BLUE おさかなのうた
さとうきいろ
BLUE おさかなのうた
ゴーストのささやきめいて午前二時響いているのはさざ波だった
海底に届かないもの ひかり、こえ、ポテトチップス、せんそう、へいわ
おそらくは人魚の因子が残ってて本能的に拾うシーグラス
潮風で錆び付くチャリのガタガタ音あれがぼくらの鳴き声だった
夏休み明けのプールよ独特な生態系を育んでくれ
ああなんてインスタントな海だろうコンビニで買うカットスイカは
ぼくたちはテキオー灯も持ってない この街以外どこへも行けない
光すらない本当の無は黒い 瞼を閉じてぜんぶを消した
カニコロの中身が蟹かカニカマか見分ける方法知っていますか
冷凍のシーラカンスの(本当は眠ってるだけ)剥がれた鱗
(ねえ君、ほんとうは宇宙人なんでしょ。大丈夫、いま子どもしかいない)
月に棲むクジラの寝息が地球まで届く時間を1永遠とする
外国へたどり着けないボトルレター海底の墓地でずうっとねむる
とうめいな体で濾過した陽光はひんやり(死んで)消える(昏く)
シーラカンスの脳は五グラム魂の重さはだいたい二十一グラム
あなたから連なる系統樹のどこにカカポやぼくはいるのでしょうか
水底で朽ちる鯨を家として育てば世界は果てまで鯨
「特殊なライトで光るサンゴに初めて光を当てた人すごいね」
ほのほのと発光している透明な体にひとつの世界が詰まる
水槽の中と外との隔たりは三億五千年の堆積
生き残る意志なんかなくてただここに揺蕩う繋げるそして死んでく
深海の冷たさ思う水槽の結露をぬぐうカニと目が合う
水圧を忘れたきみに感情を押しつけるようににんげんの群れ
蓮の葉に溜まった水に生命が生まれて進化し滅ぶを幻視す
日本って島国だねえと君が言い展望台でアイスが当たる
手で掬うおっとっとこれがぼくの海三十秒でぜんぶ頬張る
安全に生きたい死にたい輪廻したいジャッカロープになって跳びたい
もしふたりエビに生まれ変わったらヒカリキンメダイを一緒に見よう
帰宅部にすればよかった夕暮れの空と海との境い目が好き
想像して ヒト科の最後の数頭として強引に番わされる日
青藍のソーダで体を満たしてく 世界とぼくの浸透圧の差
指切りを 宇宙の果てを見てきても決して君を起こしはしない
深海よ 遮光し真暗な寝室でシーラカンスとシーツを泳ぐ
退化した浮き袋には古代魚の記憶がうっすら膜を張ってる
この街はちいさなちいさなビオトープ海や空からときどき異物が
冷房のないラーメン屋で隣席がかちわり入りのビールを頼む
繰り返す絶滅作法モノクロの無声映画を倍速で見る
ひとりの日、水族館の暗がりでむかしのことを後悔してた
意味のあることなのだろう指が出来、君を愛撫できる進化は
睡蓮が世界を覆いこの街は緑と青とピンクで埋まる
入水ってする気はないけどわかるよな、夜の海って見つめていると
夏ごとに進む素麺アレンジと過疎化していく商店街と
生ぬるい湯船でうたう鼻歌のおさかな天国アタマを食べよう
時間すら捻じ曲げる青 来世ではアノマロカリスに生まれるだろう
軍艦のシラスの瞳がこわくって未来をぜんぶいただく気がする
ぼくの骨を砕いたものを水槽に敷いて金魚を育ててほしい
あの頃はチャリで通った道行きをタクシーで行く見知らぬ景色
炭酸の泡を見つめるしか出来ずそのまま夏は終わってしまう
海のない街へと帰る恋人は青い絵の具で心臓を描く
メンダコのぬいぐるみを抱く飼い猫に午後二時の陽が差し込んでいる
BLUE おさかなのうた さとうきいろ @kiiro_iro_m
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