第16話 大学

「それじゃあ、行こうか」


「楽しみだわ。一体、どういうところなのかしら。ジーナ、留守番お願いね」


「いってらっしゃい、えりざちゃま」


玄関前でジーナの見送りを受けながら、タケルとエリザは大学へと向かう。自転車は1台しか無いため、タケルがこいでエリザが後ろに乗る事になる。エリザは自転車に乗ったことが無いし、仮にすぐに乗れたとしても男が後ろに乗る絵面はよろしくないと思われる。


「はあ、はあ、はあ」


「大丈夫? なんなら、私走るよ?」


エリザは今のタケルの自転車よりも早く走る事は余裕なのだが、それだと目立つ。


「はあ、はあ、はあ、ダメだよ、街中の目が、気に、なる、しっ」


「それじゃあ、せめて軽くするわね」


エリザはタケルのお腹に片手を回し、もう一方の手でサドルを掴む。そして、少しだけ浮かんで軽くした。


「負担はどう?」


「すごく軽いよ! まるで、電動アシスト自転車みたい」


実際は、そのまま完全に浮かばせて運んだ方が早いのだが、そっちのほうが走るよりも目立つことは理解しているためやらない。タケルは軽くなった自転車をこいで、遅刻することなく大学へ着くことが出来た。


「へぇ、ここが大学なのね。初めて見たけど、結構神秘的なのね」


「……違う、僕の知っている大学と違うよ。なんで、学校から樹が生えているの!」


タケルの言う通り、今まで無かった樹が校舎を貫通していた。エリザの世界の樹がこちらに来たのは分かるが、普通、この状態ならば大学の授業を再開したりはしないだろう。せめて、樹を取り除いてから考えるべき事だろう。


「そうなの? まあ、どう見てもあの樹は私の世界のものだし。というか、魔素の放出量がありえないほど多いわね。何、あの樹」


「あら、あなたは魔物ね」


反射的に、エリザはサイドステップして離れてから戦闘の構えを取る。そこには、にこやかに微笑んだ美しい女性が立っていた。


「誰?」


直前まで気が付かなかったが、認識した今では莫大な障壁を張っている事が見て分かる。しかし、見てわかるだけで、やはり存在を感じる事は出来なかった。


「自己紹介が先よね。私は、この大学の新しい理事で、リナリアと申しますわ」


「理事? あなた、どう見ても私と同じ、魔物よね?」


「はい。私はハイエルフですわ。この世界に、ユグドラシルと一緒に送られて来ましたの」


「あれが、ユグドラシル? 実物を初めて見たけど、とんでもない代物ね。あれ1本あれば、この国、いえ、時間があれば世界中の魔素濃度を上げることが可能よね」


「はい。ですが、樹を移動させることは出来ませんので、私達はここに住むことを決めましたわ」


「ちょっと! 新しい理事ってどういう事?! え? ハイエルフが理事? どういう事!?」


タケルは、混乱している。エリザが居るので魔物だと言われてもそれほど驚くことは無かったが、それが自分の通っている大学の新しい理事となれば話は別だ。何より、人間でもないリナリアがどうやって理事になったのか。


「私の術を使えば、どうという事はありませんわ」


リナリアは、指を軽く振ってタケルに術をかける。すると、あれほど混乱してあたふたしていたタケルが、一瞬で冷静になった。


「なるほど。それで、授業はもう始まるんですか?」


「ちょっと、何をしたのよ!」


急に理解を示したタケルに、エリザはリナリアに向かって不信感を抱く。


「私がここに居てもおかしくないという認識を埋め込みましたの。便利ですのよ? いろいろと。まだ、この世界の事を詳しく理解したわけではありませんが、穏便に過ごしていきたいと思っておりますの」


「とりあえず、敵じゃ無いって事でいいのかしら?」


「はい。よろしければ、あなたもその方と一緒に大学に通われますか? 私の権限で、簡単にできますよ」


「いいの? それなら、よろしくお願いするわ」


エリザは、あっさりとリナリアに懐柔されるのだった。

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アフター 斉藤一 @majiku77

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