【死に役転生】開始5分。冤罪の悪役として死体になるのは嫌なので生き残ることにしたんだけど、ストーリーが始まる前に鍛え過ぎたらしい。

いな@

第1話 転生したのに毒を盛られたようです

 緊張で胃がひっくり返る……。


 ギロチン台に固定された俺。メイクさんに――


『顔色悪いわよ? 大丈夫?』


 ――と、聞かれたくらいだ。


 もちろん『大丈夫』と答えたが、正直言うと逃げ出したい気分だ。


 すでにギロチンに固定されているから逃げることもできないけどな……。


 だけど夢にまで見た名前のある役だ。やるしかない……気合いで緊張を吹き飛ばすぞ! 吐きそうだけど……。


 開始一番のシーンだ。ここをコケさせるわけには行かない。目を閉じ死に役ドライに意識を変えていく。


 目を閉じていてもわかる。メイクさんが離れ、大道具さんたちも処刑台からはけていく。


 ……そろそろだ。


 来た――





 雑踏の騒がしさと、ドライに向けられた罵詈雑言が肌に突き刺さる。


 処刑が始まるんだ――



 クソ! なんでだよ! 俺はなにもしてない! やったのは親父と兄たちだろ! ねえ! 話をさせて! これを外してくれ! お願いだ!


『っ! 生意気に――が役に入りやがったぞ! 急げ! 斬首シーン行くぞ! 時間もねえから一発勝負だ気合い入れやがれ!』


『『『おお!』』』


『カウントダウン行きますっ! 開始5秒まえ!  ――3! 2! ――――』





「国賊ドライ。最後に言い残すことはあるか?」


 猿ぐつわが外された。


 やった、これで俺の無実を――


「待ってくれ! 俺じゃない! 俺はやってないんだ! 話をさせてくれ!」


「聞く気はないがな。殺れ」


「待って! やったのは――」


 ズダァーン――



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 ……どこだここ? 確か斬首シーン撮ってたよな俺。倒れたのか……まだ胃のあたりが気持ち悪いし……。


 ……っと、こんなことしてられない、早く現場に戻らなきゃ。監督や撮影スタッフにも迷惑かけてしまったからまずは謝罪だな。


 それに意識は朦朧としていたけど、演じきった記憶はある。声も出ていた。表情も苦しさや必死さは表現できていた。と思う。


 撮られ具合はどうだったか気になるし……うん。聞きに行こう。


 撮り直しじゃなければ良いが……。


「よっと。おろっ」


 そんなことを考えながら寝ていたベッドから降りたんだが、目線が変だ。……低い、し、な、ん、だ、コレ。こんな、セットこの現場に無かったぞ……。


 体を見下ろして、さらに違和感が凄い。


「は? なん、だ、コレ……」







 混乱のあまりセットと思っていた部屋から飛び出し、正面の上り階段を駆け上がったところにいた、メイド衣装を着た女性に話を聞いてわかったことがある。


 ・演者仲間と思っていたメイド衣装の女性は本物のメイドだったこと。

 ・ここがクリーク辺境伯家であること。

 ・飛び出した部屋は俺の部屋で、クリーク辺境伯家の城の裏にひっそりと建っている下級使用人用の屋敷にある地下室だってこと。

 ・名前がドライ・フォン・で、クリーク辺境伯家の三男で十歳ということ。

 ・燐国との国境、辺境を護る武門の家系にもかかわらず、武術系のスキルを持ってなくて、家族からもバカにされていること。


 そして――


 ・映画の演者死に役として撮影していた『Become a legendary adventurer(日本の作品名:伝説の冒険者になろう)』と言う、海外で爆発的にヒットした作品の世界だってこと。


