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僕は何も言えなかった。

理解が追いつかない、という表現のほうが正しいかもしれない。

「お前が聞いていたそれは、魚の声だ。この海氷の下で口を開け、魂を待つ間抜け共の」

彼はそう忌々しげに吐き捨てて、果てへの行進は尚も続けられる。

「魚はもう魚では無い、お前らが食っていたのは過去の残像だ」

「……残像、ですか」

僕らの食卓に並ぶ魚は、どれも色が無い。灰色の鱗の下に刃を滑らせると、中から覗く肉は硝子のように透き通っている。手触りはぶよぶよで、焼けば多少香ばしい香りはするが一瞬でそれも掻き消えてしまう。

残像だ、と言われてみれば確かにそうにも見える。だが、僕らの生活の中でそれは異常と言うにはもう遅すぎる程、それが当たり前になっている。

「この世はじきに滅びる」



僕らの住む国は、魚の存在によって成り立っている。それを他国に売り捌き、いつの間にかこの世界で1番大きな国になっていた。

「俺は救わん」

──魚は、この世界において生命線だ。

海が枯れ始め、魚が取れなくなってから既に幾つもの国が亡びた。残った魚を巡る争いが起き、残された国は残り僅か。こんな状況でなければ、僕は彼の言葉を信じなかっただろう。

「言われてみれば、魚以外にも食べる物はあるのに」

「もうそれに気付かぬ程、内を啄まれ尽くしているのさ。俺達以外は」

草や木の実、動物の肉だってある訳で皆がこぞって魚に固執する必要なぞ何処にもない。

この世界の全てが、何処かで歯車が違え始めている。

「呪いだ」

のろい、と、その彼の言葉を口の中で反芻する。何の、誰の呪いなのか、と頭を巡らせる内、ふっと脳裏を鳥が飛ぶ。

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