楓ちゃんに跪きました
―――
その日の夜、楓ちゃんの家、夕食後。
場所は庭園。もうすっかり夜になってて広い庭園はけっこう暗くてホラー映画みたいな雰囲気あるぞ。
庭園のほぼ真ん中、楓ちゃんは立派なガーデンチェアに座っていた。椅子一つだけでもすごく大金持ちな雰囲気が出てる。そんな超高級感ある椅子に最強お嬢様な楓ちゃんが座っていてもう鬼に金棒だよ。
俺は楓ちゃんの足元に正座して座っていた。シートとか敷いておらず、地面にそのまま膝をついていた。俺の膝は土で汚れるだろうがそんなことは気にしない。
見下ろす楓ちゃん、見上げる俺。どこからどう見ても主従関係に見える俺たち2人。
俺の方が背が高いので俺の視線より上にいる楓ちゃんの姿はなんだか新鮮に感じる。下から見上げる楓ちゃんもとても可愛かった。可愛さと同時に威厳や威圧感に溢れていた。
「涼くん、これもお仕置きだからね」
「あ、ああ……」
楓ちゃんは腕を組み、足も組んでいた。いかにも偉い人っぽいポーズだ。
腕に乗っかるたわわな胸を下から見上げると圧巻だった。足を組んでいるのでパンツは見えない。楓ちゃんのパンツはそう簡単には見れないことになっている。なので今は絶対防御体勢だ。しかしそれがいい。見えないからこそエロい。禁断の領域絶対防御の太ももとふくらはぎも最高だ。
短めのフリルスカートからスラリと伸びる艶かしい生足。足を組んでいるとさらに妖艶な雰囲気が上がる。
しかもなぜか楓ちゃんは裸足だった。なんで裸足なのか聞いても答えてくれなかった。敷石の上を歩いてきたから足の裏はそんなに汚れてはいないと思うが、わざわざ裸足になっている意味は一体……
ていうか裸足だと生足がなおさらエロくなる。その生足が俺の真正面で俺を誘惑し、めちゃくちゃ目のやり場に困る。お仕置きなのに俺の中身は情欲で埋め尽くされていた。
これから何をされるんだろう……とドキドキしっぱなしであるが、この体勢のままかれこれ10分、特に何もされていない。
楓ちゃんは何もせずにただ俺を見つめているだけ。俺も楓ちゃんに見惚れて目を離せない。一歩でも動けば蹴られるだろうという確信があるから動くこともできない。これだけ美しくエロい足なら蹴られても本望だけどね。
「楓ちゃん……俺は何をすればいいのだ……」
「んー? 何をすればいいと思う?」
聞き返されちゃったよ。ペットなら命令を聞くだけじゃなく自分で考えて行動してみろということか?
あ~んなしだけでは許してもらえなかった。まだ怒っている。これはペット史上一番の由々しき事態だ。
楓ちゃんに好きになってもらえてるとはいえ、彼女の機嫌次第で捨てられて再び路頭に迷う可能性だってなくはないんだぞ、なんとかしないと。
怒っている女の子に機嫌直してもらうためにはどうすればいいのか……雲母とケンカした時はどうしてたっけ……楓ちゃんといる時に元カノのことを思い出すのはいいかげんやめろと思ってはいるけど、今は緊急事態なんで過去の経験からちょっとだけ参考にさせてくれ。
えっと、雲母を怒らせてしまった時は雲母の好きなプリンを買ってやれば許してもらえたっけ……でも今は食い物で許してもらう作戦なんてできないぞ、動けないからな。
どうすればいいんだ……ここでなかなか動けないのが俺のダメなところだ。
「涼くん」
「は、はい」
結局俺は何もできずに、痺れを切らして楓ちゃんの方から口を開いた。俺情けない。
「ちゃんと話してあげようか。今回私が怒っている理由」
「聞きたい。ぜひ話してくれ」
「まずはキミが野田先輩と友達になったこと……」
「それはわかっているが」
「それからもう一つ。いつの間にか野田先輩を下の名前で呼んでたけど何なのあれマジで。キミの口から『つばきちゃん』なんて言葉が出てきた時私吐きそうになっちゃったよ」
「うっ……それは……つばきちゃんに下の名前で呼んでって言われて……」
「私と野田先輩で呼び方が同じなのがムカつく。涼くんにとって私は野田先輩と同じなわけ?」
「いや、それは違っ……」
「何が違うの? 私以外の女を親しい呼び方しちゃってさ」
まずいな、呼び方の件で楓ちゃんはかなりおこだ。つばきちゃんって呼ぶことは決まったけど楓ちゃんの前では野田さんって呼ぶべきだったか……?