 日本でもハリー・○ッター以来の、大ヒットファンタジー小説。その冒頭で死ぬドライ・フォン・クリークに転生しているってこと。


 ……マズい。確かドライが首チョンされるのが十五歳の設定だったから五年後に死ぬ。


 罪状は国家転覆を企んだ罪。バチバチに小競り合いが続く燐国を手引きして、クリーク辺境伯家の領地を売り渡そうとした罪だった。


 他にもついでとばかり、色々な罪を着せられ国賊と呼ばれるようになる。


 クライマックスで真実はあきらかになるが、すべてクリーク辺境伯当主、ドライの父親が彼に被せた罪だ。


 なんて父親だよ。


 話を聞いているうちに混乱は天元突破してしまい、逆に落ち着いてしまった俺は、情報を整理するため地下室に戻ってきた。が、どうすれば良いか……。


「食事をお持ちしました」


 そんな時に扉がノックされて声が聞こえたので入ってもらう。


「こちらに用意しておきます」


「ありがとうございます」


「え?」


「ん? どうかしました?」


「い、いえ。では失礼いたします」


 一人用の小さなテーブルにパンが置かれ、本物のメイドさんが部屋を出ていくのを見送る。


 マジもんのメイドかぁ。今の子も話を聞いた子もみんな西洋美人だよな……。まあ、俺も西洋風のお子さまだけどね。


 鏡があったので映してみたんだが、BLにも、ショタにもまったく興味は無かったが、そんな俺でも可愛いと思える顔だった。


 将来的にイケメン間違い無しだと確信できるレベルだ。


 ……なら、今回の映画、キャスティングミスだぞ。うぬぼれではないが、そこそこではあったが、ここまでのイケメンじゃない。


 転生したドライの容姿については満点をやろう。でだ。置いて行かれたパンだが……なんだこれ……手に取り木製の皿に軽くぶつけてみる。


 コンコン……は? 固っ! なにこれパンだろ!? パンが出す音じゃないよね!


 か、噛れるのか…………。


 ガリッ……。


 ……歯が立たないよ! 石じゃねえか! だけど、ご飯はこれしか置いてないから食わないと駄目だよな。


 悪戦苦闘しながらなんとか一口千切り、口の中でふやかして柔らかくしてみたんだけど……。


 マズいよ! 味無いよ!


「マジでなにこれ……。でも食べないとやっぱり駄目なんだろうか……別の物に交換して……くれないだろうな」


 ぐぅ。


 一口食べたからか、体はこのパンらしきものを欲しがって声をあげている。わかったよ。


 ヒョロガリのドライには唯一の栄養素がこのパンだったんだろ。なら俺も食わなきゃな。


 ……二口目で、さらに一つ言いたい。こんなパサパサなの食べていたら口の中が乾いてしまうわ!


 仕方ないのでポットの水でふやかして、口に放り込んでいく。


 たまに苦いところがあったり、ガリッとマジで石が混ざってたり、『腐っても貴族だろドライって……』と、ボヤキながらも拳大のパンを食べきった。


「コーヒーか紅茶でもあればいいのにな」


 メイドさんが一緒に持ってきてくれた、ポットの中身は生ぬるい水だけだ。


「さて、どうするか」


 まだまだ空きのある胃袋を、水でごまかしベッドに座る。固いな。


 そういえば必要なスキルが無いからクリーク家の恥なので、人目につかない使用人の寮、それも地下の独房に入れられてるって言ってたよな。


 独房って、犯罪者かよ! ……あそうだ、スキルだ。


 ん~、スキルだけど、どうやって見るんだ? もしかして『ステータス』とか言っいいい! ななな、なんか出た!


 目の前に半透明のモニターみたいなものが出て、内容は――


 名前 ドライ・フォン・クリーク Lv3(微毒)

 年齢 10歳

 性別 ♂

 技能スキル

 ・固有 雜?カ願? New

 ・通常 鑑定

 ・耐性 毒耐性(小)New 物理耐性(小) 魔法耐性(小)

 HP 2/9

 MP 9/9

 称号 クリーク辺境伯家三男

    転生者


 といった文字が表示されている。


 わかってたけどマジでラノベの異世界転生じゃん! てかさ……。微毒ってなに!? HP減ってるし! 毒耐性あるってことはそれで助かってるってことかよ!


 いや、落ち着け。HPが見てる間に3に回復したから死ぬことはないようだ。


 ……いや、毒耐性にNewが付いている。俺が身体を乗っ取ったときドライは毒で死んでいたのかも知れないな。


 目の前のテーブルの上にある空になったポットとカップ。それにパンが乗っていたお皿。


 毒入りだったのだろう。だとすると、よく原作で十五歳まで生きられたよな。


 それに文字化けしてる固有スキル『雜?カ願?』ってなんなんだよ。これもNewだし……。


 思わず文字化けしているスキルを指先でつついた。すると、文字化けしてまったく何かわからなかった文字が読めるようになった。


「は? 超越者?」


 さらに押すと、細かい説明が表示された。

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