第56話 予兆
「……君は結構暇人なのか?」
「自分で呼び出しておいてその言い草ってどうなんですか」
個室のカフェに入って指定された場所へと座ると、しばらく経ってからグリズリーさんがやってきて……最初に暇人呼ばわりされた。
「いや、学生なのに呼んだらすぐに君はこうして来てくれるだろう? だから暇人なのかと思ってな……それとも我々が聞いている以上に君はあらゆる人間から冷遇されているのか?」
「冷遇はそこまでされていると思ってないですよ。そして俺は暇人なんじゃなくて友人が少ないだけです……そして数少ない友人もクソ真面目なやつばかりなので遊びに行くことなんてないんです」
「……強面のおっさんである俺が言うのもなんだが、学生の頃は存分に遊んだほうがいいぞ? 大人になってからも召喚士として働くことはできるが、学生として青春を謳歌するなんて大人になってからは絶対にできないんだからな」
「はいはい」
「わかっていないな……大人はな、誰でも学生の時にあれをやっていればよかった、これをやっていればよかったと後悔する生き物なんだよ。だからこうしてお節介だと言われることがわかりながらも若者に──」
「いや、お節介とか以前に、俺は割と仕事でここに来てるんですけどね?」
なんだよさっきからこの会話は……割と無駄な時間じゃねえか。
先に頼んでおいたコーヒーをブラックのまま口にしながらグリズリーさんの話を遮ると……なんとなく呆れた感じの溜息を吐かれた。
「君はコーヒーの好みといい、少し大人になり過ぎではないか?」
「いえ? 俺はまだまだクソガキですよ。世間のことだって何も知らない……ちっぽけなクソガキです。召喚士としての力は充分にありますけど社会経験がないし、現実をしっかりと認識できるだけの経験値だってそれほどありませんから」
「そこまで自己分析できるなら充分に大人だと俺は思うがな。はっきり言って、高校生はもっと馬鹿をしているものだぞ?」
「世間的にはそうかもしれないですけど、友達がいなくて1人で生きてる高校生は大体こんなもんですよ」
「そ、そうか……」
ぼっちはかわいそうだなみたいな反応をするのはやめろ。
「それで、なんの用なんですか? まさかこんなくだらない話をする為に呼び出した訳じゃないでしょう?」
「あぁ……まず、君にこれを」
「……カード?」
「国際召喚士機関に所属していることを示すカードだ。これがあれば外国で何回も召喚士の免許を取得せずにダンジョンに入ることができる……まぁ、国際免許みたいなものだと思ってくれて構わない」
「なるほど……これを与えられたってことは、俺は正式に所属したってことでいいんですか?」
「そういう認識で構わない」
へぇ……なら、俺はこれで国際的な人間になった訳だ。後で母さんに連絡して自慢してやろう……多分驚くだろうけど。
「あ、俺にもコードネームとかないんですか?」
「無い」
「え」
「……俺の場合は色々と事情があって本名を明かせないからコードネームを使っているだけで、機関に所属している人間は殆どが本名で活動している。と言うか、そもそも君が思っているような極秘機関ではないからな? ネットで調べればすぐに出て来るぞ」
「そう、なんですか」
「なんで露骨にテンションを下げた。そういう所は男子高校生らしいんだがな」
俺、ドラマのスパイみたいな組織に所属したもんだと思ってたのに。
「それで、本題は君に1つ仕事を頼みたいと思っての呼び出しなんだが」
「いきなりですか? 海外とか行けとか言われてもパスポート持ってないですよ?」
「いや、日本国内だ」
「なら大丈夫ですね」
「あぁ……悪魔の巣の調査をお願いしたい」
「また?」
ちょっと前に悪魔の巣でデビルドラゴンとかいう結構辛い敵と戦ったばかりなんだけど……なんで俺はこんな悪魔の巣と関りがあるの?
「先日、悪魔の巣でユニークモンスターが確認されたという報告は見た。同時に、新種が上層で見つかっているとも……だから、その原因の調査をお願いしたい」
「新種はデビルドラゴンのせいで下から押し上げられただけでは? そのデビルドラゴンは周囲のあらゆるモンスターを捕食して能力を蓄え続けていた怪物でしたから……それ以上に調査することがありますか?」
「そうか、君がその報告をした召喚士だったのか。機密だから誰が報告したのかまでは教えられないと言っていたが、私が声をかけたあの日が丁度その悪魔の巣に向かっていた時なのだな? なら話が早い……昨日、下層部でデビルドラゴンと思わしき存在を確認したと言う報告が来ている」
「は?」
ちょっと待てよ……ユニークモンスターなんて10年単位で姿が見えないのが当たり前なぐらいに、発見されることが稀なモンスターなんだぞ? それが……ここ数日で2体? しかも俺が倒したばかりのデビルドラゴンが発見って……悪魔の巣で何が起きているんだ?
「この国の協会と話し合った結果……これは非常事態であると双方の意見が合致した。故に、こちらからも人員を送り込みたいと思っていたのだが……デビルドラゴンを討伐した実績があるのならば君に任せたいと思う」
「非常事態……つまり、悪魔の巣が決壊するかもしれない、と?」
「あぁ……君には新たに発見されたデビルドラゴンの調査と討伐、そして更に奥への調査をお願いしたい。危険な任務になることは承知してくれ」
「……わかりました」
悪魔の巣は都心のど真ん中にあるダンジョンで、もし決壊しようものならば……数時間で1000万以上の人が亡くなるであろうことは確実だ。そうならないように日本の魔術師や召喚士が日夜、悪魔の巣に潜って数を減らしていると言うのに……それを嘲笑うかのようなイレギュラーの連続。やはり……ダンジョン内のモンスターを減らしてバランスを取るなんて、所詮はその場しのぎでしかないのだろう。
「君が、やってくれ。もし原因もわからずに、そのまま悪魔の巣が決壊することになったら……人類史に残る悲惨な事件になるであろうことは間違いない」
「他の人員は?」
「日本の実力者を招集中だが、もっとも早く動けるのは君だ。こちからからも人員を確保して既に何人か送り込んでいるが……目立った報告はない」
「……かなりの人間が動いてるんですね?」
「あぁ……それだけ、切羽詰まった状況だ」
仕方ない……ここは俺も参加してなんとかしよう。
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