした時だった。
「……ん?」
岩がごとりと動くような音が聞こえた気がした。
まさかモンスターかっ!と思って振り返ってみるも、それらしき姿は見つけられない。
:どしたん?
:何かあった?
「いえ、何か変な音が聞こえた気がして……」
:音……?
:そんなの聞こえたか?
:いや特に何にも聞こえなかったが?
:さっき壊れた鞘の怨念が――
:あの鞘のさぞ無念だっただろうからなあ……
「怖いこと言わないっ! ごめんなさい、ちょっとだけ調べます。なんか気になるので」
気のせいだったら気のせいでいいんだけど、何故か感覚的にそれを見逃してはいけないような気がした。
洞窟内は全体がむき出しの岩肌になっているからどこで音が鳴ってもおかしくはない。だけどさっきの音は私から見て宝箱がある方向から聞えてたはずだと思い、入り口から挟んで宝箱の向こう側の壁を調べてみる。
石ころ自体はあちこちにごろごろ転がっているから、正直さっきのがどれが原因で起こったのかは判別がつかない。
だから壁から石が転がり落ちた音なんじゃないかと推測して、壁に何かないか観察する。
暫くそうしていると、一か所岩肌に穴が開いている場所を発見する。
「ここ……向こう側に続いてる?」
何か更に奥がありそうに見えたので、それを確かめるためにバックパックからライトを取り出して穴の中を覗き込む。
見えたのは壁ではなく、真っ暗な空間だった。
「よし」
ライトをしまって、今度は聖剣を引き抜く。
「頑張れ~頑張れ~、お前なら出来る、出来るぞ~! オークやゴブリンキングだって切れたんだ、こんな壁ぐらいどうってことない! きっとバターを切るみたいにするっと切れるぞ~! 頑張れ~!!」
:なんかやり出したwww
:剣に念らしきものを送っている田中花子の図がこちらです
:剣を励ましてるぞ
:剣を励ますとかいうパワーワードよww
:まさか本気で壁壊すつもりなの? そんなことできんの?
:無理だろwwダンジョンの壁とかめっちゃ頑丈で並みの武器とか力が普通に無理ww
:俺、試したことあるけど一撃で武器と腕がイカレちまったぜ……
:お前さてはバカだな?
「いける~いけるぞ~…………よしっ!! どりゃああっっ!!!」
大きく振りかぶった黄金剣を穴の壁に向かって振り下ろす。
金属同士がぶつかるような甲高い激突音が洞窟内に反響する。加えて腕が痺れるぐらいの衝撃が剣を伝って襲い掛かってきた。
「~~~~!!」
一瞬、腕が無くなったんじゃないかという衝撃が駆け抜けて悶絶させられる。
でも……やった甲斐はあったようだ。
黄金剣を叩きつけた壁がガラガラッと音を立てて崩れる。
そして壁が崩れたその先には道が続いていた。
:うっそだろ!?!?
:なんでー!? なんで壁壊せるの!!?
:いや、壁壊したのもそうだけどこれって新発見じゃね?
:このダンジョン行ったことあるけど、こんなの知らない!!
:外から見た時はこんな奥行感じなかったのに。明らかにおかしい……
:え、てことはマジで新発見じゃね?
:も り あ が って き た ! !
:うおーー! 俺達の花子がやりやがったぞー!!!
:マジかよ……
:はなこ! はなこ! はなこ!
:よっしゃー!! そのまま未踏破領域の探索じゃー!!
今日の配信はもう良いとこ無しで終わるかとも思ったけど、まだここからが本番らしい。
もうひと頑張り、しますかっ!!!!!!
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
さてさて今日はこんな感じでした~。
この隠し通路の先には何が待ち受けているのか!? また明日、次の更新をぜひともお楽しみに!
そして早いことにこのタイトルも次回で10話を迎えます! ここまで追って下さって本当にありがとうございます!引き続き頑張ります!
読んでみて面白い、続きが読みたいと思って下さったら★評価といいね、また感想の方を送っていただけると嬉しいです!執筆の励みになります!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます