第53話 デート(1)

 そして、ドキドキのデート当日。

 とか言うとガキみたいだが、実際人生初デートと言っても過言ではないし、相手がシンカだと色々チェックが厳しそうなのでいろんな意味で緊張する。


 約束の15分前に時計塔に着く。

 待たせると怒られそうなので、気持ち早めに来てみた。

 そして、その3分後にはシンカが来た。


 あぶねぇ、あぶねぇ。


「ちゃんと早めに来たようね」


 そう満足そうに言うシンカの格好は、紺色の着物で、裾はスリットの様に分かれており、そこから惜しげも無く美脚が覗いている。

普段はもっと広がる裾で、その代わりスパッツを履いていることが多い。


 正直目のやり場に困る……。


 そう言う俺の格好はというと、黒いライン入りの白シャツに紺のジャケット、デニムという、普段よりはちょっと気を遣った格好だ。


「ふーん……まぁ合格ね。

 まぁ私が縫ったんだから当然だけど」


 どうやら服装チェックをされていたらしい。


「で、少し早いけど飯でいい?食堂混み合うし」


 里に食堂は2つしかないので、特に昼間は大抵の人が食べに来る。


「いいわよ」


 そんな訳で、時計塔からすぐ近くにある食堂に向かった。




「おぅ。コウにシンカじゃねーか!

 珍しい組み合わせだな。遂に付き合いだしたんか?」


 店に入るや否やヤスのからかう声が飛んできた。

 第一声がそれかよ。

 『遂に』ってなんだ。


「違いますよ。ヤっさん、唐揚げ定食1つ」


「私は焼き魚定食ね」


 大人数入れるようにだだっ広い店内には、既に30人程の先客がいた。

 ヤスの大声の所為で、皆がからかいの目線を向けてくるが気にしない事にする。


「はい、おまち〜」


 ヤスの奥さんであるサトが料理を運んできてくれた。

 厨房ではヤスが子供達3人をしごきながらフライパンを振っている。


「ジュンの調子はどうっすか?」


 サトさんに長男の事を尋ねる。

 この里では16歳前後で一人前と見なされ、徐々に世代交代してくることが多い。

 ジュンは来年16だ。


「コウちゃんのはジュンが作ったのよ。食べて確認してみて頂戴」


 にっこりと笑って厨房に戻っていった。

 ここ1年、少しずつジュンが出す料理が増えてきた。

 少し前まではジュンが作ると一言添えていたが、言わなくなったということは、ヤスが作るものと遜色なくなったということかも知れない。


 一口唐揚げを頬張る。


「ん、美味いな」


 これなら十分だ。ヤスの事だからまだまだ現役続行だとか言いそうだけど。

 ともかく、忙しい厨房に有能な料理人が増えるのはいいことだ。


「へぇ。1つ頂戴」


 シンカは俺の返事を待たずにパクリと頬張った。


「うん。しっかりヤっさんの味ね。

 世代交代してからどんな風に自分の味に変えていくか楽しみだわ」


 そう。そこが世代交代の醍醐味である。

 勿論伝統の味もあるし、人気が高いものは味を変えない事が多い。

 しかし、世代交代してからは自分なりにどう変えようと自由だし、新しいメニューを増やすのもありだ。

 実際ヤスの代で50品はメニューが増えたらしいので、今の子供達は受け継ぐ味が多くて大変だろう。


 それから、異世界のことを話題に食事は進み、店が混み合う前に出た。


「そこ、寄ってくか?」


 俺は食堂の3軒隣にある、硝子屋を指差した。


「いいわね。行きましょ!」


 シンカのテンションが目に見えて上がる。

 シンカがこの店によく行くことは知っていた。と言っても、今回の為に調べた訳ではなく、仕事でここに訪れた時にシンカがいる確率が高いので覚えていただけだ。


 店に入ると、繊細な細工が施された硝子の置物やコップ、ステンドグラスなど大小様々なものが目に入る。光に反射して店中がキラキラと輝いて見えた。


「あら、いらっしゃ〜い。

 ――あら、あらあらあら」


 奥の作業場から出てきたキヨ姉が、俺達を見ながらおっとりとした動作で口元を抑える。


「どうぞごゆっくりぃ〜」


 と言いながらまた奥へと引っ込んだ。


 『あらあら』だけで全てを悟った顔をしないで欲しい。そして、大方合っていそうなのが怖い。


 キヨ姉はキノ兄の妹で28歳。嫁ぎ先のこの硝子屋と実家のカラクリ雑貨屋の店番を交替で行っている。


「何だか意味深な笑みを投げかけられちゃったわね」


「明日にゃ広まってるだろうな」


 キヨ姉は噂好きだ。明日とは言わず夕方までに広まりそう。


 狭い里で気にしてもしょうがないので、商品を見て回る。

 こういう場合って、何か記念に買ってやるべきなのか?いや、でもそんな仲でもないしな。

 一人で自問自答している間に、シンカが「キヨ姉、これの取り置きお願いできる?」と話をすすめていたので、俺は大人しくしておくことにする。

 一通り見てシンカが満足したところで店を出た。



「あ!シンカ姉ちゃんにコウ兄ちゃん!

 やっぱ噂は本当だったんだ!!」


 出て早々にツチネに見つかった。


「噂って?」


「2人がラブラブデート中って!」


「誰がラブラブだって!?」


 勝手につけんな!

 どこをどう見たらそう見えるんだ。


「誰って――みんな言ってるよ」


「あんた顔怖いわよ。色々憶測で噂たつのなんて目に見えてたでしょうが」


 確かにそうなんだけど、こっぱずかしいものはしょうがない。


「そうだけど……ガラじゃねーし」


「ガラとかどーでもいいわよ。

 ツチネ、今デート中だから後でね」


「はーい!」


「おい! お前がそういう事言うと余計尾ひれが付くだろうが!!」


「うるさいわね。で、次どこ行くのよ?」


 くそ! これのどこがラブラブだ。

 完全に俺が尻に敷かれてるだろうが。


「あっち、行くぞ」


 不本意ながら人が集まってきそうなので、絡まれる前に移動することにした。

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