秘密基地で上書きしました
―――
「安村様~!」
「どこですか安村様ーっ!」
放課後、俺を追いかけ回す女子生徒たち。
俺はその子たちから逃げ回った結果、今は草むらに隠れている。
ああ、慣れない……放課後になってもこの状況に本当に慣れない。こんな俺が女の子に追われる立場になるなんて予想できるわけがなかったしマジで脳がバグりそうだ。
俺が女の子の尻を追いかけ回すのは容易に想像できるけど、逆の立場だぞ? こんなことあるか、早く目を覚ましたまえ生徒たち。俺はアイドルじゃない、ただのスケベなんだよ。
これ以上女子生徒に囲まれると心臓が持たないので隠れてやりすごす。もう放課後だしそろそろ帰らなきゃだしいつまでもここで隠れるわけにもいかないよなぁ……
「涼くん」
「わっ、楓ちゃん!」
急に俺の背後に楓ちゃんがスッと現れた。忍者みたいな登場をする。
俺の服に発信器がつけられているからどこに隠れていても楓ちゃんには居場所がすぐにわかるのだ。
「他の女を避けてるんだね、偉いぞ涼くん」
「というかビビってるだけだけどな」
「じゃあ、帰ろっか」
放課後になったら、楓ちゃんは車を呼び、車で一緒に帰る。
生徒会長だから放課後も忙しいことが多いけど、俺は楓ちゃんの生徒会が終わるまで待って、それで一緒に帰っている。
というか恥ずかしながら俺1人じゃ帰れないんだ。この辺は見知らぬ土地だし、楓ちゃんの家からそこそこ遠いし、交通費も持たされてないし。
楓ちゃんがいないと帰れないようにすることで、俺が学校から脱走するのを防いでいるというわけだ。いや万が一でも億が一でも脱走なんかしないけど。
どっちみち発信器つけられているんだから逃げられないのにな。念には念を、って感じなのか? 俺は徹底的に楓ちゃんの手のひらの上なのだ。
「―――と、言いたいところだがっ」
楓ちゃんはピタリと足を止めてビシッと人差し指を立てる。可愛い。
「その前に、ちょっといいかな? 涼くん」
「え、ああ……」
どっちみち楓ちゃんがいないと帰れないんだし断る選択肢はない。何の用かは知らないがいくら時間がかかっても付き合うつもりだ。
楓ちゃんについていったら、そこは俺も来たことがある場所だった。
「ここは……」
校舎の一部、ここは、つばきちゃんが秘密基地と言っていた場所だ。
外からじゃよくわからないが謎の部屋がここにある。つばきちゃんがここでサボることが多いと言っていた。
なんでここに楓ちゃんが……?
「忘れるところだったよ。ここが
「愛の巣!? 何その言い方!?」
「私がいないスキにこの部屋で野田先輩とずっといたんでしょ? 発信器でちゃんと確認したから間違いないよ」
「誤解招くような言い方しないでくれ! 堀之内さんに襲われて一時的に避難させてくれただけだよ! つばきちゃんはここでサボってただけで……それでたまたま俺を助けてくれただけだから!」
「個室で他の女と2人きりだったことに間違いはないでしょ?」
「う……」
本当に徹底的だな楓ちゃんは。徹底的に徹底的を重ねて他の女の子と起きた出来事を一つも見逃さないつもりだ。楓ちゃんの執念と発信器のパワーの組み合わせは最強と言える。
「楓ちゃん、俺は決してつばきちゃんに手を出したりなんてしてないから。前にも話したけど友達になっただけでそれ以外のことは何もないから!」
「うん、大丈夫。涼くんが学校で生徒に手を出すような人なんかじゃないってちゃんと信じてる。ただ、涼くんが他の女と2人きりだった時間が存在すること自体が許せないだけ」
楓ちゃんは部屋のドアをパカッと開けて、中の様子を確認する。
「わぁ、狭い部屋だね。こんなところに男女2人が入ったらイヤでもイヤラシイ雰囲気になっちゃうよねぇ……
うっ、野田先輩の匂いがすごくする。吐きそう……」
吐きそうとか言いながら楓ちゃんはその秘密基地に入っていった。
「ちょっ、楓ちゃん!? 勝手に入っていいのか!? つばきちゃんの秘密基地だって言ってたのに……」
「ここ学校の一部だから。野田先輩のじゃないから。勝手に学校の一部を私物化しないでいただきたい。生徒会長としてサボり場所を認めるわけにもいかない。
野田先輩なら今は部活中だから大丈夫。今なら野田先輩に邪魔されることもない」
楓ちゃんは、つばきちゃんの秘密基地の中で壁に寄りかかるようにして体育座りをした。
つい視線が楓ちゃんの下半身に……体育座りの生足とニーハイソックスが俺を悩殺し股間を刺激する。
