第60話
「花乃ってさ」
ぽんぽんと穏やかにあたしの背中をたたいていた手の動きが、とまる。
「不器用だし、時間はかかるけど、さいごにはいつも、人としていちばんいい道を選ぶよね」
「……ふぇっ?」
涙をぬぐって顔をあげると、そこには真剣な顔をした夏陽がいた。
「からかわれたり意地悪されたりたまにするのも、たとえひどいことされたとしても、花乃はぜったい人を傷つけることできないってみんな知ってるからなんだよ」
ふいに、夏陽の口元がかすかにほころぶ。
「優しすぎるって意味。わかる?」
どうしてかわからないけど、その言葉をきいたら、よけいに涙があふれ出た。
「それってみんなにできることじゃないよ。あたしはそう思ってた」
そう言うと夏陽はぐっと眉毛を持ち上げて、ついでにこぶしも持ち上げて、勝気な笑顔を作った。
「胸張って、プライド持てよ」
その言葉に一粒の雫が頬をつたって、落ちた。
「純くんが、そう言ってくれたって言ってたよね」
そのさきに見えたのは、クリアな世界。
ぽんっと最後に少しだけ強く背中をたたかれる。
「花乃が一番だと思う方法を選んだら」
「――」
夏陽はそしていつも、つたないあたしの言葉を、わかってくれる。
泣いてちゃだめだ。
こぶしの裏でぐっと目をこすって、あたしはうなずいた。
ありがとう、夏陽。
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