正しいラーメン【ショートショート】
伊垣 幹志(いがき みきし)
正しいラーメン【ショートショート】
「大将、醤油ラーメン、トッピングはシナチクで」
日本、地方都市の国道沿いのラーメン屋のカウンター。客席には、サラリーマンの男が1人。時刻は深夜1時。
「お客さん、そこはメンマと言ってほしいですね」
大将は、たしなめるように言った。
「…すみません」
「シナというのはね、あなた。よろしくない言い方ですよ」
確かにそうだ。
支那(しな):外国人の中国に対する呼称。…中略…中華民国成立後,日本政府がことさら政治的意味をこめて使い,日本の大陸侵略と結びついて蔑称的性格が強められた結果,第2次大戦後は使用が避けられるようになった。
『世界大百科事典』平凡社
他方で、シナチクはシナチクだし、それがしっくりくる言い方で、他意はない。それはそれで、或る食い物の観念に過ぎない、という考えもよぎった。
戦時中に、野球の横文字が敵性言語というので、ストライクを「よし一本」とか言っていた、なんてことを聞いたこともある。それは流石にバカバカしい言葉狩りだと思うが、蔑称と受け取られる表現となると、擁護するのも難しいな。など考えながら、ズルズルと醤油ラーメンをすすって早々に店を出た。背徳の深夜ラーメン。味はフツーだが、深夜テンションでエモさマシマシ。70点。
**
それから随分と経った別日、日本州、人民通り沿いの拉麺屋にて。
「大将、中華そば、メンマ載せで」
店には男とその娘。
「メンマ?固有名詞はやめてくださいよ、あと、中華そばというのもね。固有名詞ですよ。旧称メンマは配給食料付属品番号1919-1919で、旧称中華そばは、配給食料主要品番号4545-4545です。というか、同志、大将というのは止めてください。」
男はため息をついた。統治が変われば、常識も変わるのだ。我が国もかつてその節は…
「パパ、みっちゃんも同じやつたべるー」
「小さな同志よ、米帝の言葉の使用は厳に慎むのです」
30点…いえ同志、100点です。偉大なる総書記閣下にマンセー。
**
またそれから月日は流れ、フジヤマ・ストリート沿いのヌードルショップにて。
「マスター、カリフォルニア・ヌードル、トッピングはシーズンド・バンブー・シュ―ツ」
カウンターには、1人の老人。
「Ha、Ha。クレイジーなボリュームにしておくぜ!」
そういって供されたのは、竹筒に盛り付けられてマヨネーズとアボガドが大量に載せられた、どう見てもUDONだった。0点じゃボケ。
おわり
★他の作品はこちら
🦜近未来SF「彼方の恵宇羅」全12話完結🕊️
正しいラーメン【ショートショート】 伊垣 幹志(いがき みきし) @bird1989
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます