生徒の悩みはスルーできません

 楓ちゃんのペットを遂行する。

つばきちゃんと友達になる。

両方やると決めたが正直すごく足が震えてきて不安しかない。楓ちゃんはつばきちゃんをすごく嫌っているからな。しかしつばきちゃんをスルーする選択肢はない以上、楓ちゃんにわかってもらうしかないんだ。



「……楓ちゃん……ペットの分際で勝手なことして悪かったよ。

でもつばきちゃんが友達いなくて悩んでいたから。なんだか寂しそうにしてたから。だから友達になろうって言った。どうしてもほっとけなかった」


「…………うーん……!」



ベンチに座ったまま、楓ちゃんは腕組みをしながら俯いて唸り続けた。唸り声も可愛いの反則だと思う。

さらに腕組みをしてるから腕の上にでかい胸が乗っかっている。真剣な気持ちでいるはずなのにボリュームのすごい乳房に視線が惹きつけられた。これは見ないのは無理だって。どんなシリアスな雰囲気でも強制的に釘付けになるって。



「……ねぇ涼くんさ、大前提として涼くんが他の女の子と親しくなるのが私的には絶対無理なのはわかってるよね? ちゃんと言ったよね?」


「ああ、わかってる。わかった上でつばきちゃんをほっとけなかった」


「私の気持ちとしては絶対に無理だし絶対に許せない。

……でも私は、ものすごく納得もしてるんだ」


「……納得?」


「涼くんが困っている人をほっとけなかったっていうのはすごく納得はしてるの。ああ、涼くんならそうするだろうな、って。困っている人をスルーする涼くんとかそれはそれで解釈不一致だし!

……昔、泣いてた私を涼くんは助けてくれた。涼くんはなんだねって安心している気持ちもある」


「楓ちゃん……」


「ああっ……『他の女と仲良くする涼くん許せない!』って気持ちと、『それでこそ涼くん! さすが涼くん!』って気持ちが入り混じってすごく複雑……!」


楓ちゃんは頭を抱えてさっきより髪を振り乱してさっきより唸った。

檻を破壊しようとしている猛獣のようで怖すぎる。俺はヘビに睨まれたカエルのようにピクリとも動けない。



「……というか私の気持ち以前に、私だって生徒の悩みをスルーするわけにはいかないんだよね……なぜなら私は生徒会長だから……! 生徒会長の名にかけて、自分の感情だけで物事を判断してはいけない……!!」



という肩書は、楓ちゃんの誇りでもあり縛りでもある。

楓ちゃんは重くて怖いけど、真面目で優しい女の子だ。楓ちゃんならきっと、気に入らない人でも力になってくれる。そういう信頼があった。


3分くらい経っただろうか。楓ちゃんはピタリと止まり、前を向いた。



「~~~っ……ああもう、しょうがないなぁ! 涼くんは本当にしょうがないな! わかったよ、じゃあこうしよう。

私も野田先輩と友達になってあげるよ!」


「楓ちゃん……!?」


「私と涼くんと野田先輩の3人で友達になろう!

涼くんと野田先輩を2人きりにさせたくないのが本音だけど! あくまで私が野田先輩を監視するのが目的だけど!」


「……ありがとう、楓ちゃん」


「本当はすごくイヤ……ブラックリストに登録した女を受け入れるなんて……でもいつまでもイヤイヤイヤって言い続けるわけにもいかない。私も生徒会長として、いずれ涼くんのお嫁さんになる女として、心が狭い女だと思われたくない。成長して大人にならなくちゃいけない」


キミの胸は十分大人だろ、って思ってしまった。心の中にいるもう1人の自分が本当にゲスくて空気を読まない。でも本当に発育が良いんだ。



「大人の世界は妥協するってすごく大事なことだよね。

最初は涼くんが他の女と会話するだけでも無理だった。でもなんとか妥協して、話すだけなら仕方ないと受け入れるようにした。

他の女と友達になるなんてもっともっと無理……だけどこれもなんとか妥協して、私も友達に加わるという条件で受け入れることにする」


そこで楓ちゃんはビシッと俺を指差した。楓ちゃんの瞳はかつてないほど美しく強い光を放った。



「でもだから!! 私が妥協できる限界ラインは!!

これ以上は今度こそ絶対に無理!! 友達より上の関係なんて死んでも認めないからね!!」


「わかってる! これ以上の関係なんて絶対にないから落ち着いて楓ちゃん!」



つばきちゃんに『好きかも』って言われた時のことを思い出す。

しかしつばきちゃんは人の心がよくわかっていないとも言った。という意味ではない可能性も高い。

あまり真に受けない方がいい。あまり意識しない方がいい。



「涼くん、今後は野田先輩と肉体的接触しちゃ絶対ダメだからね」


「しないよそんなこと……」


「どうだか。涼くんの身体から野田先輩の匂いがするし。抱きつかれたんじゃないの?」


「う……」


なら必ずしも触れ合う必要があるわけじゃないよね。きちんと壁を作ってちゃんと線を引いて、それ以上は踏み込まないように保つ関係でも友達と言うことはできるよね?」


友達か恋人かの線引きは難しいところだな。

恋愛的な意味は一切なくても手を握ったり抱きしめたりする人だっているし、楓ちゃんのように恋人でもない限り触れるのはおかしいと思う人もいる。どちらも間違っているとは思わない。人それぞれだから本当に難しい。



「涼くん、わかった?」


「わかった」


「よろしい。じゃあお弁当食べよう」


楓ちゃんは弁当を自分の太ももの上に置き、となりをポンポンと叩いて俺もベンチに座るよう促した。

弁当もおいしそうだが、その弁当が乗っている柔らかそうな白い太ももの方が俺を強く刺激するのであった。


「どうしたの? ホラ早く座って」


「あ、ああ!」


楓ちゃんの太ももに見惚れて反応が遅れ、慌ててとなりに座った。



「涼くん、今日もお仕置きだからね」


「……はい」



お仕置きが来ることは予想できていたがやはり来た。

昼食も、夕食もあ~んをしてくれなかった。


あ~んしてもらえないことは別にいいと前は思っていたが前言撤回。あ~んがないと寂しいし物足りなくなってしまった。


楓ちゃんにどんどん飼い慣らされていってる証拠だ。どんどん楓ちゃんに依存していく。俺はそのうち、楓ちゃんなしでは生きられない身体になるであろう。楓ちゃんの計画通りなのだろうか。


今日のお仕置きは、あ~んなしだけでは終わらなかった。

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