朝風呂に入りました

 ―――チャプン……


俺は入浴中である。楓ちゃん家の風呂は本当に広くてキレイな風呂だ。朝風呂気持ちいい。

これでサウナや露天風呂もついてるからな。旅をしているような気分になれる、中条グループのパワーを風呂からも感じた。


しっかり洗えてスッキリした俺は風呂から出た。

タオルで髪を拭きながら全裸でフゥッと息を吐く、その瞬間だった。



―――ガララッ


脱衣所のドアが開いた。

楓ちゃんが入ってきた。



「―――」


「―――」



俺と楓ちゃんは目が合った。

2人ともピシッと固まって言葉を発することができなかった。


楓ちゃんは長い髪をポニーテールにしてランニングウェアを着ていた。すごく可愛くて似合ってるよ、うん。でも今は彼女の服装を褒める余裕が一切ない。

楓ちゃんは少し汗をかいていて、少し吐息が乱れていた。ほっぺたもちょっと赤くてエロい。艶かしくて情欲を煽られた。しかし今は欲情する前に大きな問題がある。


まあ楓ちゃんがどんな格好でもどんな様子でも問題ないんだよ、ちゃんと服を着てるんだし。楓ちゃんは何も問題ない。

その……問題は俺の方だ。



俺は、入浴直後なので素っ裸でスッポンポンでフルチンなんだ。

正確にはタオル1枚を持ってるんだけど、そのタオルは首にかけてて髪を拭いているので、それ以外のすべてが楓ちゃんの前でそのままにさらけ出されていた。


タオルで髪を拭きながら歩いていて、楓ちゃんが入ってきた瞬間にピタッと止まったとはいえ、男の部分だけはブラブラと揺れていた。


この脱衣所の空間すべてが時間が止まったみたいになってるのにチンチンだけが止まらずにブラブラしていた。なんでよりによってそこだけが止まってないんだ。ただでさえ恥ずかしい部分なのに際立ってしまうだろうが。

脱衣所は俺の裸体から沸き立つ湯気でいっぱいのはずだが、今この瞬間は暖かさを何も感じなかった。


楓ちゃんも時間が止まったみたいにピクリともせず止まっているのに色だけが変わっていた。

雪のように白くぷにぷにしてそうなほっぺたが瞬時にリンゴみたいに真っ赤に染まっていった。そして美しい瞳を大きく見開いた。



「―――~~~ッ……!!!!!!」



早朝なので悲鳴は上げない。でも声にならない悲鳴を上げて、楓ちゃんは真っ赤に染まった顔を両手で覆って反対側を向いた。

俺も反応が遅れたが、慌てて自分の股間を両手で隠した。俺も声にならない叫びを出し続けた。




―――




 「ごめん、楓ちゃん!」


入浴を終えて出てきた楓ちゃんに、俺は頭を下げた。

入浴時間は決まっているのにそれ以外の時間に勝手に風呂を使った俺が悪いんだ。ちゃんと謝る。


楓ちゃんの頬が火照っているのは入浴後だから、というだけではないのは恥ずかしそうな表情を見れば一目瞭然だった。

湯上がりの楓ちゃんはすごく艶かしくてエロいけど、今は謝ることだけをしろ。



「ううん、好きな時に自由に使っていいって言ったの私だし……こっちこそごめん。まさかこんな朝早くに涼くんがお風呂に入ってたとは思わなくて……」


その通り、本当はこの時間は俺は寝ている時間のはずだった。普段は寝てる時間に急に風呂に入ったりしたら楓ちゃんには回避不能だ。俺が悪い俺が。



「涼くんが朝風呂なんてめずらしいね。ていうか私の家に来てから初めてじゃない?」


「そ……そうだな、初めてだ……」


普段から朝風呂入る習慣つけておけばよかったか……? 普段使わない時間に使ったから不自然さが出てしまった。


「今までは入ってなかったのに今日はどうしてこんな時間にお風呂入ってたの?」


「うっ……!」



楓ちゃんに問われた時はなんでも正直に答えたいとは思っている。

しかし今回ばかりは言えない。これだけは絶対に言えるわけがない。

楓ちゃんとエロいことをする夢を見たせいで夢精をしてパンツの中が大量の精液で気持ち悪かったので洗いましたなんて言えるか。ましてや夢の中に登場したご本人になんて……言えない。言えない言えない。言ったら恥死する。