というかミニスカートで体育座りなんてしたら、スカートの中が見えてしまうのでは……
そう思ったけど、楓ちゃんの足が完璧にガードして見えないようになっている。見えそうで見えない。ホッとしたような、ガッカリしたような……
そう簡単にはパンチラはさせないって言ってたもんな。見たいけどこのくらいで見ようとするなんて甘いということか。
「涼くん、おいで」
「え?」
「ここ」
楓ちゃんは自分のとなりをポンポンと叩く。俺も秘密基地の中に入って、楓ちゃんのとなりに座れということだろうか。
「え、なんで? どうしたんだ楓ちゃん」
「決まってんでしょ、上書きするの」
「……上書き?」
「うん、涼くんが他の女と2人きりで存在した場所が学校にあるなんてどうしても無理なの。野田先輩との想い出になってしまったこの場所を、私との想い出で上書きしてやるんだよ」
「想い出って……だから一時的に避難させてもらっただけで……」
「いいからここに座りなさい」
「……はい」
俺はペットだ。ペットの自覚が足りん。
俺はドキドキしながら秘密基地の中に入り、楓ちゃんのとなりに静かに座る。
「もっとこっちに来て」
グイッ
「っ……!」
狭いだろうと思って少し距離を空けたら、楓ちゃんが強引に引き寄せた。楓ちゃんの身体と密着する。
楓ちゃんは胸が大きいから、つばきちゃんよりも場所を取る。より触れ合う面積が広くなり、密着度も上がる。
こんなに狭い部屋で、楓ちゃんと2人きり……!
楓ちゃんのいい匂いが、あっという間に部屋中に広がる。薄暗い部屋に、ピンクの靄がかかったように見える。
これは、マズイ。俺の貧弱な理性が徹底的にいじめられる。ここは学校だ、間違いを起こしてはいけない。長い時間ここにいたら本当にマズイぞ。自慢じゃないけど絶対に我慢できない自信がある。
「涼くん……」
むぎゅっ
「ッ……!!!!!!」
楓ちゃんの腕が、俺に絡みついてくる。足も絡みついてくる。ギュッと抱きしめて、離さない。
楓ちゃんのいい匂い、柔らかい胸の感触、甘い吐息……そして艶かしい上目遣いで見つめてくる。
あまりにも強い色気に、俺はもうとっくに我慢の限界を迎えていた。早い、早すぎる。俺の理性弱すぎる。
陰茎に血液が溜まりすぎて、浮き上がった血管が破裂しそうになっていた。
我慢できないとは言ったけど本当に我慢できない。学校で間違いを犯してはいけないという理性も、楓ちゃんの女体を前にしたらいともたやすく折れる。
「消してやる……野田先輩の痕跡なんて塵一つも残さず消してやる……
この場所も……涼くんも、全部全部、私で上書きしてやる……私で塗り潰して、私の色に染めてあげる……」
むにゅむにゅと、たわわな乳を俺に押しつけて押し潰す。俺の左上腕部分は楓ちゃんの胸に挟まれている。
俺の首筋に顔を埋める。スリスリと頬擦り。ふぅ……っと甘い吐息が俺の首筋に吹きかけられる。
「~~~!!!!!! !!!!!! !!!!!!」
俺の中でビッグバンが起きた。本当にもう我慢できない。楓ちゃんが魅惑的すぎて自分を保つのがもう無理。
俺は楓ちゃんに手を出そうとするのであった。元カノの雲母への気持ちを整理できていないまま。
「―――とまあ、これくらいでいいかな」
スッ
「!?」
俺が手を出そうとした瞬間、楓ちゃんは俺からスッと離れ、秘密基地から脱出した。
俺は呆然とする。
「どうしたの涼くん? この場所を上書きしたかっただけだよ私は。
それと、涼くんが女にチヤホヤされまくっててちょっとモヤモヤしたから発散したかったってのもあるけどね。涼くん成分を補給できて私はスッキリだよ」
楓ちゃんはさわやかな笑顔で、俺に手を差しのべた。
楓ちゃんはスッキリしたらしい。しかし俺は……いいところでお預けを食らって寸止め、生殺しであった。俺のこの煮え滾った股間が、行き場を失った……
楓ちゃん……ワザとだろ。俺が我慢できなくなったのをわかってて焦らしただろ。
とんでもない焦らしプレイ、俺の飼い主様はドSだ。
ま、まあ、これでよかったんだよな。俺とんでもないことをしようとしていた。せっかく新しい職場を用意してもらえたのにそれを台無しにしかねないところだった。よく反省しないと。ここ女子校なんだからもっと心を強くしないと。
俺は猛省しながらも、差しのべられた楓ちゃんの手を握った。
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