いやでも楓ちゃんとつばきちゃん両方いる時はどう呼べばいいんだという問題が。同じ学校だし楓ちゃんは飼い主だしつばきちゃんは友達だしで3人揃う機会は必ず何度もあるぞ。呼び方の使い分けはできん、統一しないと。
「……そりゃあ、友達なら下の名前で呼ぶのは何もおかしくないぞ。変な意味なんて何もないぞ」
「……私も友達止まりってこと?」
「えっ……」
そりゃ、楓ちゃんも現時点では友達だよ。今はそれ以上には進めない。楓ちゃんは何も悪くないし俺がすべて悪いんだが、まだ進めない。
しかし、言えない。言ったら殺される確信があった。
「私……こんなにも涼くんのことを想っているのに……! 友達でしかないなんて耐えられない……!!」
あっ、ヤバイ。瞳が闇に染まった。今まで溜め込んできた鬱憤が大爆発寸前まで来ている。楓ちゃんの肉体が、暴れ出そうとしている。彼女の背後に怒りのドラゴンが見える気がする。
あっ、そうか。学校では周りの生徒の目があったから我慢してきたけど、ここは楓ちゃんの家だ。ここでは思う存分自分の感情を解放することができる。
つまりこのままじゃ俺は死ぬ。ヘタレで行動できない俺だが、今回という今回は動かなくてはいけない。
―――スッ
「!?」
無意識のうちに俺がした行動は、楓ちゃんの素足を手で持つことだった。
右手でかかとを、左手でふくらはぎを、そっと優しく慈しむように包み込むように支えて持つ。
すると、暴走寸前だった楓ちゃんがピタッと止まった。
自分でも何やってるかよくわからない。なんで楓ちゃんの足に触れたんだ。
セクハラだろ、蹴られるだろと思ったが、楓ちゃんの足はピクリとも動かない。抵抗する意思を見せないということは、この素足を好きにしていいってことなのか。いやそうではないと思うんだが、吸い寄せられて一度触れてしまった魅惑の生足は、拒絶されない限り離すことはできない。
こうして実際に触れてみると、楓ちゃんの足は本当に美しくて、スベスベでピチピチで柔らかくて。傷や痣も何一つなくて本当にキレイで。爪もキレイに手入れされてて桃色に輝いている。
俺の脳は正常に機能しなくなる。楓ちゃんのことになるといつだってこの脳みそは役立たずだ。
脳が機能しなくなった結果、神経が細胞が、魂が勝手に動く。どうせ殺されるのならやりたいことをやりたいようにやってみる。自分の本能に任せる。
―――チュッ
「―――っ!?!?!?」
俺は、楓ちゃんの足の甲に軽いキスを落とした。
女の子の足に勝手に触れてキスするという行為は冷静に考えて気持ち悪すぎる。しかしキスせずにはいられないくらい艶かしい生足だったのでついしてしまった。蹴り潰されるのは覚悟の上だ。
キスした瞬間、楓ちゃんの足はビクッと震えたが、それは一瞬だけでまた動かなくなった。俺はゆっくり顔を上げて楓ちゃんの顔を見た。
「~~~っ……」
楓ちゃんのほっぺたは、真っ赤に染まっていた。闇に染まっていた瞳も、今は目がグルグルしていてちょっとだけ涙が浮かんでいて生気に満ちた瞳になっている。
楓ちゃん……メチャクチャ恥ずかしがってる……? 怒ってない?
ヤバイ、俺が悶え死にそうになるくらい可愛すぎる。
「ごめん、楓ちゃん……」
「っ……」
つばきちゃんと同じ呼び方してるのが相当気に入らなかったようなので、思い切って呼び捨てにするべきなのかもしれない。楓ちゃんではなく楓って呼んだ方がいいのかもしれない。そう呼べば喜んでくれるかもしれない。
しかしヘタレな上に脳が溶けている俺は恥ずかしくて呼べない。雲母はちゃんと呼び捨てで呼んでるのになんでだ。本当にダメだ俺は。
すぐに自己嫌悪コースに入っていくのも俺の悪いクセだ。切り替えろ、なかなか呼べないものを無理して呼ぼうとするより、伝えるべきことをちゃんと伝えるべきだ。
「俺、つばきちゃんのことは友達だけど……それで楓ちゃんとの関係が変わることは一切ないから。これまでと何も変わらないから。
つばきちゃんと楓ちゃんが同じ、なんてことはない。つばきちゃんより楓ちゃんの方が好きだから!
だから、どうか機嫌を直してくれ。お願いだ楓ちゃん」
ちゃんと跪いて、楓ちゃんの瞳をまっすぐ見つめながら言った。
「~~~っ……」
楓ちゃんと見つめ合う。楓ちゃんは視線を逸らし、俯いた。
「~~~っ……も、もう……しょうがないなぁ……」
楓ちゃんはそれだけ言って恥ずかしそうにさらに俯いた。
マジで可愛すぎる……申し訳ないけどここまで可愛い楓ちゃんを見れるならつばきちゃんと友達になってよかったってちょっとだけ思ってしまった。
俺が言うのも何だけど、楓ちゃんってけっこうチョロい。そこも可愛い。
飼い主を困らせるなんていけないペットだ俺は。でも普段振り回されっぱなしだったからたまには俺がちょっとくらい噛みついてもいいだろう。たぶん。
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