しかし、答えられないということは後ろめたいことがあると白状しているようなもので……ごまかそうとしても言い訳が思いつかずやっぱり何も言えずにさらに不自然さが増した。


「…………」


「…………」


ジーッ……


楓ちゃんは頬を赤らめながらジト目で俺をまっすぐ見つめていた。ジト目の楓ちゃんも吐血しそうなくらい可愛いが、その視線は俺の羞恥心に大穴を開けた。

この目……ほぼ察してしまった感じだろうか……楓ちゃんはそれ以上追及してくるようなことは言わなかった。楓ちゃんの優しさが、逆に恥ずかしかった。



「か……楓ちゃんは……いつも朝に風呂入ってるのか!?」


恥ずかしさに耐えられずに話を逸らそうとした。


「私、休日の朝は近所をランニングする日課があるから。ランニングした後に軽く汗を流しているの」


「そ、そうだったんだ」



俺休日の朝はなおさらぐっすり寝てるから知らなかった。学校の日は楓ちゃんがめっちゃ早起きして俺の弁当を作ってくれてるのは知っていたが、休みの日も早起きして頑張っていたんだな。

早起きしてランニングとかすごく理想的な休日の過ごし方じゃないか。簡単なように見えて実際にやってみるとかなり大変なことだ。それを難なくこなす楓ちゃんはすごいな。すごくてかっこいい。


それに比べて、俺は……エロい夢見て夢精して空しくパンツ洗濯……なんだこの格差は。休日の過ごし方の落差が激しすぎて俺ってなんで生きているんだ……って気持ちになる。



「とにかく、さっきのは不幸な事故だよ涼くん。どっちが悪いとかじゃなくてお互いに謝るのはやめよう」


「そ、そうだな……」



事故か……確かに、女の子と一つ屋根の下で暮らしているんだ。風呂でバッタリ遭遇なんてラッキースケベなイベントが起き得ることは容易に予測できたはずだ。できる限り気をつけていたつもりだったが、それでも事故というのは起こるものということだ。


でも普通は女の子の裸を見ちゃうというイベントのはずだよね。なんで逆なんだよ。なんで俺のサービスシーンが発生してるんだよ。もはやラッキーでもスケベでもねぇんだよ誰得だよ。

……いや、これでいいんだ。恥をかくのは俺だけでいいんだ。楓ちゃんに恥をかかせることにならなくて本当によかった。

……よかったんだけれども……!


スケベで最低な俺は、どうせ事故が起きるんだったら楓ちゃんの裸を見たかった……!!!!!! と、心の中の悪魔がでかい声で叫んだ。

風呂に入る時間がもう少し遅かったら素っ裸の楓ちゃんと遭遇できるイベントが発生してたかもしれないと思うと……強い後悔でやるせない気持ちになった。

こんな気持ちになること自体最低なのはわかってるが、どうしても心の悪魔の暴走を止める術が見つからなかった。



「……涼くんさ、どうせ事故るなら私の裸を見たかったとか思ってない?」


「うっ……!!」



また楓ちゃんに心を読まれた? 見透かされた? いや読むまでもないか、頭を抱えて悔しそうに嘆いてて、あまりにも感情丸出しでバレバレか。



「涼くんのエッチ」


「ごめん」


返す言葉もございません。



「涼くんが私の裸を見ようだなんて100万年早いよ」



楓ちゃんはそう言って、両手で胸を隠すような仕草をして、ジト目で睨んできた。

楓ちゃん、そういうのは男を煽ってるからやめた方がいいぞ。俺は興奮してるぞ。


100万年早いのかぁ……100万年後は裸見てもいいのかな。100万年後というと俺は1000024歳か。俺生きてるかなぁ。

いや、今のままの俺じゃ何億年かかっても楓ちゃんの裸を見る資格はないな。そんな安いもんじゃない。

パンチラもそう、そう簡単には見れないから燃えるんだ、うん。



「次からはこういう事故が起きないよう、使用中の札を扉にかけとくようにしよう」


楓ちゃんはそう提案した。


「使用中の札……?」


「うん、お風呂を使用中だってことがわかれば脱衣所に入ったりしないでしょ? 何か異論はありますか?」


「……ありません」



つまりこれで、札を無視しない限りは家で楓ちゃんの裸を見れる可能性はほぼ断たれたというわけだ。

…………残念だなんて思うなよ、俺。これでいいんだ、うん……事故が起きたら次は起こらないように対策するのは当然のことで大事なことなんだ……

納得はしているものの、心の中で血涙を流す俺であった。

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