第93話 たまには2人で
「まさか、2年生になってから速攻で免許を取りに行くなんてな……生き急ぎすぎだろ」
「1年生の時に免許取った人間には言われたくねぇんじゃないか?」
「それはまぁ……俺は別枠って言うか」
「自信があるからそんなこと言ってんのか?」
「自分に自信を持ってない人間がまともに成功できる業界じゃないと思うから、自分に自信を持てないなら魔術師なんてならないことを推奨する」
山城と学園の近所にあるラーメン屋へと昼飯を食いに来ているのだが、話題に上がるのは同級生の2人のことばかりである。
4月になり、俺たちも無事に進級することができて最初の1週間が経過した週末に、桜井さんと遊作が同時に召喚士の免許を取得しに行ってしまった。2年生になってまだ1週間しか経過していないのに、さっさと免許を取ってやりたいことをやらないと駄目だ、みたな話をしていてびっくりしたもんだ。
「まぁ、あの2人には召喚士になってからやりたいと思ってることがあるんじゃないか?」
「俺にはなかったみたいな言い方だな」
「なんでだよ。俺は自分の話をしてるんだけどな」
「なに、魔術師の免許を取ってからやりたいこととか、ないの?」
「逆に、今の段階で免許を取ってからやりたいことが明確に決まってるあの2人の方がおかしいって言うか……普通、高校生で将来のことを真面目に考えたりしないだろ」
「しないな」
する人間もいるんだろうが、少なくともうちの学園に通っている生徒たちは、免許を取得して高給取りになる、ぐらいのことしか考えてないやつが大半だと思う。自分の中に揺るぎない柱となる信念を持って、学生として学び続けていた桜井さんと遊作がおかしいだけってのは認める。
山城が悩んでいることについて、既にダンジョンでモンスターと何度も対峙している俺からアドバイスをしてやろう、なんて思ったが、召喚士と魔術師は魔法を使ってモンスターと戦うこと以外に似ている部分がないので、俺からはなんとも言えなかった。
「まぁ、ここのラーメンぐらいは奢ってやるから」
「マジ?」
「これでも、給料は結構貰ってるからな」
学生だからって無賃でダンジョンに入っているわけではない。召喚士になってすぐの頃は国から金を貰っていたし、組織に所属してからはそっちから金を貰っている。そこら辺の学生よりは遥かに金を持っているのだから、そこら辺は遠慮なく頼って欲しいものだ。
「はぁ……魔術師になって、それからダンジョンに入ってモンスターと戦って……それ以降の人生が、あんまり想像できないって言うかさ」
「教師とかなれば? 稲村先生とか、召喚士やめて教師やってるぞ?」
「俺が教師なんて人間に見えるか? それに、稲村先生はどっちかって言うと、教師よりも研究者だろ」
「研究するために教師になった部分もあるだろうけど、彼女は俺たちをしっかりと導いてくれているし、本人も教師になったんだからしっかりと生徒の面倒を見なきゃって思ってるぞ」
研究目的と純粋に教師として後輩を育てたい感覚、半々ぐらいの気持ちであの人は教師になってると思う。ただ、本人が自覚していなかっただけで、誰よりも教師として他人を導く才能があっただけだ。
「魔術師じゃないから俺から言えることなんて殆ど無いけど、学生時代に選択したことなんて、将来では絶対に後悔することになるんだから、なるべく広い選択肢を選んだ方がいいぞ」
「絶賛学生時代を犠牲にして働いている奴が言うと、あんまり説得力ないな」
「俺はやりたいこと見つけてるからいいんだよ」
元々は才能あるって言われたから召喚士になっただけで、俺だって真面目に考えて入学なんてしてない。今の俺には、自らの力を人助けに使いたいって目的があるけど、そんなことを思うまではマジでなんにも考えてなかったんだから。
「魔術師科の中ではどうなんだ?」
「めっちゃ遠ざけられてる」
「いや、お前の人間関係の話じゃないって」
そもそも、お前が遠ざけられる人間なのは知ってるんだよ。元々、パツキンヤンキーで人に対して威圧感しか与えないような見た目だし、不良仲間からは召喚士とつるんでいる軟弱な裏切り者って扱いだろうからな。
「俺が聞いてるのは成績だよ」
「母親みたいなこと聞くなよ……別に、普通だろ」
「そうか? 正直、今のお前なら魔術師科の中でもトップクラスの戦闘能力だと思うけどな」
「弱い相手に対して本気出しても仕方ないだろ?」
「授業で手抜いてんのか? それは、学園からの成績が悪くなるだろうな」
「悪いなんて言ってねぇだろ」
「悪いんだろ?」
「……まぁ、平均よりは下かもしれねぇけど」
「平均より下って、実は半分より遥かに下の可能性だってあるんだからな?」
平均なんてのは突出した誰かがいるだけで、簡単に数値がおかしくなる指標なんだから、過信してもいいことなんてないんだからな。
俺が山城のことを魔術師科の中でもトップクラスだと思うのは、実際に何度も手合わせをしているからだ。互いに本気でやっているわけではなくても、そこそこの回数を戦えば相手がどれくらいの実力者なのかなんて、簡単にわかってしまうものだ。だからこそ、俺は山城が既に学生として括ってはいけないぐらいの実力者であることも知っている。
「昔は他人の才能に嫉妬して暴走していたヤンキーだったのになぁ……」
「誰が才能に嫉妬してるだ。俺は別にお前のことなんてそこまで意識してなかったぞ」
「知ってる。でも、お前は魔術師科の中で自分が才能ないと思ったから、魔法生物科の人間に威張っていたわけだろ?」
「……まぁ、そうか?」
「どう考えてもそうだろ」
あの時の山城は、格下を甚振ることが心の底から楽しいって顔をしていたが、同時に自分より上の人間に対して怯えていた。だから、稲村先生に止められた時や、俺と決闘してボコボコに負けた時は殺される直前の草食動物みたいに縮こまっていたし、それが解消された今は、自分より格上の存在である遊作や桜井さんを見ても、そこまで心を乱したりしていない。
「俺、魔術師になってから成功すると思うか?」
「知らん!」
「おい」
「本当に知らないからな。でも、諦めなきゃなんとかなるんじゃないか? 少なくとも、お前は足切りされるほど才能がない人間ではないと思うぞ」
どれだけ否定しようとしても才能という絶対的な壁はこの世界に存在しているし、それによって夢を諦めなければならない人間なんて大量にいる。だからどんな人間も努力すれば夢は叶うなんて綺麗ごとを口にするつもりはない。まぁ、山城はそもそも才能がない人間ではないと思うから、俺はなってもいいと思う。
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