男の人らしい指の隙間から、男の子らしい へら、とした笑みが覗いて。


ぶわ、と紅騎の紅が伝染した。



“正直”。


今紅騎が口にしたそれは、ボクが経験者たちから学んだ机上ただの熟語を所詮付け焼き刃に過ぎないと素手でぶん殴った。


こう、使うのか。伝えるのか。


こうしたら、言われた相手はこんなにも嬉しくなるのか。

勉強になる。



「だよな、嫌な奴もいるよな。

ごめんな。もう純のベッドに立ち入ったりしねーから」


ごめん。紅騎は繰り返してから頭を下げた。


ボクはあまりの衝撃と感心、目から溢れる鱗に伝染した頬の紅を振り払うように、紅騎が見ていないのお構いなしに首を横にぶん回した。



「それで、純はもう飯食った?」


腹減ってねぇ? と覗き込まれ、「さっき頂きました。それで多分お腹いっぱいになって寝ちゃって」と答える。


「えーー! 一緒に食いたかったのに」


二度目の拗ねたような表情を見て、気が付いた。紅騎はボクがまだご飯を食べてないと思って、お風呂の後食堂に行く前に誘いに来てくれたのか。もしかしたら食堂の開放時間も知らないだろうとお腹が空いているのに案内を兼ねてくれようとしたのかも。


「ごめん。折角誘いに来てくれたのに」


自分が今日の夕飯なしの身であることを伝えようとしたら、紅騎の方から「誘い? あぁ」と返ってきた。


「誘いに来たっつーか、あー…湊にあれこれ自慢されたのは部活終わって着替えてる時で、それで部屋に直行したかったんだけど流石に初対面で汗臭かったら印象わりーよなと思って即行風呂だけ入ってきたって感じ」


だから俺が腹減ってるのに純が謝る必要はねーわ、と笑う。



「さ、じゃー飯食ってくるかな。 寧ろ起こして悪かったな」


紅騎は「先寝る時電気消していいから」と加えながら立ち上がった。それを自然に追ったボクは、足元でしゃがんでいた姿からは想像もしていなかった彼の背丈に目を丸くした。


「え」


「え?」



脚、長……!!


本当にこれ、紅騎を怒らせてもボクの高校生活は終わりを迎えるかもしれない。


この腕で殴られてもこの脚で蹴られても回避出来なさそうだから。




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